マスラオ~闇の中、日はまた昇る

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 音楽室では、もう何人かが集まっていて、それぞれに練習の準備をしていた。健斗もバッグを教室の片隅に置いて、楽器ケースを開き、クラリネットを取り出した。 「なあなあ、昨日も出たらしいぞ!」男子生徒がはしゃぐように言った。 「何がだよ?」その親友は気も無い素振りで耳を貸す。 「イダテンだよ、イダテンだよ!!」 「ああ、あのヒーロー気取りの変な奴?」 「なんだよその言い草は。かっけえじゃん」 「どうだろうな。おれは無謀な向こう見ずにしか思えないけどな」 「お前、なんでそう言うの?歪んでるな」 「お前が純粋すぎるんだよ…… お坊ちゃん」 「なんだって!!」  音楽室は騒然となり、二人は取っ組み合いを始めた。女子が多い吹奏楽部にあって、誰一人二人に近寄らず、彼らを中心に円形の人だかりが出来た。 「私、先生呼んでくる!」女子の一人が勢いよく走って、扉の外に走り出た。 「男子!誰か止めてよ!」誰かが言うと、当の男子は顔を見合わせ、お互いに譲り合いをする。 「やめてください!!」  二人の間に飛び込んだのはへなちょこの健斗だった。間に入って、揉み合いに紛れて、健斗は掛けていた眼鏡を飛ばした。  かたんと眼鏡が音を立てて床に落ちる。その刹那に大きな足音が響く。 「おい!何をしてるんだ!」吹奏楽部の顧問教師が入ってきて二人はやっと冷静になり、俯いて静止した。  女子の一人が健斗の眼鏡を拾うと、恥ずかしそうに俯いて、健斗に差し出した。「あの……」 「ありがとう」健斗は表情を変えずに眼鏡を受け取った。
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