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僕──夏臥師 凪衣は、旧家の跡取りとしてこの世に生を受けた。
祝福される筈だった男児は、されど一族から腫れ物のように扱われる存在となった。
原因は数あれど、最たるものは、黒髪茶瞳の両親から生まれた僕が、月白の髪と灰青の瞳を持って生まれたことだろう。
同じ日に、同じ腹から生まれた双子の妹は、両親と同じ黒髪茶瞳だったにも関わらずだ。
親族の、とある者は、これを類稀なる吉兆だと褒めそやす。
また、とある者は、これを祟りだ呪いだと怯えた目で見る。
期待に畏怖、好奇に猜疑。
そんな視線を一身に浴びながら、同じ家で暮らす者に疎まれて育った。
そのためか僕は、成長に伴い自然と、人と距離を置く癖が身に付いていった。
家名や異常な容姿も手伝って、周囲にも、敢えて僕に近付こうとする者は殆どいなかった。
そうして僕は、友人と呼べる程の特別な存在を持ち続けることのないまま、小学校を卒業し、中学生活の半分を過ごしたのだった。
そんな折、中学二年の晩秋のことだった。
僕の学級に、一人の男子生徒が転入してきたのは。
その転校生──桜・J・フリーマンは、日本人離れした容姿の持ち主だった。
薄茶色で、緩く波打った柔らかい髪に、灰色の瞳、彫りの深い顔。
中学校には髪を染めた生徒も何人かいたが、桜は明らかに異質であり、僕同様に周りの目を引いた。
周囲からの好奇と不審の目は、僕が普段から受けているものと同質で。
僕は、桜への同情めいた共通意識を感じない訳ではなかった。
しかし桜には、僕とは決定的に違う箇所があったのだった。
一つは桜が、その明朗な性格から、一躍学級の人気者となったため、僕のようにいつまでも遠巻きに眺められ続けることにならなかったこと。
そしてもう一つは、桜の容姿が、クォーターであるが故のものだということ。
同じく先天的なものでありながら、世間一般の常識で言うところの『道理に合わない』容姿をした僕とは、その点で根本的に違っていた、ということ。
そのようなことから──否、初めから興味そのものが、然程なかったのかもしれない──僕は、特に彼と関わろうとはしなかった。
しかし一方の桜は、学級に馴染むと直ぐに、はぐれ者の僕にも興味を示すようになった。
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