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「どうした?」
更に眉を寄せ、ひと言たりとも聞き逃すまいと聴覚に意識を集中させる。
最も危惧する事は伽耶乃の復活だ。またどこかで"不可解な事件"が起きたなら、背後に伽耶乃がいる事は間違いない。
だが、胡麻が発したのは意外な言葉だった。
『由依ちゃんが、いなくなったっす!』
「……は?」
最悪の事態を想定していたとはいえ、これはあまりに予想外だ。意外すぎて、言葉の意味を呑み込めなかった。
『だからぁ、由依ちゃんがいなくなっちゃったんすよ!』
半ば自棄になったような口調で胡麻が吠えた。
『由依ちゃん、あれからあたしの事すげえ気にかけてくれてて、いつも顔見に来てくれたり、電話くれたりしてたんす。それが1週間前からパタッとなくなって』
「……体調を崩したとか」
『こっちから電話したけど、電源が入ってないって、繋がんねえんす』
「……着信拒否」
『だったらこんな騒がねえでひっそり泣きますって。変だなって思ってたら、今朝、香月さんがこっそり教えてくれたんす。由依ちゃんがどこにもいないって』
鷹見の胸に、由依に関するさまざまな憶測が一度に飛来した。真っ先に浮かんだのは自死の可能性だ。それとも何か良からぬことに巻き込まれたか、あるいは──
『由依ちゃんがいなくなってから、沼池もちょくちょく姿を消してるっす』
ああ、と鷹見はぼんやりと天井に目を向けた。
不器用な由依の事だ、真っ向から沼池に反抗し、逆鱗に触れたのかもしれない。沼池が由依の失踪に関与しているなら、今度は顔を靴で踏みにじられるだけでは済まないだろう。
「……香月はどうしてる?」
『勤務時間以外、由依ちゃんの捜索に走り回ってるっす。あの様子じゃちゃんと寝てないっすよ。倒れなきゃいいけど』
「なにか、手がかりはないのか」
『由依ちゃん、もともとそんなに家にも帰ってなかったし、南雲たちにも聞いてみたけど、やっぱここ1週間連絡とれなくて心配してたっつうんすよ』
「沼池は?」
『ぶっちゃけ、直接話す機会がねえっす』
つまり、手がかりゼロだ。鷹見は深々とため息をついた。
どうする?
そう己に問い掛け、ふと笑みをこぼした。
どうするも何も、やることは決まっている。
「消去法でいこう。考えられる可能性をひとつずつ潰すんだ」
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