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8.結婚の理由
サザは言われた通りに他のメイドの娘に案内された二階の部屋に入って、足元に鞄を置き、ベッドに腰かけた。
案内されたのは石積みの暖炉と、城の前の景色が見渡せそうな大きな窓のバルコニーがある広々とした部屋だった。
二人用のベッドと簡単なテーブルセット、クローゼットがある。
調度品は豪奢な飾りはなく、どちらかというと教会で使われるような実用的なものだ。恐らく領主と領主夫人が使うものにしてはかなり地味だろう。しかし、サザはその方がかえって落ち着くと感じた。
(この部屋で暗殺するなら……
ドアから入るには一階の広間の真ん中の階段を登らないと無理だから、窓から侵入の方がいいか。
でも窓も大きくて外から目立つ場所にあるな。やっぱり領主は暗殺されにくい部屋に住んでるんだなあ)
職業病でついそんなことを考えていると、服を着替えたユタカが入ってきた。
先ほどと変わらず、町の人が着るような綿のシャツとズボンだ。ユタカはベッドに腰掛けたサザの傍らにあった椅子に腰掛けた。
「荷物、メイドにも触らせたくない程大切なものなのか? 何を持ってきたんだ?」
「あっそれは……!!
……私の荷物など運んでもらうのは悪いかと思ったので」
本当は、暗殺者として長年使用していたナイフがどうしても捨てられず、洋服にくるんで持ってきてしまったのだった。
クローゼットの奥の奥に隠して鍵をかけておけば、ばれることはないと踏んで荷物に入れた。
暗殺者でなくなった今、もう使うことは無いのだから、サザの死後に荷物を整理した相続人の度肝を抜くくらいしか用途はないだろう。
「ふーん……? 別にそんなこと無いから気にしなくていいよ」
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