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13.しのぶ恋
「そう〜それはおめでとうございます」
ある日の昼にさしかかろうという頃、庭の手入れを済ませたカレンデュアが階段を上がると、修道院の玄関のほうからタンジーのよく通る声が聴こえてきました。長い階段の頂上まで来て一息ついて顔を上げると、タンジーと立ち話をしているアスターの姿がありました。何を話してるのかしら、楽しそう。するとアスターは「ではまた」というようにタンジーと別れました。階段のそばでカレンデュアと目礼を交わしてすれ違います。カレンデュアはさみしくなって通過していく彼の肩を目で追いかけました。
「タンジーさん、今あの先生と何を話してたんですか?」
近くに行ってみると、タンジーの顔にはまだ笑みが残っていました。彼女はこう言いました。
「あの先生、今度結婚されるんですって」
一瞬カレンデュアの時が止まります。そして一瞬で凍りました。驚きも悲しみも絶望も、なにもかも。
「え……そうなんですか。それはよかったですね」
機械的に笑顔を作って彼女はそう言いました。
「本当よかったわよね。相手の方は、学生時代からのお知り合いなんですって」
カレンデュアは笑顔でそれを聴きながら
“お幸せに”――。
心で泣いていました。
カレンデュアはそれからも彼を思い続けました。決してその思いを告げずに。それは辛いことでしたが、それでも彼女は幸せでした。この恋はニゲラさんがわたしに与えてくれた最高の贈り物。彼と親しくなるきっかけを与えてくれたんだもの。恋人にはなれないけど……
今度生まれ変わったらきっと幸せな恋に出逢えるから。今はそのための試練だから。わたしはがんばれる。来世の“わたしのために”……
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