幕間:『朽ちた玉座に座す者』

3/15
前へ
/15ページ
次へ
「君、普段は何してるの? 趣味は?」 「趣味、ですか……? えっと、ゲームも好き、ですし、ギターも弾きます、し、勉強も好きです」 「多趣味なんだね」 「えっと、その……無理して話さなくても、いいんですよ……? 僕のこと、気に入ってないのは分かってるので……僕に付き合う利益も、無いですし」  僕は数学の問題に頭を悩ませながら、拓馬は缶コーヒーを両手で持って飲みながら話していた。  結局、飛鳥と晴彦が仄めかしたことが頭から離れなかった。自分の燃えたぎる好奇心が、なぜ彼を厭うにあたるかを突き止めたいと叫んでいるのだ。それに、どこをもって似ているのか、僕にはまだはっきりと分かっていない。  もちろん、退屈な人間と話すのは退屈しのぎにすらならない。有益なことは何も無い。しかし、この観察と研究が終わった暁には、何かしら有益で面白いことも見つかるだろう。  会話も生まれないので、拓馬に目もくれず、数学の課題を進めていくも、なかなか解けない。理系で三年間やってきた人間には、やはり計算速度で負けてしまう。単純計算ですら手間取るようでは、複雑な入試問題には叶いそうもない。  沈黙が続く。他の部員の談笑の中、異質な気配。顔を上げれば、缶コーヒーを持った拓馬は、ずっとこちらを見つめていた。すぐに顔を下ろし、再びペンを動かす。 「何か?」 「ひっ、いや、何でもないです」 「はっきり言いなよ」 「……その、四則計算も間違えるのかな、って」 「は?」  顔を起こせば、拓馬と目が合う。すぐに手を止め、計算式に目を移せば、最初の計算から大きく間違えていることに気がつく。すると、他の式に代入しても答えは出ない。僕が必死に解の公式を使う必要も無い。  大きく溜め息を吐き、改めて解き直す。エックスの値は一桁の整数。今までの苦労は何だったのか。  再び拓馬に目をやると、缶コーヒーを一口飲んで息をついていた。この分野は一年生の初期で学ぶことの応用であるから、現役ができるのは当然だろう。 「ありがとね」 「え? はい、いえ、お気になさらず」 「君って数学が得意みたいだね。さすが、真面目にやってる現役は違うよ」 「やればできるでしょうに」  拓馬の言葉使いに、ふと、冷たいものを感じる。思わず彼の顔をまじまじと見つめてしまった。彼とまた目が合えば、僕の映る目が僅かに光を持った。その後、彼は手で顔を覆って、すみません、と二回言った。  その慌て方に、他の同期が、彼のことを可愛いと称した理由を察する。なるほど、確かにこのような照れ方をされれば愛くるしいと感じるのも妥当だ。  しかし、僕はむしろ震えた。あの、うじうじして自分を卑下する拓馬から、一瞬でも突き離すような言葉が出たのだ。今までに見たことがない新しい顔だった。  僕の知っている、ただつまらないだけの彼とは違った。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加