15人が本棚に入れています
本棚に追加
予定通り、日の入り時に商港に着いた。シロの話していたセイランという人は、よく日に焼けて筋骨隆々とした絵にかいたような船乗りだった。出航の時間を打合せ、宿に向かう。こぎれいな宿屋に着くと、シロは何も言わずに部屋を二つ取った。
「一緒の部屋でもよかったのに」
精一杯の悪態をついたら、シロは肩をすくめて
「いや、でも、寝相わるいから」
と見え透いた嘘をついてごまかした。あー、やっぱり脈無しなんだなーとがっかりする。何を期待してたんだ、私は。
久しぶりの風呂に入り、ベッドの上でゴロゴロしていたらノックする音がした。
「入ってもいいか?」
シロだった。慌てて、どうぞ、と返事してベッドの上に座りなおす。シロは相変わらずの黒づくめだった。
「お前のことを頼む手紙を書いておいた。黄色い封をしてる方がカリヤス宛で、銀の封の方が玄の身内宛のものだ。玄に入国したら、偉そうなヤツにこれを渡せ。それで話はとおる」
「わかりました……ありがとう……ございます」
二つの封書を預かる。眉間に力を込めた。唇をかみしめる。胸の内にしまっていたことを打ち明けるのは、今だ。
「シロ……あの……私の石の卵を、割ってくれますか」
「?」
「あなたに、私の名前を付けてほしい。……もう、お別れだから」
心臓が早鐘のように打っていた。
シロ、どうする?
どう応えてくれる。
沈黙は、長かった。
もう、泣きそうだった。
こらえるのは限界だと思った時、シロの黒い手が頬に触れた。
「……我の誠の名は、ツキシロという。国にいる片割れはハイシロ。我の双子のはらからだ。お主に名前を付けるのは、我にあらず。……案ずるな。その時はおのずと知れよう。ハイシロは我と同じ顔貌を持つ。憶えておくとよい」
シロが黒頭巾に手をかけた。
衣擦れの音を立ててほどけていく。
隙間から銀細工のような豊かな髪がこぼれた。
白い陶器のような肌に、ゆっくり見開かれた瞳は遊色の輝きを放つ虹色をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!