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「はい、ありがとうございます」
こんな所でぼろを出している場合でない。
(危ない……! 気をつけなけきゃ)
ユタカは膝に頬杖をついてサザの顔をまじまじと見つめた。こちらを見透かされているようで落ち着かなかったが目を逸らすのも悔しいので、サザはそのままじっとユタカの顔を見つめ返す。ユタカは微笑んだ。
笑うとえくぼのできる人だ。
(でも、こんなに優しそうな人が国一番の剣士なんて本当なのかな?)
サザはユタカと出会ってから、この人が敵国の王を討った英雄であることは元より、そもそも剣士であることすら信じられなかった。大体、何で英雄が普段着で農作業しているのだ。
体格にしてもそうだ。上背があるのは剣士としては有利な筈だし、肩や胸の感じから身体を鍛えているのは伝わってくるが、身体の線はどちらかというと細いほうだ。
同じ程度の体軀の男は珍しくない。サザはもっと筋骨隆々とした感じの人を想像していた。
(農家って言われたら絶対信じちゃうな)
サザが思いを巡らせていると、笑顔から少し真剣な表情になったユタカが口を開いた。
「悪いんだけどさ。結婚する前に、二つだけ。確認させてほしいんだ」
「確認、ですか?……何でしょうか」
サザは思いがけない質問にぐっと身構えた。『結婚する前に』ということは、返答次第で帰されるのだろうか。とんぼ返りになってしまったら、アンゼリカ達に合わせる顔がない。
「まず一つ目。
結婚式を挙げるのは、イーサの町の人達が式を挙げている庶民的な教会だよ。
本当なら領主の結婚式は王都トイヴォで盛大にやるものらしいけど、イーサはまだ復興の最中で余計な出費は避けたいから、豪勢な式にはしないことにしてるんだ。
それはいいか?」
「え?
はい。承知しました。その方が私もありがたいです」
サザはそもそも結婚するつもりなんて全くなかったのだから、結婚式にもまるで興味がない。簡単に済むならその方がいい。
しかしユタカはその答えが意外だったらしく、少し慌てた様子で付け加えた。
「本当にいいのか? 庶民と変わらない内容だけど」
「ええ。というか、そんなに出費が気になるなら別にやらなくてもいいです」
「ふうん……
まあ、流石にやらない訳にいかないからやるけど、大丈夫そうなら良かったよ」
ユタカは微笑んでもう一度まじまじとサザの顔を見ると、話を続ける。
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