3.転職

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 イスパハルでは暗殺者は最も忌み嫌われる職業だ。それには理由がある。  現在のイスパハルの国王アスカは、二十年余前に妻である女王と生まれたばかりの王子を、カーモスの暗殺者に殺された。イスパハルは王と女王による共同君主制を取っていたが、女王は不在となり、今の君主はアスカのみだ。  国民の自由に重きを置くイスパハルではあらゆる職業に就く自由が憲法で保証されており、暗殺者も例外ではない。  しかし、その事件の後からイスパハルの国民の間で暗殺者は「最も卑怯な職」と揶揄されるようになり、暗殺者とばれれば追放同然の扱いを受けてしまう。  女王と王子の暗殺から二十年に渡り続いた戦争は遂に二年前、カーモスの降伏によりイスパハルの勝利で終結した。その後はアスカ国王の優れた治世により、イスパハルには絵に描いたような平和が訪れたのだ。平和の世では、それを脅かす可能性のある暗殺者への目はより厳しいものになる。  だからサザ達は絶対に、「普通の娘」らしい仕事に就かなければいけないのだ。 (カズラとアンゼリカは暗殺の他に得意なことがあっていいなあ。私だって、暗殺だったら、誰にも負けないんだけどな。でも、もう絶対にやらないって決めたんだ)  サーリが店を畳む日が日に日に迫ってくる。サーリの栄転は喜ぶべきだが、サザはここのところ、ため息をついてばかりだ。
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