9.イスパハルの慣習

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(別の人と取り間違えた訳じゃ無かったのかあ)  ユタカの素直な言葉にサザは少し照れて目を伏せた。  確かに、孤児の平民が領主に結婚を申し込んで受けてもらえる可能性など通常なら億に一つもないほど無理のある話だから、他にそんなことをする人は皆無だったのだろう。  カズラとアンゼリカは「ダメ元で申し込んだ」と言ったが、ダメ元にもほどがある。 (しかし、カズラとアンゼリカ、そんなことまで書いたのか。本当のことだからいいけど、私の育ちを包み隠さず書きすぎでは……)  暗殺組織の所は路上に変換されてはいるが、生活の酷さで言うならおそらく同じくらいだ。孤児であることは普通、求婚状に書く内容ではないだろう。 (でも、私について暗殺のことを書かないなら他に書けることなんか、何も無いな)  サザは心の中で大きくうなだれたが、そうとは知らないユタカは笑顔のままで話を続けた。
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