素直に伝えるイラスト

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 その絵は、花に水をやる女の子を描いた物だった。風に髪が揺れる感じ、太陽に照らされより一層輝く笑顔。私の中での過去最高の自信作だ。  だが、今はそうだとは思えなくなった。自信が無くなった。確かに、私は天狗だったのかも知れない。周りに褒めて貰える事がいつの間にか当たり前になっていた。合桜先輩は、私を可愛くないと言った。何よりも絵に関係あるない以前にそれが1番悲しかった。  私は負けず嫌いなのかも知れない。可愛くなったら絵も合桜先輩が私を見る目も変わるのかな。なんて頑張る理由を作って、心の傷から目を背ける為に、自分に言い聞かせて頑張ろうとしている私がいた。 「望結……」  紗奈の遠慮がちなハリのない声が後ろからした。紗奈が私を迎えに来たのだ。気が付けば、窓から差し込む光が薄らオレンジ色に変わっていた。いつの間にかそこそこな時間が過ぎていたらしい。さらに気を使って紗奈は、私の目の前に来ようとはしなかった。 「うん。帰る時間だね」 「大丈夫?」  大丈夫な訳が無い。どんなに頑張ろうと思っても言い訳をしても空いて仕舞った心の傷は、そう簡単には埋まってくれない。自分自身も「可愛い」なんて褒めゼリフとは無縁だと思っていた。なのに、合桜先輩に言われた「可愛くない」の言葉は、どんな人に言われるよりずっと重い言葉だった。 「紗奈。私を可愛くしてよ」 「……もちろんだよ! 合桜先輩を見返す様な。うんうん、もっと上、合桜先輩が告白したくなる様な女の子にしてあげる!」 「ありがとう」  振り返った私の顔は、目元が赤く腫れているだろう。紗奈の事だ、きっと今私が空元気なのもきっと分かってる。  紗奈は、私のリュクサックも持って来てくれていた。多分、教室に行かなくてもいいようにしてくれたのだろう。 「それでね、望結が美術室を出て行ったあと奏美先輩が合桜先輩を説教したんだよ。『女の子に可愛くないとか男としてどうなのかしらね』ってめちゃくちゃ怖かった。あそこまで怒った所は、見た事が無いよ」 「そうだったんだ。奏美先輩には、謝りに行かないとね」 「その時は、奏美先輩も驚く様な姿になってるよ」 「そうかな。ねぇ、何日ぐらいで可愛くなれると思う?間に合うかな」 「間に合うよ! 女の子は、可愛くなりたいと思った瞬間に可愛くなるんだから!」 「紗奈らしい言葉だね」 「ねぇ、明日買い物に行こうか」 「そうだね。よろしくお願いします、紗奈先生」 「任せたまえ!」
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