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海を臨む町、紺碧ヶ浦に霜月の雪が降る。
昼休みを迎えた高校は、その寒さともの珍しさに奇妙に高揚し始めていた。
それは三年の学級でも同じことで、級友達が昼食や参考書を机に置いて、次々と窓に群がっている。
窓際で食事を共にしていた、目の前に座る生徒も、楽しげに外を気にした。
「見て、凪衣。雪だよ、それも粉雪。これが初雪かな。今日は良い日だね」
薄茶色の髪の男子生徒は、降る雪を上機嫌に祝う。
「寒くて帰宅が面倒なだけです。寧ろ帰りたくありませんが」
一方の僕は、自分の白い髪を弄りながら、寒さを不機嫌に呪う。
対照的な僕達は、しかし机を合わせ、共に弁当を広げている。
彼は屈託なく笑い、僕の態度を全く気にせずに話を続けた。
「つれないね。ああ、今年はきっとホワイトクリスマスだよ。ちらつく粉雪に、きらびやかなイルミネーション。最高だと思わない?」
「思わないし、白は嫌いです」
それを更に突っぱねて、僕は窓とは反対側の教室に顔を逸らす。
すると、窓辺に寄らず、教室の中央で食事を続けていた級友の一団と目が合った。
彼女達は、遠巻きに外の情景を眺めていたのかもしれないし、悪目立ちする容姿の僕達二人の一方的な会話に唖然としていたのかもしれない。
僕は机に肘をつき、目の前の男子生徒にも、目が合った級友にもバレないように、手の中に小さく溜め息を吐き出した。
雪とクリスマスを見る度に、僕は一つの過去を思い出す。
それは、目の前に座す薄茶色の髪の生徒と、僕が出会った頃。
空気が刺すように冷たかった季節の、思い出話だった。
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