素直に伝えるイラスト

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「合桜先輩、答えになっていない気がするんですが……」 「そうか?ちゃんとした答えだと思ったんだがな」 「さっきから何を言い合っているのよ」  奏美先輩が私の元に駆け寄って来る。私の後ろから覗き込む様にスケッチブックを見た。「まぁ……」と息をのむ様な息遣いを感じた。奏美先輩は、いつも私の絵を褒めてくれていた。だから、今回も褒めてくれると何処か勝手に期待している私がいる。 「まぁ、今回も望結ちゃんらしい絵じゃない。私は、十分だと思うけどね」 「そうか? 俺には、物足りない様に思うが」 「具体的には?」 「望結にも言ったが表情と色使いだな」 「違和感は、無いわよ。望結ちゃんらしい色使いも」  流石の合桜先輩でも理論的かつ結論的な奏美先輩の問い掛けには、言葉を詰まらせている。首の後ろに手を置いて唸る様に考える仕草をとった。その間にも、奏美先輩は、後輩の質問にじゃんじゃん答えて行く。暫くしてそろそろ解散雰囲気になった頃、合桜先輩が「あっ!」大きな声を出した。驚いたのか、1番物静かそうな子が目をウルウルさせて縮こまった。美術室が静かになる。もちろん、皆が一斉に合桜先輩を見た。そんな事も気にせず合桜先輩は、自身満々に私を指さしてそこそこ大きな声で言った。 「分かったぞ! 望結、お前が可愛くないからだ!!」 「えっ……」  今、何て言われたのだろう。自分の心臓の音がうるさく鳴り響く。私の周りからあらゆる音が無くなったようにも思えた。いくら、絵にしか興味が無いからと言っても流石に、先輩から。しかも、男子から可愛くないと言われて傷つかない筈がない。  美術室の気温が下がった気がした。奏美先輩が合桜先輩に掴みかかる。紗奈もゆっくりと私に近づいて来るのが分かる。目が熱い。視界がボヤける。息が詰まって上手く呼吸出来ない。今は、1人になりたいと強く思った。 「……すみません」  ぼそっと呟いて私は、美術室を抜け出した。まだ、学校には多くの生徒がいる。このまま下手に教室に帰るなんて出来る筈が無い。私は、とにかく人が少ない廊下を選んで人が居ない所を目指す。行き着いた所は、私の絵が飾ってある相談室前階段の踊り場だった。
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