【エブリスタ1000スター感謝SS】戦地にて

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 翌日、夜明けと共にアイノとユタカはイスパハル軍の捜索隊に保護され、自陣へと搬送された。ユタカは魔術医師の適切な治療のお蔭で翌日にはほぼ元気を取り戻していたが、大事を取って数日は療養となるとのことで、アイノはユタカに代わってユタカの上司であるヴァリス・ルーベル少佐にのあらましを報告しに来ていた。  戦場での簡易的に作られたイスパハル陣営の居住棟の執務室の一つがヴァリスの部屋だ。  王宮の執務室とは違いこじんまりとしていて書棚もソファもだいぶ簡素ではあるが、この執務室は書類はよく整理されて机には埃一つ無い。部屋に人の性格が出るというのはこういうことだと思わせられる部屋だ。  アイノがヴァリスに一通り報告すると、ユタカが瀕死であったことにはヴァリスは左程驚いていない様子だった。ヴァリスがユタカを非常に気にかけていると聞いていたアイノは、ユタカをここぞとばかりに労うのだろうと想像していた。  その様子に些細な違和感を感じたが、少佐ほどにもなれば死線は幾らでもくぐり抜けているだろうし、優秀な部下を失うことだって多かっただろう。  少佐程にもなればそんな事態は一々顔に出さないのだろうと、まだ十八のアイノは結論づけた。 「しかし、ユタカの手当には「エルフの掌」が使われていたそうだな。あの薬草はこの辺じゃまず手に入らない筈だ。どこで手に入れたんだ?」 「それが……見知らぬ賊がユタカを手当てしたんです」 「賊?」 「ええ、私は顔は見ていませんが、ユタカの話だとナイフを持っていて、黒っぽい服装の四人の娘だったと。私が彼女らを敵だと思って大声を上げたので逃げてしまいましたが、逆に礼をすべきでした」 「アイノ。それは暗殺者だ。その話は絶対に口外するな」   急にヴァリスが口調を荒らげ、きっぱりと言った。アイノはヴァリスの変化に驚いてびくりと身体を震わせたが、それでも、頭に沸き起こった疑問を口にせずには居られなかった。何者だろうと、彼女らはユタカの命の恩人であることには変わりがないのだ。 「……何故でしょうか? ユタカは軍服を着ていましたからカーモスの兵士と間違えることはない筈です。ユタカを助けたということはイスパハルに好意的な人物達でしょう」 「何を言っているんだ? 暗殺者がイスパハルの仲間である筈がない。女王陛下と王子が暗殺者に殺されたことを忘れたか? イスパハル軍に秘密裏にカーモスの暗殺者を動かしている人物がいるという噂も出ている。由々しき事態だ。暗殺者は必ず敵だ。次見つけたら有無を言わさず攻撃しろ。これは命令だ」  ヴァリスの有無を言わせない口調に若干の恐怖を感じたアイノは、思わず、少し俯いた。これ以上口ごたえするのは得策ではなさそうだ。 「……承知しました」  アイノはヴァリスに向かって折り目正しく礼をすると、釈然としない心を持て余しながら、執務室を後にした。 (了)
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