紅雨

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 階下は細長いテーブルを囲んだ食堂のような部屋だった。壁、天井は、くすんだ赤い天幕で覆われている。手持無沙汰に立ち尽くしていたら、ふいに奥の天幕がゆれて目の覚めるような赤毛の女があらわれた。 「あら、ようやっとお出ましね。料理が冷めちゃうから、そろそろ声をかけようかと思ってたのよ」    女性らしい丸みをおびた豊満な身体をしたその女性は、カラチャと名乗った。 「食べられないもの、ある? カエルは平気?」  カエル……食べたことないけど……。とりあえず、うなずく。 「よかった。それで大丈夫だったな」  振り返ると戸口に黒い人が立っていた。用意した着替えのことを言っているようだ。 「そこの破廉恥女のクローゼットから、なるべく面積が広いのを選んだ」 「シロ、うるさい。部屋の中ではそのうっとうしいコートは脱げと、何回言ったらわかるの?」  シロと呼ばれた黒い人は、鼻で笑ったような音を立てるとフードを脱いだ。が、フードの下はまた目鼻を覆った黒い頭巾で、見ていたこちらから思わず変な声が出た。 「いいのよ、これ、笑っていいとこよ」  ため息を漏らすと、カラチャは踵を返して天幕の陰に消えた。 「適当なところに座るといい」  シロは戸口に近い席につき、長くて黒い足を組んで斜に腰かけた。  しばし躊躇ったが、シロから少し離れた席に浅く腰かける。それを見計らったかのタイミングで、天幕の陰から大皿を両手にカラチャが現れた。 「店の残り物で悪いけど、すぐ出せるのはこんなもんだから。あんた、見たとこ未成年みたいね。飲み物はお茶でいいわね」  大皿をテーブルに置くと、すぐにまたひっこむ。大皿は、何か……多分カエル? の串焼きと、果物の盛り合わせだった。シロに目配せすると「いい。さっき食った」と短く返された。ジョッキになみなみとお茶をいれ、カラチャが戻ってきた。 「遠慮せずどうぞお食べなさい」  向かいに座ったカラチャが、にっこり微笑んだ。何度か瞬き、カラチャとシロを交互に見る。シロが顎で促したので、遠慮なくいただくことにした。
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