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もう半袖半ズボンで体育を行う季節だ。数人の生徒はタオルを首に巻いている。肌を焦がすような暑い太陽の下、ジャージを羽織って、私は低い声で唸っていた。走り幅跳びを終えた二人の少女は、楽しそうに話しながら、私のもとへと歩み寄ってくる。
私は顔を上げた。二人の琥珀とターコイズが私を見た。琥珀はケラケラと笑い、ターコイズは眉を下げる。
「もう夏なのに、長袖とか意味わかんないんだけど。見てるだけで暑苦しいわ」
「もしかして、寒いですか? 熱でもあるんじゃ……」
「大丈夫だから。単位を取るためには見学でも……」
「蜜柑、陸上嫌いだもんねェ。良い点獲れなさそうだし」
椎奈はそれだけ言うと、満足げにして踵を返した。透子は慌ててその後ろを追う。私はまた、木陰で呻くだけの作業に戻った。
二人は列に戻ると、また楽しそうに話し始める。先生に点呼をかけられ、二人組を作る際も、椎奈は元の友達ではなく、透子のもとに留まる。私がいなくても、困ることは無い。もっとも、私がいるときは、人数の関係上三人で組んでいるのだが。
椎奈、私の「センパイ」は、他の生徒のことを「媚びへつらい笑うのだけが上手い、つまらない屑ども」とまで吐き捨て、興味深い人間である透子と私と関わるようになった。特に透子とは良い親友になれたようだ。
しかし、私とセンパイに至っては、そう上手くは行かない。私にとっては、二人は知りえない生き物だ。
私には、今も椎奈と透子が私と釣り合う意味が分からない。私を無条件に愛する母親のような存在たちと過ごすために、何の対価を払う必要が無いと二人は何度も私に言い聞かせた。それでも私には、まだ信じられない。
ただ、私は、聖母の胸の中で抱きしめられているだけだ。私という神様を信じるのをやめて、二人の鼓動に全てを委ねただけなのだ。
ジャージの中の熱気は、人肌に触れるがごとく、少し汗ばむくらいで心地良い。うつらうつらと船を漕ぐ。
ふとまぶたを押し上げれば、透子が助走の後、ぴょん、と遠くに飛んでみせる。天使が片翼で跳ねる。男子から上がる感嘆の声。女子から飛ぶ称賛の声。距離を測っていた椎奈が、新記録を伝える。
「これは文句無しで満点だね!」
椎奈の言うとおり、透子は書道だけではなく、運動にも長けているらしい。本人が言うには、剣道、空手、柔道など、日本古来の武道は一通り行ったらしい。初夏を迎えた頃には、クラスメイトからの評価は「イケメン」に統一されていた。
称賛を聞き、透子は顔を赤くして俯く。肩に手を置かれれば、へにゃ、と固まった顔を崩して笑ってみせる。私はまたジャージを頭から被る。
暗くて静かで温かい。いつか、そんな感覚は稀有なものではなくなって、寒がる必要は無くなるのかもしれない。今は常に寒がって、二人の聖母にひっついている。素直になる暇も無く、感謝を繰り返して、貧者のように深く眠る。
いつの日か、二人は私の友達になるのだろう。
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