junior high school days 1

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 桜が級友に僕のことを尋ね、悪評を垂れ流される現場を、何度見たことだろうか。  但し、それは僕にとって全く負の要素ではなかった。  奇異な髪色に仲間意識を感じたのか、彼に似た瞳の色に関心を持ったのかは分からないが、桜がそんな興味本位の理由で自分に近付くのを抑止してくれるなら、クラスメイトには感謝したい程だった。  そのようなことで、桜の心中における『夏臥師 凪衣』の印象は、二人の初対面の時までに、随分と悪くなっていた。  筈だった。  そこまで話を聞いて、桜が自分に話し掛けてくる筈はないと、当時の僕は高を括っていた。  桜が僕の噂話を耳に集めて、益々好奇心を募らせていたなどとは露知らず。  そして、初対面は急に訪れた。 「初めまして。一緒に帰らない?」  何の変哲もない、通常どおりの帰り道だった。  突然後ろから声を掛けられ、僕は至極驚いて歩を止めた。  振り向いた先にいたのは、桜。  僕は思わずその場に立ち止まり、暫く彼を眺めてしまった。  彼の行動の理由を疑い、気楽そうな笑顔に呆れた。  要するに、頭だけが高速回転して、身体は驚きのあまりに硬直して動けなかった。  下校途中ということで、学校や家にいる時よりも遥かに気を抜いていた僕が、冷静さを取り戻すまでには若干時間がかかった。  漸く桜をきちんと認識し、『声を掛けた』という行動の背景を推察すると、僕は見開いていた目をすっと細め、冷ややかに桜を見据えた。  そして。 「すみませんが、一緒には帰りません」  それだけを短く言い放ち、桜に即座に背を向けたのだった。  突然の出来事に対し、対応に迷った僕が取った行動は、拒絶。  桜は、気さくに話し掛けてはきたものの、僕の冷淡な態度を受けてしつこく食い下がることもなかった。  不意打ちに冷静さを失いかけた僕は、その日家に帰ると、この初対面の結果にこっそりと安堵して、もう桜が自分に声を掛けてくることもないだろうと予想した。  『一人でいる』という現状に、介入されることを拒んだことを、後悔する筈もなかった。  僕は、一人でいることを望んでいた。  他人を遠ざけることを、普通だと思っていた。  だから、桜が食い下がったのはその日限りのことだと知った時、僕は絶望にも似た思いをしたのだった。
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