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その結果、今まさにサザはユタカ・アトレイドが用意した馬車に乗ってイーサへ嫁ごうとしている。サザは頭が干上がる位に悩んだものの、結局、結婚を受け入れることにしたのだ。
仕事の決まらないサザを食事が喉を通らない程心配していたサーリは、サザを強く抱きしめて泣きながら喜んでくれた。そのことが、内心はちっとも前向きになれないサザの決心をほんの少しだけ後押ししてくれた。
「サザ、あのユタカ・アトレイドと結婚なんて、ほんとにすごいわね!私も鼻が高いわ。
カズラとアンゼリカも、新しい進路が見つかって良かったわ。すごく寂しくなるけど、いつでも遊びに来てね」
この美しいワンピースも結婚のお祝いにとサーリが用意してくれたものだ。サザの瞳の色に合わせた深緑を選んでくれた。
(サーリさんは本当に良い人だったし、あの酒場で働くのは大好きだった。
でも、ずっとあのままでいられたら良かった、なんて思うのは間違ってるんだな)
サザは結婚話を聞いた翌日、酒場の閉店日に最後の望みに掛けてもう一度ギルドに行ってみた。カズラとアンゼリカも最後までサザの仕事を探し回ってくれた。
しかし、やはりサザのスキルに合った仕事は何一つ見つからず、サザの気の滅入りが深くなっただけだった。
サザ達三人は物心ついてからずっと立ち止まることなく、ただ自分が生き残るためだけに必死で暗殺をして生きてきたのだ。
カズラとアンゼリカには迷惑はかけたくなかったし、サーリだって、平和になった国で新しい生活を望むことは自然だ。
それに、サザは暗殺でなら自分の右に出るものはいないと自負していたが、今回の仕事探しを通じて、イスパハルでは自分は全く必要とされていない存在なのだと気が付いてしまった。
どうしようもなく悲しかったが、もうこの結婚話を受け入れる他に無いことは諦めがついた。
しかし、サザはこの結婚について、どうしても納得できないことがあった。
(何で、私なんだろう)
貴族の娘を選び放題の男がわざわざサザを選ぶなんて、明らかにおかしい。
サザから暗殺の技術を抜いたら、特に可愛いわけでも特技があるわけでもない、チビで癖っ毛で体型にも恵まれず、孤児で金もない、ありふれたただの町娘だ。
あえて選ぶ理由が何もない。むしろ避ける位だろう。
(あ、別の求婚状と取り違えて返事を書いちゃったとか? 笑えないな……)
サザがあれこれ考え出してまた絶望的な気持ちになりかけた所で、馬車が止まった。
「サザ様、イーサの城に到着しました。少しお待ち下さい」
御者が馬車の外からサザに声をかけた。
(名前に「様」つけられた……これから一生そう呼ばれるのか)
サザが嫁いできたイーサは敵国カーモスと隣接しており、戦争で主戦場となった地域の一つだ。
そのために土地の荒廃が激しいとの噂を聞いていたが、城に着くまでに通った田畑は作物が丁寧に植えられ、城下の繁華街では人々の活気があった。サザが考えていたよりは、領地は復興してきているようだ。
城は石造りの砦の様な雰囲気で、周りに堀が巡らせてある。戦争中は要塞として使われていたのだろう。
(お待ちくださいと言われたけど、このまま馬車の中にいればいいのかな?)
サザがどうして良いのか分からずおろおろしていると、急に馬車のドアが開いた。
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