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4.ある提案
サザの仕事は見つからないまま、遂にサーリが店を畳む前日の夜になった。
サザ達は酒場の店じまいを終え、住居にしている店の二階で交代で桶に湯を張って風呂に入っていた。最後に風呂から上がって寝室へ戻ってきたサザを、カズラとアンゼリカが神妙な顔つきでベッドに座って待っていた。サザが落ち込んでいるのを察しているのだろう。
サザは二人の目線を受け止める気力もなく、同じようにベッドに座った。
「私、これからどうしよう……」
ベッドに座って大きくうなだれるサザを見て、カズラとアンゼリカは罰が悪そうに顔を見合わせる。アンゼリカが慌てたように口を開いた。
「サザは、ナイフめちゃくちゃ正確に投げられるじゃない! ナイフ投げの曲芸なんかはどう!?」
「駄目だよ。私、無意識にお客さんの急所を正確に狙ってナイフを投げちゃうかも……それに、こんなくせっ毛で胸のないそばかすのチビがナイフ投げたって誰も見に来ないよ」
「じゃあ、サーリさんみたいに調理師ならどうだ? ナイフを活かせるだろ」
「それも無理。私ができるのは皮むきと材料を切るところまで。
私は二人と違って生まれたときから組織にいたんだもん。私が料理焦がす率120%なの、知ってるでしょ?
私は二人と違って、暗殺以外で人より上手く出来ることなんて、何も無いんだよ」
サザは自分で口にした台詞を自分で聞いて余計に惨めになった。でも、それが現実だ。
サザは、ナイフの暗殺でなら国一番を張れるくらいの自信がある。でも、暗殺は二度とやらないと誓ったし、何より、この国でいくら暗殺の腕前があっても何の意味も無いのだ。
(私って、今じゃ何の役にも立たない奴なのか)
サザはぼすんとベッドに倒れ込んで顔を枕に埋めた。思い切り泣いてしまいたい気持ちだ。
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