47.急襲

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47.急襲

「あれ? 後ろに誰かいるね」  沈み始めた日の光の中、森の中を池に向かって馬を走らせていた三人は、自分達の後ろで馬を走らせている者がいることに気がついた。  墓地にはサザ達以外は誰も居なかったようだったが、見逃していたのだろうか。 「念の為、私達が池に行くのを見られない方がいいな。  私達の速度を緩めて、追い越してもらおう。私と道を相談するふりをして道の端に寄ってくれ」 「分かった」  カズラの提案にサザは頷くと、二人は馬の速度を緩めながら道の端に寄った。話をするふりをしながらそっとこちらに向かってくる人物の方を見た。  しかし、馬に乗った人物は逆に、急に速度を上げてサザ達に近づいて来た。 「ん……?」  馬に乗った人物が右手を横にかざすと、その手の中に夕日の中に刃が反射した冷たい光がきらめいた。手に長剣を持っている。 「え!?」  サザ達はすでに馬の速度をかなり緩めてしまっていたため、今からでは急激に追い上げてきた男から逃げられない。  しかも、カズラとアンゼリカは武器を持っていないのだ。サザが二人を守るしかない。 「カズラ!! 先行って!!」 「……ごめんサザ……!」  サザはカズラの馬の前に踊り出ると、急いで荷物袋からナイフを取り出し、狙いを定める。 (間に合え!)   サザはナイフを持った手を振りかぶり、相手の剣と腕のほんの少しの隙間を狙って、真っ直ぐにナイフを後ろに投げた。  剣士の長剣のリーチがサザに届くぎりぎりのところで、サザの投げたナイフが胸に突き刺さる。血を吹いた男が馬から倒れ落ちた。 「……逃げよう!」  サザは男の死を見届ける間もおかずにカズラと並走して馬を全速力で走らせた。  直後に、馬に乗った人影が木陰から背後に十人ほど現れ、サザ達の方に向かってきた。  皆長剣を持っている。剣士だ。統一感の無い服装からすると軍人ではない。傭兵のようだ。 (何で……!?)  何故、こんなに大人数の剣士に襲われているのか。サザは全く見当がつかなかった。でもとにかく、逃げないとやられてしまう。  暗殺者のサザは、隠密行動の(のち)に暗殺で相手を殺すのが大前提だ。  ユタカを襲ってきた暗殺者達のように人海戦術を使うなら別だが、剣士と面と向かって戦って勝つような戦力は、そもそも持ち合わせていない。  長剣とナイフではリーチが違いすぎて、圧倒的に不利なのだ。  サザは剣士と戦ったら、かなりの苦戦を強いられてしまう。 (……まずい)  できれば戦わずに逃げ切りたい。  サザはそのまま全力で馬を走らせたが、城まではまだずいぶん距離がある。  サザの馬は疲れてきたようで、速度が出なくなってきた。  最前列の三人の剣士が少しずつ、少しずつサザに追いついてきた。 (もう、戦うしか無いか……!)  サザは二本のナイフを鞄から出し、一本の刃の背を噛んで横向きに口に咥え、一本を手に取った。 (ナイフ、もう二度と使わないと思ったのにな!)  サザは手綱を握りながら後ろを振り向き小さく振りかぶると、手に握った一本を真後ろに近づいてきた剣士に投げつけた。  剣士は剣を振ってナイフを弾き落としたが、すかさず、サザは素早く口に咥えた一本を空いた手に取り、間髪入れずに連続して投げつけた。  立て続けに投げられたナイフを予測できず避けきれなかった剣士が落馬し、後ろの二人を巻き込んで転がり落ちた。 (よし……! これでいこう)  同じ方法でサザは二、三人ずつまとめて倒し続けたが、残り一人のところで、手元のナイフが一本になってしまった。  サザは最後のナイフの横向きに口に咥えると、手綱を握り直す。  これを外したらもう後がない。 (城までこのまま逃げ切れるか……?)  しかし、サザの馬は段々と速度を落とし始めている。限界が近い。  追いついてきた剣士の剣のリーチに、サザの馬が入る。サザの身体がリーチに入るまで、あと数秒だ。 (くっそ……! やるか!)  その瞬間、何故か相手の剣士は剣を鞘に戻した。剣士がすぐ近くまで迫ったサザの身体に、直接手を伸ばして掴みかかった。 (?!)  剣士は馬を走らせたままでサザの体を掴んで、そのまま落馬させようとする。 (そうくるなら……!)  サザはそれに乗じて、引っ張られるままに女の馬に乗り移ると、女の肩を掴んで顔面を思い切り殴った。  サザの予期しなかった攻撃に女は対応できず、殴られた勢いで落馬した。  サザは馬から飛び降りると、転がった女の首めがけて咥えていたナイフをすかさず投げつける。  女は小さく悲鳴を上げると首から血を溢れさせ、そのまま動かなくなった。 (……危なかった……)  サザは思わず、地面にぺたんと座り込んだ。 (う……) 極度の緊張から開放された安堵と限界まで上がった息に、吐き気がこみ上げてくる。 サザは思わず両手で口を押さえ、口の中に逆流してきた胃液を飲み込んだ。  人を殺し、自分も死にかけた時のこの感覚、だ。何年ぶりだろう。  何回やっても慣れることが無い。全身から急激に汗が吹き出してきてめまいを感じ、思わずその場に座り込んだ。 「サザ!!」 カズラとアンゼリカが馬に乗って森の中から駆け出してきた。二人が無事だったことにサザは安堵した。利口なサザの馬も、自分でこちらへと戻って来てくれた。 「大丈夫か!?」 座り込んでいるサザに驚いた二人が馬から飛び降りてサザの身体を支えてくれた。 「大丈夫、怪我してないよ。びっくりしただけ……」 「ごめん、ごめんねサザ……一人で戦わせて……私達を助けてくれて」 カズラが手を引いてサザが立ち上がるのを手伝ってくれ、アンゼリカがぎゅうと強く身体を抱きしめてくれる。  その温かさに一粒溢れた涙と引き換えに、殺気立った心がすっと落ち着いて行くのを感じた。  こうやって二人がいつも一緒にいてくれたから、サザは今まで何とかやってこれたのだ。 「でも、こいつらは一体誰だ? 何で私達を襲ってきた?」 「分からない……しかも、最後のやつは私を生け捕りにしようとした」 「どういうこと? でも、こんな大人数の剣士が襲ってくるってことは…… 私達が『普通の娘』って思われてないってこと……よね?」 「ああ。私達が暗殺者だって、ばれてるんだ」
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