12.恋するマシュマロ娘

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12.恋するマシュマロ娘

「いた、マシュマロの娘だ」  雑用を済ませて休憩に入り、カレンデュアがまたマシュマロの入った袋を持ってベンチに座っていると、アスターが明るく声をかけてきました。隣に座って背もたれに寄りかかります。彼はワイシャツのボタンを一つ開けてその上にベストを重ね、下はおそろいの茶系のズボンをはいていました。 「良い天気だね」 「そうですね」  カレンデュアは頬が熱くなるのを感じました。隣に彼が来て、首を動かせば見れるのに。見たいのに見れない。ああ、見たい! 緊張とはずかしさで体がいうことをきかなくなってもどかしいカレンデュアでした。 「あの、今日も薬の……」 「うん、ここは安価で提供してくれるからね。とても助かってるよ」 「いつもごひいきにしてくださってありがとうございます」   するとクスクスとアスターが笑いました。カレンデュアはふに落ちない顔で彼を見詰めます。 「あの、わたし何かおかしなこと言いましたか?」 「いや、べつに」とアスターは口元に拳を当てて、笑いを隠しながら言いました。 「きみって面白いね」  言われたカレンデュアはきょとんとします。 「面白い?」 「いつもここでマシュマロを食べてるよね」 「え?」  なんだかばつが悪くなってカレンデュアが目をしばたたかせると、アスターはからかうように歯を見せてニヤリとしました。 「やっぱり面白い」と言って忍び笑いをすると彼は握手を求めてきました。 「名前を教えてよ。ぼくはアスター」 「わたしはカレンデュアです」 「カレンデュア。かわいいな名前だね。きみに合ってるよ」  カレンデュアの頬がぽっと赤くなります。 「ありがとうございます。でも長いからみんなカレンって呼んでます」  アスターは眉を下げて顔に疑問符を浮かべました。 「それはもったいないな。せっかくいい名前なのに。ぼくは略さないで呼ぶよ、“カレンデュア”」  カレンデュア――胸が!?。アスター、あなたは何度わたしの胸を射るの? わたしの胸はあなたが射た矢だらけ。こんなの初めてだわ。名前を呼ばれただけでこんなにうれしくなるなんて。それにみんなと違う呼び方をするなんて、なんだか特別みたいじゃない。恋する乙女カレンデュアは、熱い紅茶に落とした角砂糖のように溶けていきました。
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