15人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
見上げると首が痛くなるほどにそびえる壁の中にはいると、町中はそこそこに賑わっていた。玄の民は皆、シロみたいな容姿なのかと思いきや、意外と色とりどりだった。聞けば、外から移住してきた民もいるのだという。
コガネは天蚕の織物を卸したあと、城門まで送ってくれた。時計の包みを託し、
「この時計の操作は、私らより玄の民の方がよく知っているから大丈夫だ」
と言って、荷馬車からおろした。荷馬車が市街まで下りていくのを見届けてから、城門に向き直る。
大丈夫。シロはそういっていた。
深呼吸して、城門のノッカーに手をかけた。
カリヤスから預かった納品書と時計を預け、シロのことを告げると、天井の高い大理石の広間に案内された。両側に、黒装束の憲兵が威圧的にずらりと並ぶ。自然と、シロのいで立ちを思い出す。奥まったところは数段高くなっていて、細工に凝った背の高い白い椅子があった。シロの手紙、偉そうな人のところに届いたのだろうか……。
しばらく待っていると、真っ白な人が椅子の前に立った。正確には、銀の刺繍を施された真っ白なローブをまとい、白いベールで顔を覆った人が立った。
「時計の納品、ご苦労。元通り動くようになり、安堵した。……そなたが、ツキシロの命で、ここ玄の国につかわされた者だな」
硬く、重々しく、よく通る声。
思わず頭を下げる。
「はい……相違ありません」
一呼吸の、間。
「あい、わかった…………。この者は、朱の国の罪人。直ちに捕らえよ!」
高らかに響いた鋭い言葉が胸を突き刺した。
え? どういうこと?
憲兵が左から右から一気に取りつき、体の自由を奪い、引きずっていく。
なんで? どうして? 手紙には何が書いてあったの?
シロは、大丈夫って、また会えるって、そう言ったじゃない。
そう言ったじゃない……。
目の前が真っ暗になった。
最初のコメントを投稿しよう!