幕間:『神崎蜜柑の邂逅』

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 誰も動かない。誰も喋らない。空は青い。雲は静止する。鳥は羽を上げたまま。私達の足音だけがある。 「目的地はどこ? そのペン、でかくない?」 「アタシの黒歴史が生み出した武器だ。アタシだけが軽々と使える」 「っていう設定?」 「いいなぁ、オレも武器とか欲しいです」 「やめときなって、此奴ならマジで作るから」  私は大きな羽ペンを引きずりながら、透子と椎奈を先導する。椎奈は片手にカスタードパンを携え、短いスカートを揺らしてついてくる。透子はきょろきょろと周りを見回しながら、椎奈に分けてもらったカスタードパンの欠片を食べている。  道路上の中途半端な場所で止まった車も、もう動くことは無い。信号機の光は永遠に青にならない。ここは、本が閉じられた物語の世界だ。ただし、終わらなかった物語だ。  筆者が途中で書くのをやめてしまった、時の止まった世界だ。  風一つ無い、涼しい秋の空の下、私達の学校へと向かう。「神崎光が丘高校」という、フィクションの学校。この学校の生徒は、自分たちがフィクションの存在であると、誰一人として知らない。  そして今の私も、神様の力を持った、キャラクターの一人にすぎない。人間というフィクションの存在だ。二人のフィクションに依存しなくては生きていけない、ありきたりで、人間博物館に飾るのも鬱陶しい。  そう、そこで、私の独白はおしまい。神様としての戯言は無い。私はもう、ただの物語の魔法少女だ。 「神様のお仕事が見られるってのも、なかなか面白いね」 「オレも憧れちゃいます」 「そういいもんじゃない。ただの黒歴史だ」
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