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5.三日月の微笑
修道服姿の女性に案内されて、カレンデュアは院長のいる別館へ向かいました。
「緊張しなくても大丈夫よ。院長は温厚な方だから」
「オンコウ……?」
女性はまたクスッと笑いました。
「やさしいってことよ」と言い直します。カレンデュアは納得して頷きました。
別館は女子修道院の西にありました。さらに西へ行くと男子修道院があると付き添いの女性が教えてくれました。
「ここの修道院て階段が長いから移動が大変でしょ? そのかわり毎日あの階段を上り下りしているおかげで、ここにいる修道女はみんなおしりがキュッと上がってスタイルがいいのよ」と女性は自慢げに言いました。そう言われて女性を見てみると太ってはおらず、そんな気がしないでもありませんでした。三塔ある建物の中央に位置する院長の部屋の入口の両脇には、門番のようにどっしりと構えた二匹の神獣の白い石像がありました。すると女性は、ちょっと待っててと言ってぱっと姿を消してしまいました。でもそれはつかの間で、すぐに中から女性の声で「どうぞ」と言うのが聴こえてきました。カレンデュアは緊張しながらドアを開けてその奥へと進みました。
一緒に来たはずの女性はすでに中にいました。いつの間に入ったのかしら。不思議な人……
院長は三十代くらいのやせ型の男性でした。物腰がやわらかく、三日月形に目を細めて、常にほほえみをたたえています。
「はじめまして、わたしはカレンデュア・アルウェンシスです」
カレンデュアはスカートの両端をつまんで、母親に教わったやり方で院長に挨拶しました。
「これはかわいらしい。歳はいくつですか?」
院長は腰をかがめ、好意的な目で幼いカレンデュアに話しかけました。
「七歳です」
カレンデュアは緊張して頬を少し赤らめました。
「そうですか。よく来ましたね、カレンデュア」
座りましょうと院長に促され、カレンデュアは椅子に座りました。
「一人でここに?」
カレンデュアはちょこんとうなずきました。
「入院中のお母さんに地図を渡されて、ここに知り合いがいるからお世話になりなさいと言われて……」
すると女性が院長にこそっと何か耳打ちしました。
「なるほど」
それを聞いた院長はカレンデュアを見て納得したようにうんうんと何回かうなずきました。
どうしたのかしら? カレンデュアは不思議そうにちょこんと首を傾げました。
「彼女が言うなら間違いないですね。あなたは今日ここに来るべくして来たのです。あなたをこのサントリナ修道院の一員として認めましょう」
こうしてカレンデュアはサントリナ女子修道院に入ることを許されました。
よくわからないうちに話しが進んでしまい、カレンデュアはきょとんとしてしまいました。そんな彼女に向かって「よかったわね」と言うように女性はウインクしました。
院長室を出るとカレンデュアは気になっていたことを女性に尋ねました。
「あの、さっき院長さんに何て言ったんですか?」
女性はクスッと笑って言いました。
「あなたに言ったのと同じことよ」
「同じこと?」
カレンデュアはちょこんと小首を傾げました。何のこと?
「そう、わたしは“あなた”がここに来ることを予感してた。そう言ったの」
と女性は得意顔で言うとダンスを踊るみたいにくるっと回って方向転換しました。そのまま軽快な足取りで、女子修道院の方へ向かって歩いて行きます。カレンデュアは置いてかれないようにと、たったったっとかけ足で付いていきました。
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