1. 失業

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 しかしその一方で、サーリの表情が暗い。サーリは戦争で夫と子どもを亡くした四十過ぎの未亡人で、持ち前の根性ひとつで酒場を切り盛りしていた。  大柄な体格と波打つ長い黒髪と絶えない笑顔で、誰もが理想の母として思い浮かべるような人だ。  裸一貫でカーモスから逃げてきたサザ達を町で偶然に見つけ、宿を借りる金も地理感覚もなく文字通り右往左往するのを見かねて、酒場を手伝うなら、とそのまま下宿させてくれたのだ。  さすがに暗殺者である事は明かせなかったが、三人を気にかけて何でも相談に乗ってくれた。カーモスの暗殺組織で犬同然に扱われていた三人は、サーリのおかげで人間に善意が存在することを認識できたようなものだった。  ため息を付いているサーリを見たことが無かったサザは、心配になって尋ねた。 「サーリさん、もしかして、私達まかない食べすぎてます? 美味しかったからつい……」 「違うわ。サザ。いっぱい食べてくれていいのよ」  サーリがそこでまた一つ、大きなため息を付く。サザは思わず、カズラとアンゼリカと顔を見合わせた。 「じゃあ、何かあったんです? こんなに暗いサーリさん見たこと無い」 「……そうよね、アンゼリカ。分かるわよね」  サーリは一呼吸おくと、三人の目を真っ直ぐに見た。
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