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ことの顛末
離さなければよかった。
こんなにも後悔するなら。嫌われても絶交されてもいいから、自分の気持ち伝えればよかった。そう思い始めるのに、そう長く時間はかからなかった。
学校で、食堂で、寮で。
シュウと会う時には必ず優哉がいる。
シュウに幸せになってほしい、そう思っていた気持ちに嘘はなかったはずなのに、目の前で繰り広げられる甘い空気に、正直耐えられない。
「で? なにがあったの?」
ソファの隣にスハがどすんと腰を下ろす。
「まあ……失恋、かな」
「そうなんだ? じゃあ、ついに言ったんだなっ」
俺が失恋したっていうのに、なんだか嬉しそうな笑顔をむけるスハ。
「や…そうでもない」
「はっ?」
スハは、俺とシュウのことならなんでもっていうくらい知っている。駆け出しの頃からの友達で、モデル仲間の中では唯一といっていい友達だ。
スハはストレートだし、俺とどうにかなったこともなりそうになったこともない。俺のいい理解者で、親友だ。
俺はやっぱり聞いて欲しくなって、俺が日本に帰ってからしでかした、全ての馬鹿なことを聞いてもらった。
右手の掌をじっと眺める。
あの舞踏会の時思わず手が出た。一瞬、どうしても行かせたくないって思った。
だからシュウの腕をぎゅっと力任せに掴んだ。
振り返ったシュウは、俺の邪な気持ちなんてなんにも知らなくって。ただ不思議そうに見返していた。
その透き通った瞳にハッとして。
俺はその手を離した。
あの時、自分の方へ引き寄せて、無理だと分かっていても気持ちを伝える事は出来た。
だけど俺は一瞬で選んだ。
今まで築き上げて来たシュウとの友情や信頼関係。
なにもかも失いたくなかった。だから、手を離した。
「なあ、一言いい?」
「う…ん」
「ばっかじゃねーのっ??」
「う……うっ、」
「なにそれっ、帰ったらその子に恋人が出来てた、とかならまだ分かるよ。けどさ、わざわざ終わりかけの恋に火付けて仲を取り持っただってっ!?」
「ん、」
「まじで馬鹿っ、ばかばかばかばかっ!」
「うっ、わかってる、」
俺は怒るスハに肩をすくめて答えるしかできない。スハが言うことは正しくて、ほんと自分で情けない。
「で? つらいんだ?」
「うん」
「で? ふたりはどうなったの?」
「くっついた」
「幸せなんだ」
「ん」
「すぐに別れるとか、ないの?」
「そんなの無いと思う、ってか、なんかそれも、ヤダ。シュウ、すごい幸せそうだった」
俺はぽつりぽつりと言う。
俺がシュウのこと幸せにしたかった。
ふざけて抱きしめても、ほんとはどきどきしてた。でも、シュウがタチに成長ちゃったから。それでもいつか俺の方を見させて、それでシュウが俺に心も体も預けてくれるんじゃないか、って。長期戦になってもいいって思ってた。
けど、俺がしたかったこと、優哉がやっちゃったんだ。それもごく短期間の間に。
「ほんと馬鹿だよおまえ」
「うん……うっ」
「ほら来いよ」
スハの逞しい腕が伸びてきて、俺を力強く抱きしめてくれる。
ずっと我慢してた涙が堰を切って溢れて、俺は嗚咽を漏らして泣いた。
「大丈夫だって、きっといい奴現れるから」
「そうかなあ」
気休めだって分かってる。
それでも、今はその言葉にすがるしかなくて。
そんなの無理だって思う、シュウより好きになれる子なんて、いい子なんていないよ。
絶対誰のことも好きになんかなれる訳ない。
年が明けたら、笑顔で会えるように。
今はたくさん泣いたって、いいんだ。
次に会う時、笑えるかな。
俺はまだなんにも知らなくって。
これから出会う恋のことも君のこともまだ知らなくって。
だから絶望的な気持ちでスハにすがりついて泣いたんだ。
(了)
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