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急行列車、人混みに囲まれても、二人の周りは静寂に包まれていた。周りの人々が話していても、二人には関係無かった。
首を動かして寝ている奏の隣で、拓馬は携帯を開く。瑠衣からの連絡があった。肩に頭を乗せてくる奏に少し寄りかかり、返信を打ち込む。
「夜ご飯は買ってきたから」
「ごめん、今から帰る。明日の朝ご飯は作るから」
「帰ってくるようで何より」
瑠衣が帰りを待っている。電車は家に向かって、明日に向かって、ガタンゴトンと月並みな音を立てて進んでいく。
その先はまだ海辺ではない。生きろと吠え立てる電車の音は、海辺に行くことはまだ許していない。
拓馬は携帯を閉じ、寝息を立てる奏を見ると、繋がれた片手を強く握り、自らも眠りについた。
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