東風

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 翌朝は快晴だった。さわやかな潮風に、カモメが舞う。セイランの船は、この港では中くらいの大きさの商船で、(あけ)の国で取れた珍しい石や天蚕の織物を中心に扱っているのだそうだ。 「人を運ぶ客船ではないからな、快適性では劣るが、海賊対策は万全だ」  シロが偉そうに腕組みした。船員たちがせわしなく商材を搬入している。 「海賊?」  ぎょっとしてシロを見上げる。 「こらこら、脅かすな」  背後から、大股にドスドスと足音を立ててセイランがやってきた。 「まぁ、高級品ばかりを扱う、ゆうて『宝船』だからな。用心してるだけのことだ。シロの頼みとあっては、お嬢ちゃんも宝物扱いで運ばせてもらうぜ。ま、実際のとこ、怖いのは海賊よりもクジラだ。あいつら自分の体格も考えずにじゃれてきやがる」  海、こわい……。 「あっちに着いたら、カリヤスのとこに連れてってやってくれ。カリヤスなら玄と直接取引があるだろう」 「ああ、わかった。……しっかし、爺さん、まだ生きてっかなぁ」 「……そんなになるか?」 「なるよ。前回直接商材持ってったときも、結構ヨボヨボしてたぜ」 「んじゃ、同行は頼めねぇなぁ」 「爺さん、おっ死んじまうよ」  セイランは肩をすくめた。 「ま、工房の誰かがなんとかしてくれるだろ」  搬入が終わった。簡単な旅装とともに船に乗り込む。舷梯が上がるのを複雑な思いで見守る。シロは桟橋に立ってこちらを見ていた。 「そんな不安そうな顔するな」 「……でも」 「大丈夫、いずれまた会える。……どんな形だとしても……。安心しろ」  多分、黒頭巾の下の顔は笑っている。そんな気がして、うなずいた。 「っしゃああ! 船を出すぞぉ!」  セイランの声を合図に、船は桟橋を離れた。シロはいつものように、片手をあげてひらひらと振った。見えなくなるまで、ずっと、振っていた。
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