エピローグ

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 鷹見は慌てて頭を振り、沸き起こった不安を締め出した。今、由依には香月や胡麻といった仲間がいる。孤独だった当時とは違う。  ……仲間を巻き込みたくない、などと言い出しそうだ。  鷹見は机の上に置いてある私物の携帯を眺めた。由依に電話してみようか。用件はなんだっていい。その後の伽耶乃についても知りたいところである。  携帯に手を伸ばそうとして、ふと思いとどまる。由依にしてみれば、俺はほんの短い期間、一緒に仕事をしただけの相手だ。今さら連絡してくるなど迷惑かもしれない。 「電話すればいいじゃん」  ふと届いた言葉にはっとなって顔を上げると、ニヤニヤしている真向井と目が合った。ギプスが外れたばかりの左腕の筋力を早く取り戻そうと、常にハンドグリップをリズミカルに握っている。 「気になってるんでしょ、由依さんのこと」 「気になりますよねえ、俺だって気になるもん」  真向井の隣で、パソコンのキーボードを叩きながら影山が独り言のように呟く。 「もーっ。セキュリティ頑丈すぎ。直接本庁に行っちゃおうかなあ」  あの日以来、影山は沼池のしっぽを掴もうとパソコンにかじりついている。違法行為である事など百も承知だが、沼池こそ人権侵害の罪を犯している。鷹見と真向井はそれを知った上で影山を見逃している。影山ひとりに罪を負わせるつもりはない。  そうした部下の様子を、特4の係長である尾澤は静観していた。警視庁から応援として由依たちを呼び寄せたのは沼池だ。鵺の存在を隠し、EFUなる組織を統括していた──所轄署の管理官としてだけではない、別の顔を持つ事くらい想像に(かた)くない。部下が沼池について調べているという事は、まだ他になにか隠しているのだろう。  自分だって警察官だ、隠された不正に気付いたなら、それを暴く義務がある。もし部下たちに危害や、なんらかの圧力が加わりそうであれば、俺が矢面(やおもて)に立とう。昼行灯(ひるあんどん)は昼行灯らしく戦えばいい。 (俺、ちょっとカッコいいな)  つい口もとをにんまりとゆるめた時、鷹見の携帯がくぐもった音をたてて振動し、尾澤はびくりと身を竦めた。 「あっ、噂をすれば、じゃない?」  興味深そうに覗き込んでくる真向井を横目に携帯を手に取ると、鷹見は眉間に皺を寄せた。 「胡麻だ……」  本庁に戻ってから、胡麻が連絡をしてきた事は一度もない。懐かしいというより訝しみつつ携帯を耳に当てた。 「はい──」 『鷹見さん、大変なんすよ!』  周囲を気にしているのか、取り乱しながらも圧し殺した胡麻の声が鷹見の鼓膜を震わせた。
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