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初対面の日からほぼ毎日。
僕が拒絶をし続けても、桜は僕に付き纏った。
休み時間。
移動教室。
下校時間。
事あるごとに──否、事がなくとも──彼は僕に接近を試みた。
「僕には誰かと交友したいという意思はありませんので」
「はは、君にあるかないかは問題じゃない。僕が仲良くしたいだけさ」
冷たくあしらおうが、気にされず笑い飛ばされて。
「僕といるとニンジャに襲われるから、近付かないでください」
「はは、ボクの家は大きい社長さんのものだから、闇討ちなんかされないさ!」
旧家の闇を仄めかそうが、胸を張られて。
「夏臥師君、聞いてほしいことがあるんだ。僕は最近クラスメイトから『チャレンジャー』と呼ばれるようになったんだよ」
「そうですか。良かったですね」
ある時ついに『挑戦者』の称号が与えられたことを、桜本人が直接自慢してきたこともあった。
いつも良い笑顔で寄ってくる桜を、僕はいい加減面倒臭く思いつつも、観念することなく、その都度律儀にお断りしていた。
できるだけ事務的に。
できるだけ簡潔に。
感情の篭らない僕の拒絶は、思い切り手を振り払うよりも遥かに淡泊で温度のないものだった。
桜はそれでもめげずに僕の元へ来たのだから、両者とも頑固だったのだ。
攻防戦は続き、均衡は中々崩れなかった。
僕達二人の関係に変化が訪れたのは、クリスマス直前のことだった。
その年は奇しくも例年より雪がちで、通学路上の車の僅かな積雪に、子供が群がる様子がよく見られた。
雪の降る朝は若干温く、白い粉雪は老若男女に愛される。
同じ『白』であるのに疎まれる僕にとっては、自分自身も雪も憎らしいものでしかなかったので、気分が日に日に沈んでいっていた。
ところが一方の桜は、反対に上機嫌を隠そうともしなかった。
どうやら彼はクリスマスが好きらしく、ホワイトクリスマスを勝手に予報しては、連日無邪気に喜んでいた。
学校中が浮足立っていた。
桜はその中央に、僕はその外にいた。
雪を切欠に、僕は、自分と桜との間にある壁を感じるようになった。
今まで『桜をどうやって拒絶するか』と、そればかりに気を取られてあまり目に入れていなかったものが、浮き彫りになって、鮮やかに僕の前に現れたのだ。
陰気な自分と、陽気な彼。
学級の異端児と、人気者。
卑屈な自分と、自分の卑屈さを痛感させる、屈託のない彼の態度。
意地の張り合いを繰り返し、近寄り過ぎて曖昧になっていた、自分と桜との間の境界線が、この時になってその存在を誇示するようになった。
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