マスラオ~闇の中、日はまた昇る

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 その日の朝。霧が深く立ち込める中、早沼健斗は自転車を漕いで学園へとひた走っていた。普通なら鬱陶しくなるほど、濃い霧だったが、今の健斗には心地の良いものに感じられた。何故ならば、彼が人一倍、人見知りをする性格であったからに他ならない。幼い頃は無邪気で陽気な人懐っこい子供であったのだが、成長するにつれ、日に日に奔放さは色褪せて、次第に周囲との交流を拒んでいった。これは早沼家の家風なのかもしれない。早沼家は九州のとある山の中腹。人里離れた場所に居を構え、近隣と言えば八キロ先の集落ぐらいであった。健斗はここから一時間半くらいの時間をかけて、山の麓にある進学高校に通っている。  朝もやに塗れて、健斗は軽快にべダルを踏んだ。  彼は誰にも顔を見られぬという解放感と頬を撫でる風の心地よさに酔うように学園への道をひた走った。
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