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牢屋……なのかな、ここは。
飾り気はないが、こぎれいで明るい小部屋に放り出された。
家具調度の類は何もないが、深紅の絨毯敷き。控えの間、と言った方がふさわしい感じ。でも、頭の中は混乱したままだった。
罪人っていわれた。いや、実のところそうなのだけど……。
ではここではどんな償いを科されるのだろうか。
茫然として座り込んでいると、部屋の扉が開き、ひょっこりという感じでのぞき込む人がいた。
「え? シロ?」
いや、この人は……。
「ざーんねーん。シロはシロでもハイシロでーす!」
入ってきた白い人は、扉を後ろ手にしめて弾むように近づいてきた。
「ツキシロは私のおねーちゃん!」
「おねーちゃん? え? おねーちゃん?」
あまりのことに開いた口がふさがらなかった。いや、どっちかなんて……気にしてなかったわけではないけど……。おねーちゃん……。
「ごめんねー。びっくりしたよねー。でも、ここ、古くさーい国だからぁ、あーゆー形式ばったことはちゃんっとやらないとぉ、五月蠅い人がたっくさんいるわけー。ゆるして?」
えと……いや、あの……ごめん、ぜんっぜん頭の中が整理できない。
「わたし、ハイシロは循環師。時間の流れを操る能力を持っているの。ツキシロは浄化師。あったものを無きものにする力を持っている。私の力をコントロールするには水晶の時計が、ツキシロの力を行使するには夢見草が必要だった。水晶の時計が狂い始めたとき、夢見草の花の勢いも衰えていることに気が付いて、ツキシロは時計をもってこの国を出た。時計を直してもらい、夢見草の若木を探すために。……でも、こんなにかかるとは思わなかった。大陸中の夢見草が潰えていたなんて……」
ハイシロは視線を落としてため息をついた。
「でも、ありがとう。あなたが手掛かりを教えてくれた。じきにツキシロも帰ってこられる」
「じゃぁ……」
シロに、また会える? 私の期待のこもった眼差しに、ハイシロは表情を曇らせた。
「……朱の国から一報が来た。『当国の罪人が逃亡した故に引き渡せ』と。あなたの人相書きと一緒にね」
「!」
「玄の国は、朱の国と罪人引き渡しの条約を結んではいない。故に、あなたを引き渡すことはない。でも、……あなたは一生この国を出られなくなる。外から来た移民は、まずこの光に閉ざされた北の国に慣れることが難しい。ましてや、常夏で温暖な朱の国から来たあなたが、年の三分の一が闇に閉ざされるこの国で、不幸になることは目に見えている。……それは、私たちの望みではない」
「では……一体」
「玄の国の方法で、あなたの罪を償います」
「玄の国の……方法?」
「そう。幸い、時計が戻ってきました。夢見草の古木も、あなた一人分なら浄化できるでしょう」
「え? それって……」
「あなたの時間を巻き戻します。罪のなかった時まで」
「え? ……そしたら……」
シロとの記憶は、全く消えてしまうのか? カラチャとのやり取りも、霧の谷での出来事も、セイランとの記憶も、カリヤスから託された思いも全部!
ハイシロと向き合ったまま動けなかった。これは……これは、シロもわかっていたことなのか?
青の港で別れ際言ったシロの言葉がよみがえった。
『いずれまた会える。……どんな形だとしても……。』
……大丈夫。
シロは……シロは、私のことを覚えてくれている! ならば……。
「わかりました。……私を、玄の国の方法で裁いてください」
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