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「失礼します」
父と話をしている最中、障子の向こうから聞き慣れた男性の声がした。彼は父の許可を得てゆっくりと障子を開ける。
「……蒼志、来てたの?」
紺の袷着物を着て部屋に入ってきた彼の名は『柊木 蒼志』。昔から付き合いのある華月家ご贔屓の老舗呉服屋の若旦那だ。
ちなみに袷というのは一般的に10月から5月の気温の低い時期に着る裏地のある和服の事で、私もよく着ている。
彼は老舗呉服屋の跡継ぎとは思えない明るい茶色に髪を染め、整った顔立ちにモデルの様なスラっとしたスタイルで、見た目はチャラい。そんな彼は私と同じ歳の幼なじみだ。
「あぁ茶道体験教室を見学させてもらったんだ」
「あっそう」
部屋に入ると蒼志は私の隣に座る。すると父は蒼志に話しかけた。
「どうだった?奏多の茶道体験教室は」
「奏多さんの茶道体験教室は若い女性が多くて華やかですね」
「ははは、奏多は人気があるからな。まぁ若い人に日本の伝統文化を伝える事ができて良いけどな。」
「いやでも奏多さんでも家元にはまだまだ叶わないですよ。」
父と蒼志は茶菓子を口にしながら談笑する。もうお見合いの話は終了でいいかなと、私はスッと立ち上がって部屋を出ようとした。
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