二日目

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「これはどういうことなんだ」  私が問うと、図書室の司書であるかのように寛いだ風香が本から顔を起こす。  えぇ、とつまらなそうに声を出すと、風香は星空の如く青い目をすっと細め、鼻を鳴らした。 「こちらこそ聞きたいよ。どうして『オリジナル』がここに?」 「アタシはこの物語を『校正』しにきた。どうしてアタシの世界と物語世界が繋がっている?」 「繋げた覚えは無いよ? それに、この世界の私は、他の世界のことは知らないんだ」 「こんなところで寛いで、関係無いと言われる方が怪しい」  風香は肩を竦めて、溜め息を吐く。そして、本をぱたんと閉じた。 「僕は本当に関係無いんだよ。『風香が美香の誕生日パーティを開いた』という設定があるがゆえに、この世界に取り残されちゃったんだ」 「……アンタ、カレンダーを見た? 訳の分からないことを言ってる自覚、ある?」 「え、おかしいこと言ってるかな?」  私はただ、狼狽した。風香が無垢な顔で首を傾げている。彼女は本当に何も知らないらしい。  羽ペンを片手に、教室を出る。この空間は狂っていて、階段の文字盤も読めたものではないし、外は真っ黒な空間が続いている。外を思うと吐き気がしてくる。まさに壊れた世界、という感じだ。  「校正」の役目は、壊れた物語を「終わらせる」ことだ。もしも、物語が書き換えられ、辻褄が合わなくなったとしたら? もしも物語が何らかの影響で、現実世界へ滲み出たとしたら? もしも物語に終わりが無く、永遠に進まぬ時をキャラクターが過ごすとしたら?  現実世界と物語世界がリンクしてしまった場合、我々は簡単にシンデレラを寝取ることができるし、アリスの世界を壊すことができるし、白雪姫を監禁することだってできる。そんなことが起きたら、元いた世界は、主人公を失って、永遠に終わらなくなってしまう。  ときに、こんな奇妙な世界で、ただ現実世界とリンクした──つまり、シンデレラが、アリスが、白雪姫が、現実に現れた──だけで、バグを起こして永遠に終わらなくなってしまうとしたら、きっとキャラクターたちは発狂してしまうだろう。だって、衣食住を確保することも、挙句の果てに、この校舎から外に出られもしないのだから。
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