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7.太陽の花咲く聖堂
着てきた服の上からエプロンをかけ、頭には三角巾を被り、この日からカレンデュアはサントリナ女子修道院の下働きになりました。最初の仕事は長い廊下のモップがけでした。教育係のタンジーが横にいるので手が抜けません。あまりにも長いので気が遠くなってきます。カレンデュアはたんたんとそれをやりながら、頭の中では別のことを考えていました。
「あの、タンジーさん」
「何?」
「聖堂に行っちゃだめですか?」
もう半分以上やったしとぼやきますが
「これが終わったらね」と冷たくタンジーに返されました。そうこうしているととうとう日が暮れてきてしまいました。窓から緋色の光が差し込んできます。そろそろお腹が減る頃。するとタンジーが用を足しに席を外しました。でもまたすぐに戻ってきちゃうでしょうし……と落胆してため息を吐いた時でした。
「あ」
目の前にまたあの修道女が現れたのです。彼女は心得顔でカレンデュアを見て微笑しました。
「いらっしゃい。わたしが聖堂に案内してあげる」と言って彼女は身を翻しました。そのまま滑るように廊下を進んで行きます。慌ててカレンデュアが後を追いかけながら叫びます。
「待って、今行ったらまだそうじの途中だからタンジーさんにしかられます!」
修道女は立ち止まって振り返りました。
「何か言われたら“ニゲラ”に連れて行かれたって言いなさい。それで大丈夫だから」
信用していいのか迷いながらも彼女のペースに乗せられて、カレンデュアは付いて行ってしまいました。
聖堂に入った途端カレンデュアは、感動と驚きのあまり息を飲み、しばらく目を瞠ったまま立ち尽くしてしまいました。
なんて素敵なの。まるで、まるで夢みたい……。いいえ、違う。これは“夢の通り”。あの夢はやっぱり本当だったんだわ!
祭壇の両脇に太陽の花の花畑が広がっています。本当だったんだわ……
その光景が涙を誘い、カレンデュアの頬をきらめく雫が伝い落ちました。それから彼女は、一歩一歩踏み締めるようにゆっくりと祭壇に進みました。そして祈祷台に肘を乗せて手を組み、誓いを立てました。
神様、わたしカレンデュア・アルウェンシスは、あの夢の言葉を信じて生涯“独り身”でいることを誓います。
廊下に戻ると胸の前で腕組みしたタンジーが、仁王立ちで待っていました。
「どこへ行ってたの?」
後ろめたさを覚えながら、カレンデュアは言いました。
「“ニゲラ”さんに聖堂に連れていかれて……」
途端タンジーは青ざめました。まるで恐ろしいものでも見てしまったように、口をパクパクさせます。そして彼女は震えながら言いました。
「……ニゲラは、十年以上も前に死んだのよ?」
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