0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は何も言えずに英語の解答用紙を見つめていた。
有名私大の入試問題から多く出されていたのだが、尽く間違えた。ケアレスミスなどでは決してない。本当に理解が及ばなかったのだ。
残り十分を迎えて、僕には珍しく冷や汗をかいていた。何度も瞬いた。
解けない。分からない。どういう構造になっているのか、読み解けない。分かる単語と分からない単語の組み合わせで、どう訳せばいいかが分からない。
他の科目は目標に届いていたのだが、英語だけは手が届く希望すら無かった。僕よりも点の高い人間など探せば何人も見つかるだろう。
「でもさ、英語の平均点ズタボロだったじゃん? 気にしなくていいよ」
「でも、世良は点数高かったでしょう」
「所詮八割だろう。お前だって平均点を超えてるんだ、別に良いだろうが」
「良くないんだよ。六割なんて見せたらどうなるか……」
自分としては、問題が解けないという良い経験が早いうちにできて良かったと思っているのだが、現実はそう甘くはない。この点数を見せればどんな反応をされるかは明らかだ──絶対評価と題した相対評価で点数を見て、平均点も難易度も考慮せず、情けない、遊んでいるからだ、と文句を言われ、挙句の果てに小説まで取り上げられるだろう。
それに、良い経験であったとはいえ、落胆していないと言ったら嘘になる。実力が及ばず、努力は報われなかった。目標に届く実力を親に見せつけるのが目標だったというのに。
「やっぱり焦ってるよね、未音ちゃん」
「焦ってはいるかもね」
「体壊さないでね? 私、本当に心配してるんだよ」
何を他人事みたいに、と返す。飛鳥は保健室の常連であり、体調不良という言葉を擬人化したような人間である。いつも無理をしてからかわれているのは飛鳥の方だ。
効率的に行うなら、これしか無い。倒れたって死にはしない。親からの目もあるから、うかつに倒れることもできない。
本当に気をつけてね、と飛鳥は繰り返した。晴彦はまた飛鳥自慢の料理を食べさせられつつ、僕のことをじっと見つめている。心配されてしまっているらしい。
喉奥に溜まっていた息を大きく吐き出し、伸びをする。細長い白熱電球が僕を冷たく見下ろしていた。頭が痛んで体が重たい。
最初のコメントを投稿しよう!