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年越し
「あれ、年越しは日本じゃなかった?」
「その予定だったんだけど、まあいいじゃん」
「俺は嬉しいけどねっ」
友達のスハの家で開かれるカウントダウンパーティーに、顔を出した。
スハはモデルでミュージシャンで、アメリカにもロンドンにも家がある。
本当は学園でのんびりと年明けまで過ごす予定だったんだけど。
冬休みに入ると同時にロンドンに渡った。
「どした? なんか元気ない?」
「え? ううん」
「や、なんかあったろ」
そう言ってスハは俺の顔を覗き込む。こいつには隠せないか。
「振られた?」
「いや、そんなんじゃない」
「ふうん。ま、話したくないならいいけど。今夜は楽しむんだよ?」
「うんサンキュ」
スハは俺の頭をぽんぽんっと叩くと去って行った。
パーティーっていっても、ただ友達とか知り合いとか、知り合いの知り合いとかが集まって、フラットで音楽をガンガンにかけて喋ったり踊ったりするだけだ。
それでも、学園の部屋にひとりでいるよかましだし。
「あっ、ヤマト」
「あっ久しぶりっジャン」
「年内にヤマトに会えるなんて思ってなかったから、なんか嬉しいな」
「そんなかわいいこと言ってくれちゃって、ありがと。っていってもあと1時間で年明けるじゃん」
「うんっ、それでも嬉しいっ」
そう言って俺より少し背の低いフランス人のジャンは俺に抱きつく。
「ありがと」
そうやって、きらきらした目でみつめてくれて。ほんと嬉しいんだけど。こうやってジャンに抱きつかれてても、ああ、あいつと同じくらいの身長だな、とか髪の色が似てるな、とかしか思えなかったり。
ああ、俺、マジで馬鹿だよな。
カウントダウンも終わって、みんなでハグして、シャンパンを浴びるように飲んだ。
みんなでくだらないこと言い合って笑い合ってる時は、大丈夫。
でも、ふとした時に思い出すのは、あいつのことばっか。
「ね、ヤマト、あっちでみんないいことしてるよ? 行かない?」
「いいこと?」
「そ、おいでよ」
ソファでひとりぼーっとしていると、ジャンが俺の腕を引っ張った。
「や、今はいいよ」
「なんで? ひとりでこんなとこいないで。どうしたの? 元気ないと心配」
ジャンはくりくりした目で俺を見る。
かわいくって頼りなさげだけど、俺より5つも年上で、有名なメイクアップアーチストの右腕として、大活躍してる。雑誌の撮影でメイクしてもらったのがきっかけで知り合った。
「うん、ちょっと眠いから」
「おいでよー」
「うん、ごめん」
「ほーらっ、ジャン、こいつ誘っても無駄だから」
「ええっ、なんでスハ。楽しいよー」
「ああ、だめなの。な? ヤマト、約束だもんな?」
「うん」
俺はそう言って頷く。酔ってるせいだと思う。なんか、泣きそうになった。
モデルの仕事に本気になって、渡英することが決まった時、シュウに言われた。
『ドラッグとかだっさいことだけはすんなよっ』って。
涙が溜まってる瞳に気付かないふりでそう言ったシュウを、ぎゅっと抱きしめた。
『わかった、絶対にしない。約束するから大丈夫』
『絶対に絶対だからな?』
『うん、心配しないで』
「ヤマトはね。愛する奴とした約束をずーっと守ってんの。だから、モデル仲間の間でも真面目でつまんねえ奴って有名なの。ノードラッグノーセックス」
「ええーなにそれっ、っていうかヤマトって恋人いたのっ??」
「や、いない」
「でもっ、今好きな子って」
「まーいいじゃん、ほら、行ってきなよジャン」
そう言って俺はジャンを送り出した。
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