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集会所に着くと、ミオンはコーヒーを飲みながらソファに座っていた。笑う目の下には隈がある。眠れなかったのだろうか。
「いつ来るか待ってたよ。うっかり寝ちゃうところだった」
「あのあと、ちゃんと寝たんですか?」
「あはは、ちょっとだけね」
周りからルカやミコト、アイとアンが離れたのを見計らって、私はミオンから少し離れたところに座った。ミオンはコーヒーカップを机に置くと、眼鏡を拭きながら話しはじめる。
「で、何か話題は決めたの? 漠然とこの世界について聞いたって、答えるわけが無いじゃないか」
「とりあえず、俺の記憶について聞いてみるつもりです。そもそも、裏切り者が彼奴と決まったわけじゃないですから」
「まぁ、そうだろうね。あれは僕の偏見さ。もしかしたら君の親友が黒幕、なんて面白い展開もあり得るし」
「また物騒な」
ミオンが戯けて話していると、十字架を握りしめたミカが集会所に入ってきた。相変わらず少しでもつつくと倒れてしまいそうな、ふらふらとした足取りだった。
アイたちに笑顔で挨拶を交わすと、ミカは私とミオンが座っている方へと向かってくる。ミオンが何事も無いように笑い返したので、私も慌てて無表情に戻った。
「お二方に神のご加護があらんことを。ミオンさんは寝不足でいらっしゃる」
「学者魂かな、物事が本気で気になると睡眠時間までも削って考え事に耽ってしまうんだ」
「まぁ、ミオンさんらしい。ところで、何か言いたいことがおありで?」
ミカは包帯でぐるぐる巻きにされた細い手を口に当てて笑うと、黄色く丸い目を私に向けた。
まだ何もミカについては触れていないはずだ。言葉を失う私同様、ミオンも少し驚いたように目を見開いた。
思い返せば、ミカもミオンやルカ同様、他人の仕草や表情に敏感だ。私はいつもポーカーフェイスか殺気立った顔をしている、とアンは言っていたが、一体私の何から本心を読み取ったのだろうか。
少し怪しみながらも、なんとか笑顔を作って話しかける。
「少し思ったことがあって。俺の記憶喪失について、何か心当たりとか無いのか?」
ミカは口角を下げて、一色で塗りつぶされたような目を私に向けた。しかしそれも束の間で、ミカは再び黄色い瞳を爛々と輝かせると、突き放すような口調で返した。
「疑っているんですね。特にありませんよ。何か手伝えることは?」
「……特には」
「左様ですか」
ミカは私に返事をすると、一瞥してから会議場の方へと向かっていった。ミカが完全に視界からいなくなると、ミオンは悪そうな笑い声を上げる。
「あの子はさながらテレパシストのようだね。完全に君の心中を察したみたいだ」
「はぁ……一瞬凄い怖い顔されましたけどね」
「君がミカちゃんを疑ってるのがバレたから怖い顔をされたんでしょう? とにかく、手伝ってくれるならいいじゃないか」
お前もそうだろ、と言おうとして口を閉じた。しょせんそう言ったところで、ミオンはたぶん、大正解、とでも言ってニヤリと笑うだけだ。ミオンにとっては毎日が推理ゲームらしい。けれども飽きてしまったのか、私が考えていることを当てると理由は尋ねてこない。ミコトのように探究心は持ち合わせてはいるが、ミオンの探究心は気紛れだ。
ミオンが満足そうに笑ってまたコーヒーを飲んでいるところに、挨拶をしにきたのはナギだった。ナギとミオンが仲良さげに話しているのを眺めていると、しばらくしてナギはミコトと一緒に会議場へと歩いていった。見るかぎり、ナギの大雑把さがミオンの鋭い観察眼を潜り抜けているらしく、ミオンが特に頭を使って話している様子は見受けられない。
会議五分前となってやっと現れたのがルイとタクマの兄弟だった。朝は低血圧らしいルイを引きずりながら、タクマは慢性的な睡眠不足状態で挨拶回りを始める。二人揃ってうとうとしている顔がそっくりで、兄弟らしさをさらに増していた。
私が軽く会釈をしたあと、ミオンが袖をぐいぐいと引っ張ってきた。
「僕さ、タクマ君が苦手なんだよね」
「何で今そのことを?」
「ルイ君も何考えてるか分からないけど、ある程度あの人はああいう人だって納得してるんだよ。でも、タクマ君なんかもっと何考えてるか分からないし、常に僕たちに殺意を……あぁ、いや、ユリさんが気にしてないならいいか」
「俺からしたらただの不健康なコミュ障ですよ」
「うん、だから気にしないで」
ミオンはそれだけ言うと、私を置いて会議場へと歩いていってしまった。《共有者》で仲間、というのがゲーム内だけの設定だとしても、あまりに冷たすぎるのではないか。昨日の温厚な光景はやはり幻想だったらしい。
私もあとに続いて会議場へと入ると、丸い机の周りに村民たちが並び、真ん中に置かれた花の入れられた花瓶の数々と、黒光りする拳銃を見つめていた。
ナギがきょろきょろと村民たちを見回して少し唸った後、明るい声をかける。
「大丈夫だよぉ、最短で二日で終わるんだよ! もっと言えば、《人狼》二匹を殺すだけで終われるかもしれないんだよ!」
「そうだよー、きっと大丈夫! 焦らずに人狼を探そう!」
続けて、ルカも持ち前のポジティブさで皆を元気付けた。村人たちの頬がわずかに緩む中で、ミオンだけは冷たい作り笑顔を浮かべていた。
ミカが白のロザリオを握り締めて神への祈りを捧げてから、会議の開始を告げる。なにかとミカはロザリオを握り締めているが、癖なのかもしれない。
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