マスラオ~闇の中、日はまた昇る

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 それから時間が経ち、学園でのすべてのイベントを熟すと健斗は家路についた。健斗が家に着く頃にはもうとっぷり日は落ちていた。  健斗は立ち漕ぎで長い傾斜を駆けあがって、家の軒先に辿り着いた。自転車を父のガレージに持っていって、シャッターを下ろすと彼は玄関へと歩き、そこのドアを開けた。 「ただいま」といった彼に応える者は誰もいなかった。健斗もそれが分かってて、そうしたのだ。いつもの生活手続きと言ってもいい。健斗は父と二人でこの広い屋敷に生活している。母は彼が生まれて、まもなくなんとかという重い病気を患って亡くなったと聞かされていた。健斗は仏壇の前に座り、件の彼女に帰宅を告げた。  再び、手荷物を持つと彼は疲れたように二階の自室へと上がっていく。ベッドに大の字になって自分の胸に押し寄せる鬱屈とした気分に向き合う。  健斗は音楽家になることを夢見ていた。そこへと向かって邁進している。  つもりだった……  しかし、ここ最近、脳裏に浮かぶのは何者でもない現状の自分。  そんな健斗の頭を”イダテン”と言う単語が過った。
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