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それまで以上に、僕は神経質になった。
クリスマスの話題が出れば、嫌いな色を連想して苛立ち。
町のイルミネーションを見れば、その煌めきを恨めしいとさえ思い。
賑やかな級友たちは、桜を囲んで、僕を除外する存在。
桜を喜ばせる全てのものは、僕にとっての敵だった。
降り積もる負の感情は、悪循環を引き起こして、僕の思考を後ろ向きに引っ張った。
桜に対する些細な疑問が、不信感へと色を変えて。
事務仕事のように繰り返した拒絶にも迷いが生じた。
そして、それが露わになったのは、終業式の数日前。
「夏臥師君、これから帰り?」
雪降る帰途、グレーのキャスケットに白い粉雪を纏いつつ、独り下校する僕に、桜はいつもどおり愛想良く話し掛けた。
「はい、そうで──」
機械的な返答のために振り返った僕の目に映ったのは、桜のコートに付着した、幾つもの雪玉の跡。
明らかに雪合戦の痕跡と分かるそれを見た瞬間、僕の中で燻っていた何かが一気に爆発した。
何故、自分に声を掛ける。
何故、楽しい他の級友との遊びを中断してまで、自分の後を追ってきたのか。
疑心暗鬼になり。
笑顔の桜の、読めない本心に、言い知れない畏れを覚えて。
気付けば僕は力一杯、桜を睨んでいた。
「もう僕に構わないでください! 苦痛、なんです!」
初対面の時の、冷たい拒絶とは明らかに異なる、感情の吐露だった。
声を荒げたことで、僕は漸く思い至った。
比較をして、自分との差異を探してしまう程に、自分が桜との共通項を求めていたことに。
桜が自分に構う理由が不明瞭であることが、苛立ちを募らせる最大の原因であったことに。
海風の冷たい日だった。
その時の潮の香りと、頬に当たる風の冷たさは、鉛のように僕の中に沈殿して、いつまでも、いつまでも、心の奥に残り続けた。
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