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翌朝、拓馬はいつもどおりの時間に起きた。
目をこすりながら台所にむかい、いつもどおりに料理の支度をする。榊原 瑠衣が起きてくるまでに味噌汁と焼き魚を用意すると、椅子に着いて待っていた。
しばらくすると、すでに着替えた瑠衣が部屋に入ってくる。何の準備もしていない拓馬をまじまじと見つめた。
「具合は悪くなさそうだな」
「……今日は休むよ」
「どこか行くのか?」
「奏さんと、海に」
少し顔を伏せがちにして答える拓馬を、瑠衣は無感情な顔で見下ろしていた。それが彼の一番親しげな表情であることは、互いに理解している。
「帰ってこいよ」
「……瑠衣」
「勝手に死なれたら困る」
「瑠衣らしくない返答だ」
「俺にとっても、お前は必要不可欠だから」
瑠衣が席に着くと、拓馬は口角を緩めた。そして、小さく声を上げて笑う。目を細め、自然に笑む。
──奏さんにも、瑠衣にも、お見通しらしい。
朝食に手をつける瑠衣を見据え、拓馬は実に幸せそうな顔で言った。
「帰ってくる、と思うよ」
「……何だよその顔、気味悪いな」
瑠衣は味噌汁から目を離さないまま、穏やかにそう答えた。
いつからそんな顔ができるようになったんだ、と続けて言った瑠衣に対し、拓馬はきょとんとして見つめ返すことしかできなかった。
ふと、拓馬は首に手を当てる。そこにはもう黒ずみ始めた青い痣が巻かれていた。
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