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「ふ、風呂くらいなら自分でできるので! 大丈夫です!」
「お気になさらなくていいんですよ。
身分の高い女性なら当たり前にされてることですし。女性しかおりませんし安心してください」
「いえ、でも……一人でできることは一人でやりたいので」
「そ、そうですか?
それでは、部屋の外におりますので何かあればお声掛けくださいね」
ローラ達はサザの申し出に驚いた様子だったが、何とか納得してくれたようで部屋を出てくれた。サザはローラ達が出ていったドアを閉めて、ため息を付いた。
(身体を見られたくないんだ、私は)
サザは湯が冷めないうちにと服を脱ぎ、桶の中に膝をかかえて身体をまるめた。あったかい。今日は長いこと馬車に乗った上、慣れないやり取りで疲れてしまった。
(背中の傷を見られたら絶対に引かれるな)
サザの背中には、組織で激しく鞭打たれた痕がありありと残っている。仕事の失敗で見せしめに仕置きされたのだ。刀傷もある。
心あるサーリは何も聞かずにいてくれたが、好奇の目で見られる可能性のほうが高い。
(ローラ達は咄嗟に追い出しちゃったけど、よく考えたら領主様には見られてしまうのか。
今日は新婚初夜だ)
サザはもう一度大きくため息をついた。息の当たった水面に波紋が広がり、桶の縁に当たって消えた。ぐっと身体をまるめて、顎まで湯に浸かる。
結婚した以上こうなることは分かっていたが、一般的に「傷物」とされるサザの身体は、暗殺者で有れば何でもないが、サザはもう違う。
男から見られる女の身体としてなら価値が低いのはすでに分かっていた。
美人ではないが基本的に明るくて働き者のサザは、酒場での仕事の中では男に言い寄られることも少なくはなかった。
その中でサザはお互いに好意を寄せるようになった同じ年の鍛冶職人の若者と親密になって身体を寄せ合った夜に、若者はサザの背中を見るなり「気持ち悪い」と言って蔑んだ目でサザを見て、部屋を出ていってしまったのだ。
サザは傷への言いようもない悲しさと恥ずかしさで一杯になり、カズラとアンゼリカにもその事が言えなかった。
(嫌なこと思い出しちゃった。
でも、幻滅されて帰されるなら早い方が傷つかなくて済む、かな)
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