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桜咲く季節に僕は上京した。と言っても東京の桜はとっくに満開の時期を過ぎ、花びらは川に流されているのがほとんどだった。それを知った僕は少しがっかりした。でもこの春に僕の桜が咲き、大学生になる。地元を出る前におばあちゃんがくれた赤いコンバースの靴が少し慣れないが、せっかくの大学生活と゛不思議な共同生活”に感謝しながら4年間頑張っていこうと思う。
第1志望に合格したことに8歳下の妹とおばあちゃんはとても喜んでいたがそんな時もつかぬ間に様々な手続きに追われた。合格手続きや奨学金の申請、そして部屋探しに。来月にはもう東京に住むんだとウキウキする暇もなく僕は近所のショッピングモールのWiFiを借りて部屋を探していた。ただでさえ奨学金の申請もあるし早く部屋を決めないと引越しの手続きもできない。そんな時に学費を支援してくれている「神田奨学育英会」からルームシェアの紹介のメールが来た。場所は阿佐ヶ谷で2人暮らし用の2Kの部屋で明るいコンクリートの壁に温かい色の木の床であり、とてもきれいな部屋だった。観光植物もあり、モデルルームのような部屋だが家賃は月1万円と異常に安い。そして住む条件は神田奨学育英会ろ利用していることと「絶対に同居人と会わないこと」だった。それらを守っていれば何をしてもいいし、騒いだって何の問題もないらしい。全く気を遣わず、一人暮らしのように過ごしていいと書いてある。どういうことだ?騙されているのか?東京で1万は事故物件なのか?いやでもちゃんとした奨学金機構からのメールだ。意外とちゃんとした案内なのかもしれない。同居人と会わなければ自由に過ごしていいのならちょっと広くてきれいな部屋で一人暮らしできるということなのかもしれない。本当は一人暮らしがいいが、安い物件ならユニットバスの部屋しか見つけられなかった僕にとってとてもいい条件の部屋なのかもしれない。
結局僕は悩みに悩んでその部屋に住むことを決めた。ちょっとでもお金を浮かせて他のことに回したかったからだ。
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