東風

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 予定通り、日の入り時に商港に着いた。シロの話していたセイランという人は、よく日に焼けて筋骨隆々とした絵にかいたような船乗りだった。出航の時間を打合せ、宿に向かう。こぎれいな宿屋に着くと、シロは何も言わずに部屋を二つ取った。 「一緒の部屋でもよかったのに」  精一杯の悪態をついたら、シロは肩をすくめて 「いや、でも、寝相わるいから」  と見え透いた嘘をついてごまかした。あー、やっぱり脈無しなんだなーとがっかりする。何を期待してたんだ、私は。  久しぶりの風呂に入り、ベッドの上でゴロゴロしていたらノックする音がした。 「入ってもいいか?」  シロだった。慌てて、どうぞ、と返事してベッドの上に座りなおす。シロは相変わらずの黒づくめだった。 「お前のことを頼む手紙を書いておいた。黄色い封をしてる方がカリヤス宛で、銀の封の方が玄の身内宛のものだ。玄に入国したら、偉そうなヤツにこれを渡せ。それで話はとおる」 「わかりました……ありがとう……ございます」  二つの封書を預かる。眉間に力を込めた。唇をかみしめる。胸の内にしまっていたことを打ち明けるのは、今だ。 「シロ……あの……私の石の卵を、割ってくれますか」 「?」 「あなたに、私の名前を付けてほしい。……もう、お別れだから」  心臓が早鐘のように打っていた。  シロ、どうする?   どう応えてくれる。  沈黙は、長かった。  もう、泣きそうだった。  こらえるのは限界だと思った時、シロの黒い手が頬に触れた。 「……我の誠の名は、ツキシロという。国にいる片割れはハイシロ。我の双子の()()()()だ。お主に名前を付けるのは、我にあらず。……案ずるな。その時はおのずと知れよう。ハイシロは我と同じ顔貌を持つ。憶えておくとよい」  シロが黒頭巾に手をかけた。  衣擦れの音を立ててほどけていく。  隙間から銀細工のような豊かな髪がこぼれた。  白い陶器のような肌に、ゆっくり見開かれた瞳は遊色の輝きを放つ虹色をしていた。
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