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終点の案内で二人は目を覚ました。片道四十分程の鈍行は終わった。
拓馬はまだ眠気の覚めない奏の手を取ると、海に程近い駅のホームに降り立った。
顔を叩いてそのまま包むような冷たい空気。思わずタートルネックに顔を埋め、秋風を避ける。奏も大きな欠伸をしつつ、秋空に手を伸ばした。
「さーて、まずは早めのお昼ご飯!」
「お昼……僕は、結構です」
「ううん、拓馬君にも食べてもらうよ。オススメのアイスがあるんだ!」
確かに、食の細い拓馬は、いつも昼食を簡易な栄養食品で済ませていた。奏はそれを心配して、しばしば弁当を持ってくることもある。
辿り着いた喫茶店は、平日の昼下がりということもあり、人の少ない落ち着いた雰囲気で二人を待ちわびていた。
カラン、と高い音を立てたベルの先、観葉植物に囲まれた席に座り、二人はアイスクリームを待っていた。
届いた濃い抹茶をレベル順に並べて、奏に渡されたスプーンで食べ比べをする。口の中が冷えれば、二人でコーヒーを頼む。しかし、カフェイン依存症を患う拓馬は、奏に半分ほどコーヒーを飲まれてしまった。
ブラックコーヒーの香り、抹茶の香りが混じって、二人はその甘苦さにしばし浸っていた。
「美味しいなぁ、噂通りだね」
「奏さんは流行に聡いんですね」
「実は、ね」
誇らしげに言って顎を上げる奏を見ながら、拓馬はカフェインが体に回っていく様子を想像していた。
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