back beat 完全版

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シーン1 スタジオの中で主人公がスマホのカメラで撮影の準備をしている 立ち位置を確認したり場みったり、映り具合をチェックしたりしている 映像にナレーションが被る 主「世の中随分便利になったよな。オレが若い頃有名になるにはプロダクションのオーディションを受けたり、劇団のオーディションを受けたり…合格したとしてもプロダクションには何十万もの入所金を払い、月々のレッスン料を払いつつ、いつ訪れるかわからないデビューの日を待ちながら過ごしていた。 劇団に所属しても公演の度に一人あたりノルマがあって知り合いに頭を下げて高いチケットを買ってもらう…払えなかった分はもちろん自腹だ。 それが今じゃスマホ一つあれば動画サイトにアップして日本どころか世界中の人に自分の事をアピールする出来る。もちろんそれで生活していける人はほんの1握りだが、前に比べれば全然良い。 悪口を書き込まれたり、炎上したりはあるけど自分を表現して人に見てもらえるってことに比べれば、多少のリスク位なんてことない。」 撮影の準備が出来た主人公 撮影を開始しようと録画ボタンを押して場みった場所に立ち撮影を始める 主「皆さんごきげんよう…これじゃアサクラ…(笑)パクリみたいになってるじゃん…。」 タイトル挿入 「back beat」 シーン2 スタジオ・昼 折りたたみ椅子に座り考え込んでいる主人公 ノートに書いては消し、書いては消しを繰り返している そこへ生徒達が入ってくる ユリ、セイヤ、アヤ、サチコ ユリがリーダー格、それに並んで中性的な容姿のセイヤ、今どきのアヤ、このグループに不釣り合いな姿のサチコ ユリ「先生、何してるの?まだレッスン時間には早くない?」 主「今日からYouTuberデビューしようかと思って…」 ユリ「私たちと一緒じゃん!」 アヤ「ユリがプロダクションの公式チャンネルに上げる動画を撮れって、マネージャーに言われたの。」 セイヤ「オレ達はその手伝い。」 サチコ「セイヤ君も出たかったみたいだけど、動画に出るのはユリちゃんだけなんです…。」 ユリ「しょうがないじゃん、私可愛いし。」 得意げな表情のユリ セイヤ「はい、はい…」 サチコ「ユリちゃんは昔から可愛くてみんなの人気者だったの…」 アヤ「彼氏が出来たのもユリが一番最初だよね。」 主「これからデビューしようとしてる女優が元彼とかのことは言わない方がいいんじゃないの?」 ユリ「そうだけどさ…セイヤだってモテそうなのに彼女出来たことないよね。」 主「お前ら全員昔からの知り合いなの?」 ユリ「みんな幼なじみだよ」 主「プロダクションも同期で、幼なじみって、お前ら仲良いんだなぁ…」 セイヤが暗い表情を一瞬見せる 主人公はそれに気づく 主人公とセイヤ目と目が合い、セイヤはすぐいつもの明るい表情に戻る ユリ「だから、先生邪魔。」 主「はっ?!」 アヤ「私達これから撮影するから早く先生のどかして。」 主「オレも今から撮影するんだよ?HIPHOPチャンネルで、音楽やファッションやカルチャーを…」 言い終わる前に ユリ「可愛いレッスン生の為に先生が場所譲ってくれるってー」 アヤ「じゃあ準備しちゃおうー」 主「はい、はい、わかりましたよ。可愛い君達の為にお片付けしますよ。」 主人公はスマホやイスを片付けて出口に向かう スタジオの真ん中辺りで振り返りレッスン生達を見つめる セイヤと目が合う セイヤは軽く微笑みを浮かべて目礼する それに微笑み返しスタジオを後にする主人公 スタジオのドアの外 少し考え込む主人公 エレベーターが開いて他のレッスン生(小林)がスタジオに入ろうとする 小林「(爽やかに)おはようございます!もう入っても大丈夫ですか?」 主人公「おはよー!うん、中にセイヤ達も入ってるから!」 レッスン「今日も宜しくお願い致します!」 主人公「はいよー!」 スタジオの中へ入るレッスン生 主人公「あいつ、少し汗くさいな…」 階段を降りて行く主人公 シーン3 スタジオ 昼間 ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ床の上に座り話し込んでいる 話の内容は次の撮影について いいアイディアが浮かばないでいる そこへ主人公スタジオに入ってくる 主「おっ!?誰の悪口?オレ?社長?マネー…」 アヤ「違いますー!」 ユリ「次の動画の内容考えてるんだけど、良いアイディアが浮かばなくて…」 主「前はどんなの撮ったの?」 ユリ「私洋服とか好きだから、バイトしてるショップの新作を紹介したり、それを来てファッションショーみたいことしたんだ。ってか見てないの?」 主「あー…忙しかったからなぁ…」 ユリ「観てないんだよ、この人。」 主「そういう言い方すんなよ(笑)反響は?」 セイヤ「なかなかだったよ。コメントも結構きてたし。」 主「好きなレストランとか料理の紹介とかは?」 サチコ「ありきたり…ですね…」 主「お前、意外と言うね(笑)」 みんなにこやかに笑う 主「なんか良いのあるかなぁ…。」 他人事のように言ってスタジオの講師の席に座る主人公 その時ユリは鼻をクンクンさせる ユリ「思ってたけどさ、先生っていつもいい匂いするよね」 アヤ「私も思ってた」 主人公照れながら 主「そう?(笑)」 ユリ「私も香水好きで集めてるんだけど、先生は何使ってるの?」 アヤ「男の人の香水の匂いって苦手なんだけど、先生のはいい匂い」 主「だってさ、オレのは──」 主人公が言い終わる前に セイヤ「先生のは女性用でしょ?…フェラガモのインカントチャームだよ」 主「よくわかったな…オレも香水好きなんだけど、男の香水ってオヤジクサイ香りがして嫌なんだ。だからいつもグッチのラッシュ2とかフェラガモのインカントチャームとか女性用の好きな香りのフレグランスつけてるんだ」 アヤ「セイヤスゴーイ!」 セイヤ「オレも好きなんだ」 サチコ「女性用まで詳しいんだね。」 セイヤ聞き流す 主「ユリもセイヤも香水が好きなんだろ?じゃあ今度の企画はいつもつけてる香水とか好きな香水、そういうのを紹介する動画にしたらいいんじゃないの?」 ユリ「良いかも!香水の紹介の動画って見たことないね!」 セイヤ「じゃあそれにしようか?」 アヤ「いいね!」 アヤとサチコ笑顔で頷き合う 主「そんなに気を使わなくていいからな!」 ユリ「何の話?」 主「良いアイディアが浮かんだお礼なんて要らないからな!」 ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ顔を見合わせる ユリ「じゃあお礼に私とデートしよっか?」 主「えっ!生徒と講師はプライベートでうんたらかんたら…」 ユリ「ウソだよ(笑)」 主「知ってますー!まったく…」 外に出ようとする主人公 ユリ「どこいくの?」 主「レッスンの前に飲み物買ってくんの!」 笑いながら見送る四人 ドアを開けようとすると後ろから ユリ「先生!」 主「やっぱり禁断の恋がしたいのか?そういうのに憧れる年頃か?」 ユリ「違うの。デートはウソだけど二人きりで先生に話したいことあったのはホントだよ。」 主「どうした?」 ユリ「……ここじゃ…。」 主「…わかった。いつでも連絡してきな。」 ユリは頷いて、三人の元に戻っていく。 シーン4 スタジオ近くの公園 夕方 勾当台公園 帰宅しようと主人公は公園を横切ろうとしている コンビニの袋にビールが何本か入っていてニコニコしながら歩いている ふとベンチの方を見るとベンチにアヤが座っている ベンチに座るアヤに声をかける主人公 主「おい、何してんだ?」 アヤ「先生…動画のことで少し考えてたの。」 主「そういえばお前らさ、どういう役割分担で撮影してるの?」 アヤ「サチコが撮影したものを私が編集してアップロードするって感じ。」 主「じゃあ大変だな…オレも編集については詳しくないしな。」 アヤ「………」 主「編集のことで悩んでるのか?」 アヤ「違うの…この前ユリ、先生に何か話さなかった?」 主「話があるって言ってたな…仲間割れか?(笑)」 アヤ「もう!先生ってば…。」 主「冗談だよ、何かあったのか?」 アヤ「実はね…コメントのことなの。」 主「……。」 アヤ「先生は動画とか上げたことある?」 主「昔オレが出た映画とかドラマとか上がってるよ。」 アヤ「コメントきたりする?」 主「そりゃ多少はね。」 アヤ「私たちの動画にもコメントくるんだけど…ユリに対して誹謗中傷するような内容なんだ。」 主「でも多少そういうコメントはくるんじゃないのか?」 アヤ「普通のだったら別に気にしないよ…書いてある内容がさ、私達しか知らないようなことが書いてあるの…。」 主「どういう?」 アヤ「幼なじみにカメラ持たせてお姫様かよとか…」 主「動画を見た他の同級生だった奴らが書いたとかじゃないの?」 アヤ「それにね、撮影した日に現場で休憩してた時にタピオカ飲んでたの。それをユリがこぼしちゃって衣装にかかりそうになったの。」 主「それで?」 アヤ「撮影前だからってサチコと私で掃除したんだけど…そのことも書いてあって…自分でこぼしといて幼なじみに掃除させてって…たいして可愛くもないくせにって。」 主「そこの現場には他にはいなかったの?」 アヤ「私とサチコとユリだけ。」 主「セイヤは?」 アヤ「その日は友達と用事があったみたいで少し遅れて現場に来たんだ。」 主「じゃあサチコが書いたってこと?」 アヤ「サチコだけじゃなく、私も疑われてる。」 主「なんでお前とサチコが?」 アヤ「先生はわかるかな…?同じ悪口でも男が書いた悪口と女が書いた悪口って何となく違うの。」 主「女の感?」 アヤ「なんかね、わかるの。今回のは絶対女が書いてるの。」 主「お前たちが幼なじみって知っていて、更に撮影現場の出来事も知ってる人間でしかも女ってことか…。」 アヤ「折角チャンネル登録してくれたり、楽しみにしてるってコメントもあるんだけど、もう止めたいなぁって。」 主「勿体ないよ、続けなきゃ。オレに出来る事があれば協力するし、何か気づいたことあったらすぐ連絡するから。」 アヤ「ありがとう、先生。」 主「演技を教えるだけじゃなく、こういうのも先生の役割だろ(笑)」 アヤ「話したら落ち着いたし、そろそろ帰ろうかな(笑)」 主「もう遅いから気をつけて帰れよ!」 手を振り帰っていくアヤ その後ろ姿を見つめる主人公 シーン5 スタジオ 昼 主人公がスタジオのドアを開けて中に入ると ユリの怒鳴り声が聞こえる ユリの手にはカッターやハサミの様なもので切られボロボロになった撮影の衣装 ユリ「一体なんなの?」 サチコ「私じゃない…。」 ユリ「アヤどういうつもり?」 アヤ「私も知らないよ。」 ユリ「ここに衣装が置いてあるのは私達しか知らないんだよ?みんな知らないなら誰がやったっていうの?」 アヤ、サチコ黙って破かれた衣装を見つめている。 そこへ主人公がやってくる 主「何を大きな声だしてるんだ?」 アヤはすがるような目で主人公を見つめている ユリ「先生…衣装が…」 主人公はボロボロになった衣装を見る サチコ「私たちじゃないんです。」 アヤ「先生…。」 ユリ「ここに衣装が置いてあったのは内部の人しか知らないんだよ。」 主人公はユリを優しく諭すように 主「この中の誰がやったって決まった訳じゃないだろ?外部の人間や変質者の仕業かもしれない。」 ユリ「なんで私の衣装だけ?なんで私達のだけが荒らされるの?」 主「この件はプロダクションには報告せずに、オレに預けてくれないか?オレも今日から見回りや戸締りをきちんとしておくから。」 ユリ「こんなんじゃ、撮影なんて出来ないよ!」 主「結論を出す前に…変わったことや気づいたことがあったらオレが報告するから。オレなりに犯人を調べてみるから。ユリ、結論を出すのはその後にしてくれないか?」 ユリ「……。」 アヤ「ユリ…私達じゃないよ?」 ユリは返事をしない アヤはスタジオを出ていく ユリはそれを見向きもしない サチコは立ち去るアヤの方を見つめて、ユリを見て何かを言おうとするが止めてスタジオを出ていく ユリは衣装を手に持ったまま、下を向き涙を流す シーン6 スタジオビル内の階段 戸締りと見回りの為の主人公は鍵を持って階段を登っていく ドアを開けると真っ暗なはずがすりガラスの向こう、控え室だけ灯りがついている 主人公は犯人を見つけたとばかりに静かにドアを閉めて、そうっと中にはいる シュッシュッというような音が聞こえてくる 主「何の音だろう?」 シュッシュッという音はまだ続いている そうっと控え室を覗くとそこにはサチコが衣装を持って立っている 主「サチコ。」 驚くサチコ サチコ「先生…」 主「こんな時間に何やってるんだ?驚いたよ(笑)」 サチコ「……ユリちゃんは香水が好きなの。良い香りがするとテンションが上がるって…だから私ユリちゃんの衣装をしまう前や撮影前は必ずこれをしてたの。」 手にはスプレータイプの消臭剤のスプレー にこやかな顔でサチコを見る主人公 主「そっか。」 サチコ「昼間はあんな事になっちゃったけど、また撮影再開するはずだし私はユリちゃんを綺麗に撮ってあげたいから。」 主「サチコが、カメラマンだもんな。」 サチコ「私昔からユリちゃんに憧れてたの…私ねずっとイジメにあってて…でも修学旅行でたまたまユリちゃんと同じ班になって話すようになってからイジメられなくなったの…きっとユリちゃんが庇ってくれてたんだと思う…私は可愛くないしユリちゃんみたいにはなれない…毎日学校が楽しくなるっていう夢をユリちゃんが叶えてくれたみたいにユリちゃんの夢の…有名になりたいっていうユリちゃんを夢を支えることが今の私の夢なの。」 レッスンで見せたことも無い笑顔を見せるサチコ 主「じゃあオレが何とかしないとな(笑)」 頷くサチコ 主「そういえば、セイヤは最近見ないな?アヤの話だとタピオカの時も遅れてきたんだろ?やる気ねぇのかな?」 サチコ「………先生、その日ユリちゃんもアヤもセイヤ君遅れて来たと思ってるけど違うの…私見たのセイヤ君のこと。」 主「えっ?」 サチコ「タピオカこぼした時に掃除しなきゃって思って、女子トイレからトイレットペーパーを借りて戻ってきた時に…ユリちゃんを見てるセイヤ君を見つけたの…。」 主「それで?」 サチコ「私には気づいてなかった、セイヤ君焦ってるぽかったから。遅れたから急いで来たとかじゃなくて、逃げて来たみたいな…それから暫くして遅れてゴメンって来たの。」 考え込む主人公 シーン2の時のセイヤの暗い表情がフラッシュバックする 主「その事は誰にも言わないでてくれるか?」 サチコ「言わないよ、誰にも。だから先生も今日私がしてたこと誰にも言わないでね。」 主「もちろん(笑)」 主人公は黙って頷く サチコ「先生…私たちを助けてね…。」 主「生徒を守るのは当たり前だろ。」 サチコ「ありがとう。」 主「遅くならないうちに片付けて帰るんだぞ。」 サチコは頷きながら嬉しそうな様子で丁寧に丁寧にハンガーに衣装をかけて、丁寧に丁寧にたたんで片付けていく サチコの姿を同じく嬉しそうな様子で見守る主人公 シーン6 仙台市内 広瀬川沿いで考え込む主人公 ため息をつく 主「とは言ったものの…全然わかんねぇな…」 川沿いを歩く 仙台市内の市街地を歩く シーン7 仙台市街地 晩翠通り辺り 主人公、通りの向こうを歩くセイヤに気づく セイヤは主人公に気づいていない 主「セイヤだ…バイトかな?ちょっと驚かしてみるか(笑)」 セイヤの後を付ける主人公 セイヤはとあるビルに入っていく 主「なんの用事があってこのビルに入ったんだろう…」 中に入ろうとすると、勢いよくビルの中から出てくる大柄な(女性?) ぶつかりそうになり、避ける主人公 (女性?)頭を下げて足早に立ち去る (女性?)の後ろ姿を呆然と見送る主人公 主「…仙台も自由な風が吹いてきてるな…。色んな人がいるよ(笑)」 クンクンする主人公、自分のワキの下の匂いも嗅いでみる 主「あの人…運動の後かな?」 主人公後ろから肩を叩かれる 男A「お兄さん、何かようなの?」 主「いや、別に…」 男B「ちょっとさー、こっちに来てくれる?」 主「えっ!」 抵抗するも男二人に連れていかれる主人公 男「いいからこっち来いよ!」 男二人に挟まれる形で連れて行かれる主人公 シーン8 仙台市内のどこかの駐車場 男A「あんたなんの用事があってあそこに来たの?」 男B「誰かの後をつけてきたよな?」 主「いちいちあんたらに言う必要あんの?」 男A「こいつストーカーのくせにいい度胸してんな。」 主「誰がストーカーだ、この野郎。」 男B「ちょっと痛い目に合わせるか?」 舌打ちする主人公 そこへ後ろから声がかかる ヒロ「その人には手を出さない方が良いんじゃないか?」 主人公振り向く 主「おまえ…」 ヒロ「久しぶり、おにぃ。」 ヒロ笑顔で微笑む 隣には大輔 ヒロは背が高くモデルのような出で立ち 大輔はヒロより背が低いがヒロより力強そう 二人とも高級そうなスーツ姿 だがサラリーマンの様な雰囲気ではない だがホストほど下品な感じでもない 大輔「ご無沙汰してます。」 主「大輔も…お前らどうして。」 ヒロ「ウチのビルの下で絡まれてる人がいるからさ(笑)」 大輔「ヒロさんもお兄さんだと気づいてたみたいなんですが…苦笑」 ヒロ「短気なおにぃがどんな対応すんのか興味があって(笑)」 主「相変わらずだな、お前らは(笑)」 男A「じゃあこの方はヒロさんの…」 大輔「ああ、ヒロさんのお兄さんだ…お前ら良かったな手出さなくて…お兄さんキレたら怖いからな。」 主「オレは心の広い優しい人間だから!」 大輔「でもチッって言ってましたよね(笑)」 主「だってさぁ」 ヒロ「そういうことだから、お前ら行って良いぞ。」 男A、B主人公に謝りながら駆け足で逃げていく。 大輔「でも、なんであんなとこにいたんですか?」 ヒロ「こっちに戻ってきたのは知ってたけど、今はプロダクションか何かで演技教えてるって。」 主「オレの教え子が、あのビルに入って行ったから…あんな雑居ビルになんの用かと思ってさ。」 ヒロ「ふーん……ここじゃなんだから場所変えるか。」 大輔「はい、車出します。」 シーン9 亘理 鳥の海 夜 ポツポツとライトがついている ヒロ「まさか、あんなとこでおにぃに会うとは思わなかったよ。」 主「オレもだよ…で、あのビルは何なんだ?」 ヒロ「オヤジが持ってるビルでさ…。」 主「あぁ…。」 ヒロ「オレはあそこの管理を任されてるんだけど、出会いカフェっていうか、散歩カフェっていうか…わかるかな?」 主「わかるよ。」 ヒロ「それの男の子版ってこと。」 主「それって…」 大輔「普通は女の子がお客さんを待つんだけど、あそこでは男の子がお客さんを待ってるんです。」 主「じゃあ客は女ってこと?」 大輔「いえ、男性です。」 主「男の子を男の客がお金払って連れ出すってこと?」 大輔「そうなります。」 主「…。」 大輔「LGBTってご存知ですか?」 主「わかるよ。」 ヒロ「今はそういうことに対してオープンになってきてるでしょ。オレはそういう差別は好きじゃないし、そういうお店があっても良いと思って作ってみたんだ。もちろんイリーガルな面も含めてだけどさ。」 主「じゃあお客は気に入った子がいたら連れ出して?」 大輔「そこから先は自由恋愛になります。その先でどんなやり取りをしたとしても自由ですし、店側はキックバックを受け取ることはありません。」 ヒロ「とは言ってもさ、大っぴらには出来ないでしょ?だからオレらがそういう場を作って管理してるってこと。」 大輔「中にはタチの悪い奴もいるので…付きまとったり、バラすぞと脅かして無理矢理関係を続けさせたり…。」 ヒロ「そういう時はオレらが出ていって、二度と脅したりする気が起きないようにするのさ。今日おにぃがあいつらに声かけられたのも、付きまとったりしてる奴じゃないかって勘違いされたってことだね。」 主「トラブルはよくあるのか?」 ヒロ「しょっちゅうだよ。」 大輔「さっき車の中で伺った、その男の子ですが…。」 主「あいつがどうかしたのか?」 大輔「つい最近も付きまとわれて困ってると店に報告が入ってます。」 ヒロ「今日のミーティングでも、そいつ痛めつけてやろうかって言ったばかりなんだ。」 主「………。」 ヒロ「怖い顔になってるけど、どうかしたの?」 主「いや、何でもない。忙しいのに悪かったな。」 ヒロ「おにぃが我慢してくれたお陰でオレは何の苦労もなく育ってこれたんだ…兄弟だろ?何かあったらいつでも言ってくれよ。」 大輔「お兄さんの為なら何でもやりますよ。」 主「……悪いな。」 シーン10 ビルの前 夜 ビルから出てくるセイヤ 声をかける主人公 主「おい、セイヤ。」 振り返るセイヤ セイヤ「先生」 微笑む主人公 主「少し付き合ってくれよ。」 頷くセイヤ シーン11 夜 勾当台公園 セイヤ「何でボクがあそこにいるの知ってたの?」 主「あのビルな…オレの弟が仕切ってるんだ。」 セイヤ「えっ!…でもオーナーとは名字が…」 主「異父兄弟っていうのかな…お袋が再婚して弟が生まれたんだ。」 セイヤ頷く セイヤ「じゃあボクがあそこで何してるかも?」 主「聞いたよ。」 セイヤ「ウリしてるわけじゃないんだよ!いい出会いがあれば良いなって思って…ボクこんなだから…気持ち悪いって思った?」 主「そんなに自分のこと悪く言うことないだろ?」 優しく微笑む教師 主「気持ち悪いなんて思いもしなかったよ。」 セイヤ「何で?」 主「だって、それがお前なんだろ?」 セイヤ「でもさ…。」 主「それも含めてお前だろ?気持ち悪いも何もないじゃん。セイヤはセイヤだろ?」 セイヤ「先生は嘘つかないんだね。」 主「何が?」 セイヤ「普段のレッスンで言うじゃん。本当の自分を出せって。」 微笑む主人公 セイヤ「嘘をつくのが役者じゃない。自分の感情や衝動に正直になるのが役者だって。」 主「そうだよ、よく覚えてるじゃん。」 セイヤ「…」 主「ありのままで良いと思うぜ。」 セイヤ「うん。」 主「でもいくら嫉妬したからって、悪口書き込んだり、衣装破いたりは良くないぜ。」 セイヤ「えっ?嫉妬って?」 主「同性としてユリに嫉妬したんじゃないの?」 セイヤ「何言ってんの、先生。ボクは男性が好きな男性だよ。」 主「えっ?身体は男性だけど、心が女性ってわけじゃないの?」 セイヤ「違うよ。身体は男性だし、心も男性だけど、男性が好きなの。だからユリに嫉妬なんかしないよ。あいつ幼なじみだよ?心から応援してるし、良きライバルだよ。」 主「じゃあ、だれが…。」 考え込む主人公 セイヤ「先生、実は…。」 主「あっ、そういえばお前誰かに付きまとわれてるって聞いたぞ。」 セイヤ「ボク、お店でお客さんを待ってたんだ…そしたら…。」 回想シーン 店内 如何わしい雰囲気はなく普通の待合室のように見える セイヤは雑誌をパラパラめくっている ボーイ「ヒカル君、ご指名です。」 セイヤ「はーい。」 店内 別室 ネカフェのペアシートの様な狭い部屋 セイヤがドアを開けて入ると セイヤ「失礼しまーす。」 セイヤはお客さんを見てフリーズする お客「まさか、こんなとこでセイヤ君に会えるなんて思ってなかったわ。」 下を向き俯くセイヤ セイヤ「…」 お客「前からセイヤ君のこと気に入ってたんだぁー。」 セイヤ「本名で呼ぶのやめてくれよ。」 お客「ごめんなさい、ここではヒカル君ですもんね…うれしー運命の出会いね」 セイヤは顔を上げてお客を見据える セイヤ「小林くんがなんで…。」 そこには女装した小林が満面の笑みを浮かべて座っている。 回想シーンの小林の画面に被せて 主「小林が!?」 回想シーンあける セイヤ「うん。それからボクが入っている時は必ず来るようになって…しつこいんだ、あの人。」 主「…。」 セイヤ「付き合わないとバラすぞとか脅されてるうちにズルズル…。あいつ女装する時いつも同じウィッグ被ってるから汗臭いんだ…。」 主「それで、あいついつもスポーツした後みたいな匂いするんだな!?」 セイヤ「ボク、ユリ達と動画やってるでしょ?それにヤキモチなのか何なのかわからないけど、ユリの事をブスとか悪く言ったり、あんな女達とは付き合うなとか、撮影にも後をつけてきたり…。」 主「じゃあもしかして悪口書き込んだり、衣装に嫌がらせしてるのは…。」 セイヤ「あいつだと思う…だから撮影に行ったらユリ達に迷惑がかかると思って…。」 主「それは違うよ。ユリもアヤもサチコもお前を待ってると思うよ。」 セイヤ「…。」 主「ユリは今、疑心暗鬼になって誰も信じられないでいる。アヤは自分がこれから制作に進むのかどうか迷ってる。サチコはユリの夢を叶えたいと影であのチームを支えてる…お前にも出来ることがあるんじゃないか?」 セイヤ「こんなボクでも?」 主「こんなってなんだよ。お前らは幼なじみで、同期で、それぞれ夢を叶えようと努力してる仲間だろ?どんなお前だって受け入れてくれるさ。」 セイヤ「…」 主「確かにな、ここは田舎だから偏見の目を持ってくる古臭い人間もいるかもしれないよ?けどさ、仲間を信用してみろよ。」 セイヤ「信用?」 主「こんな自分って自分を悪く言うのは、心の中で自分に自信を持てないでいるからだ。こんな自分じゃダメだって。そうじゃないよ。どんなことがあろうとセイヤはセイヤだろ?男が好きでも女が好きでも同性愛者でも、なんであってもセイヤはセイヤじゃないか!?もっと自分を信用してやれよ。そしてそういうお前と子供の時からずっと一緒にやってきたあいつらを信用してやれよ。」 セイヤ「先生…」 主「きっと、あいつらは受け入れてくれると思うぜ。」 涙を浮かべるセイヤ 主「苦しかったな…でもな…泣くんじゃねぇーよ」 笑顔でセイヤの頭に手をのせる主人公 シーン12 夜 仙台市街地を歩いている主人公 歩きながらスマホで電話をかける 主「もしもし、オレ。ちょっと頼めるかな?──そう、その付き纏ってる男のことで─」 悪い顔をしている主人公 主「よろしく頼む。」 スマホを切り、足早に歩いていく シーン13 夜 仙台市街地 ビルの前 セイヤは入ろうか立ち止まって迷っている 中に入ろうとした時にセイヤは声をかけられる ビクッとするセイヤ ヒロ「ヒカル…いや、セイヤって呼んだ方が良いかな。」 優しく笑うヒロ セイヤ「オーナー…」 ヒロ「飯は食ったのか?ちょっと付き合えよ。」 歩き出すヒロ ついて行くセイヤ 仙台市街地を歩きながら ヒロ「お前、タレントとか?アーティストとかそういうのになりたいんだってな。」 セイヤ「…。」 ヒロ「お前はもううちには来るな。お前は表舞台で光を浴びたい人間だ。そんな奴が来るとこじゃない。」 セイヤ「でも、ボク…」 立ち止まるセイヤ ヒロは振り返り ヒロ「仙台はまだ田舎だよな…お前達みたいな奴らを理解出来ないでいる古い考え方の人間の方が多い…オレらと何も変わらない人間なのにな。」 セイヤ「…。」 ヒロ「有名人になるって夢があるなら、ウチみたいな店でこそこそするんじゃなくて、お前と同じ悩みや苦しみを持った人達が海外だろうと、東京だろうと、仙台だろうと、堂々と胸をはって主張していける…そういう社会に変えていくっていう役目があるんじゃないのか?」 セイヤ「有名人として…。」 ヒロ「そうだよ。ただ漠然とカッコイイでしょ?可愛いでしょ?じゃなくて、人に何かを伝えていく、人に何かを与えていく、それが俳優やタレントや有名人の役目なんじゃないのか?」 セイヤ「…オーナー。」 ヒロ「今はネットなら誰でも匿名で好き勝手なことをほざける世の中だ。人に後ろ指を指される様なマネはするな。向こう脛に傷のある人間になるな。光の差す表舞台を堂々と歩いて、人に何かを与えられる人間になれよ…」 頷くセイヤ ヒロ「まあ、全部アニキの受け売りなんだけどな(笑)」 笑うセイヤ ヒロ「困ったことがあったらいつでも連絡してこい。」 セイヤ「はい。」 ヒロ「お前が有名になるの楽しみにしてるよ。」 セイヤの肩を叩いて歩き去っていくヒロ その後ろ姿をずっと見つめているセイヤ シーン14 スタジオ 昼間 レッスンの前 主人公はいつもの席に座りなにか書類を書きながら、レッスン生達の様子を見ている セイヤ、ユリ、アヤ、サチコが四人で楽しそうに雑談している 他のレッスン生達もいる ナレーション挿入 主「それからセイヤは自分自身の気持ちやこれまでの悩みをユリ、アヤ、サチコに伝えたみたいだ…これまでたくさんの時間を共に過ごし、同じ夢を見てきた仲間の絆は簡単に壊れるものではなかった。むしろ四人が四人とも正直な思いをぶつけ合い、さらに絆は深まったようにオレには見える。 これからはたくさん面白い動画をあげて、視聴者を楽しませていくんじゃないかな。 ……セイヤに付き纏っていたあの小林ってレッスン生は──」 回想シーン挿入 店内でセイヤを指名する小林 小林「ヒカル君お願いします。」 ニヤニヤしている小林 店員「一番奥の部屋でお待ちください。」 いつもの様に室内へ向かう小林 個室内 座ってセイヤが来るのを待つ小林 すると大輔他ガラの悪い男たちが室内へズカズカ入ってくる 小林「一体──。」 大輔は小林の髪の毛を掴み、ポケットからナイフを取り出し小林の鼻に先を入れる 大輔「お前は喋るな。いいか?」 頷く小林 部下は上着から免許証を出す 部下「免許証がありました。」 大輔「写真を撮れ。裏もだ。」 怯えている小林 大輔「何故こうなってるか、わかるか?今後二度とあいつに近づくな。誰の事を言ってるかわかるな?」 頷く小林 大輔「もしまた付き纏ったり、ネットに悪口を書き込んだりしたら…どうなるかわかるな?」 頷く小林 大輔「オレたちはどこまでも追いかけるぞ?どこまで逃げても必ず見つけ出す。仙台だろうが、東京だろうが、沖縄だろうが関係ない。必ず追いかけてお前を見つけ出す。」 唾を飲み込む小林 大輔「理解したら返事をしろ。」 小林「はい。」 目で部下に合図を送ると一枚の書類を小林の前に置く 大輔「名前を書いてハンコを押せ。」 小林「印鑑が…」 大輔「拇印でいい。書いたら出ていけ。」 急いで書いて出ていこうとする小林 部屋を出る所で大輔は呼び止める 大輔「おい…二度とオレと顔を会わすなよ…。」 小林「はい!」 部屋を出ていく小林 シーンは先程のレッスンスタジオの続き 四人は楽しそうになにか話している ナレーション再開 主「あいつは二度と顔を出さなくなった。人を脅したりゆすったりする卑怯な人間なんていざ自分が同じ立場になったらすぐ逃げていく…そんなもんだ。」 セイヤ「でもさ、先生の弟さんカッコイイんだよねー」 笑顔で主人公を見るセイヤ 主「まーさーかー…」 笑い合う講師と生徒たち ユリ「ところで、先生の動画の番組名決まったの?」 主「あぁ…それか…お前らも出るか?コラボするか?」 アヤ「初回から?」 主「いいの、いいの!」 シーン15 スタジオ内 カメラの前でもう少し右などと立ち位置の指示を出す主人公 セットしてカメラの前に立つ 主人公の後ろには右からセイヤ、ユリ、アヤ、サチコが並んでいる 主人公はカメラに向かいカッコつけながら 主「皆さんはじめまして!荏原です。『backbeat!』のお時間です。」 笑い出す荏原と四人 シーン16 仙台市街地 南町通り付近 昼間 休日らしくそこまで人通りはない 20代過ぎの男性が母親に手を引かれて歩いている奇妙な光景 2人は横断歩道を渡っている 母親は急ぎ足で渡ろうとしているが、男性の方はマイペースで歩いている 母親は若い頃は美しかったであろう外見でどことなく夜の仕事をしていたような雰囲気がある 男性は真面目な中学生や高校生が親に買い与えられたようなどこにでもあるデニムパンツにチェックのシャツ、ノーブランドのスニーカー 手を引かれてビルの中に入っていく シーン17 レッスンスタジオ 昼間 (オーディション会場) スタジオの奥には長テーブルが置かれている テーブルの前には三脚に備え付けられたデジタルカメラ そのテーブルには荏原とチーフマネージャーが席に着いている スタジオ入り口付近にパイプ椅子があり、それに座っている先程の親子 荏原は立ち上がり親子の方へ歩いていく 荏原「エントリーシートは記入されましたか?」 母親「はい、終わりました。」 荏原「では、こちらにどうぞ」 親子をカメラの前方の床にバミってある場所へ案内する 席に座る荏原 チーフ「ではオーディションを始めます。…えー吉岡さんですね?」 母親「はい、吉岡拓真と申します。」 首を傾げたり、シャツの裾を叩いたり、何かを呟いたり落ち着きがない拓真 チーフ「拓真君は何になりたくてうちのオーディションを受けましたか?」 拓真「………。」 拓真は何も答えず白昼夢を見ているように自分の世界の何かを見ているよう 母親「拓真は絵や写真等が好きでいつも見ています。」 チーフ「…そうですか…。拓真君はどんな絵や写真が好きですか?」 母親「拓真は動物や風景の絵が…」 チーフ「お母さん、私は拓真君に聞いているんです。拓真君に答えさせて下さい。」 母親「拓真はコミュニケーションを取るのが苦手で…。」 チーフ「うーん、人と話せない子がこういう場所でレッスンやデビューを目指すのは難しいんじゃないですか?」 荏原はやれやれまた始まったという表情でチーフを見ている 母親「拓真の父親がこのままではいけないから、こういった所でコミュニケーションを取る訓練をした方が良いとの勧めもありまして、本日オーディションを受けに来た次第です。」 チーフ「とは言ってもここは訓練校じゃないからねぇ…。」 荏原「拓ちゃんは何の動物好きなの?」 笑顔で話しかける荏原 拓真「…うーん、猫さんやワンコが好き…。」 緊張しているようだが、何とか質問に答えようと一生懸命考えてる拓真 荏原「そっかぁ、オレもワンコ好きだよ。それにね、海を見に行ったりして写真を撮るのも好きなんだ…下手くそだけどね」 変わらぬ笑顔で語りかけ続ける荏原 拓真「海は青!青…青。」 興奮して青と連呼する拓真 荏原「拓ちゃんは青好きなんだね。」 拓真「うん、青好き。青い人も好き。緑の人と青の人が好き。」 荏原「青の人?」 拓真「そうだよ、あなたも青の人。ずっと青かった。」 荏原「昨日飲みすぎたかな…。チーフ、オレ顔色悪いですか?」 母親「拓真は人に色がついてるって言うんです。」 荏原「へぇー…じゃあ、オレは青の色してるんですね?」 母親「私は拓真にはオーラのようなものが見えているんだと理解していました。」 荏原「青のオーラを身に纏う男…オレ超カッケー笑」 母親「音楽にも色がついてるって言います。」 チーフは胡散臭げに拓真と母親を見ている チーフ「わかりました。ではオーディションの結果は後日メールか電話にてお知らせ致します。連絡がなかった時はご縁がなかったということで…。」 母親は手を引き拓真を立ち上がらせて 母親「今日はお時間を作って頂きましてありがとうございました。宜しくお願い致します。」 拓真は相変わらず自分の世界で自分の見える風景を見ているよう 荏原「拓ちゃん!そのおじさんは何色なの?」 拓真は言いずらそうにしながら 拓真「き…き黄色…おじさんは黄色…」 チーフ「おじさんって…。」 荏原「黄色ですって!良かったですね、明るい色で!拓ちゃん黄色は好きなの?」 拓真言いずらそうに 拓真「き、き、黄色は緊張する…黄色は怖い…怖い。」 荏原「そうなんだ…。」 母親「行きましょう、拓真。」 一礼してスタジオを後にする二人 荏原「拓ちゃん、合格するといいね!」 バイバイと手を振る荏原 シーン18 プロダクションの事務所内 夜 チーフと荏原が背中合わせに座ってい それぞれのデスクとイスがあり、ノートパソコン等が置いてある 荏原は台本等を読んでいる チーフのスマートフォンが鳴り、誰かと会話している、目上の人の様だ チーフ「はい、はい、かしこまりました。それはもちろんです。わかりました、荏原先生のクラスに入って頂きます。もちろん私も合格だと思っていました。はい、ではまたはい、失礼致します。」 スマートフォンを切り、じろりと荏原を一瞥して チーフ「先日の拓真君いたよね?」 荏原「あぁ…あのオーラの子ですよね?」 チーフ「社長にオーディションの内容の動画を送ったんだけどさ…合格にしてあげなさいって。」 荏原「へぇー、思ったより社長は理解がある人なのかな…。」 チーフ「あれが合格なんて…ここは絵画教室でもなんでもなく芸能プロダクションなのに…レッスン生として受け入れるって…。」 荏原「でもそういう芸術に興味があるってことはいい事じゃないですか…演技だって音楽だって芸術ですよ。共通する何かがあるかもしれないし。」 チーフ「でも…。」 荏原「…偏見ですか?」 チーフ「いや、そういうわけじゃないんだよ。」 荏原「人と違う感覚を持っているって大事なことですよ。拓ちゃんだけでなく、他のレッスン生達にだって良い影響があるかもしれないし…。」 チーフ「荏原先生のクラスにって社長は言ってたけど、ちゃんとレッスン出来ますか?他の生徒達に迷惑をかけずに。」 荏原「いつもと同じメニューをやります。」 チーフ「大丈夫なんですか?」 荏原「………でも、社長が自ら合格にしろって連絡よこすなんて…まさか…社長の愛人の子どもなのでは?」 チーフ「それはないでしょー。いくらなんでも…でも電話よこしてまでって初めてなんだよなぁ…。」 荏原は呑気にチーフの肩を叩いて 荏原「じゃあ、私は帰ります!お疲れ様でした!」 チーフ「…あぁ、お疲れ様でした。」 チーフは自動ドアから出ていく荏原の後ろ姿を見つめて チーフ「全く呑気なもんだよ……オレも終わらせて帰ろっ。」 キーボードを叩き始めるチーフ シーン19 スタジオ内 昼間 レッスン中 スタジオ内では演技のレッスンが行われている 荏原は長テーブルにパイプ椅子に座っている レッスン生達はその前に座り、二人の生徒が出てきてシーン稽古している 拓真の番になる 相手は今どきのチャラそうな気の強そうな鈴木 拓真の事を見下しているよう 荏原に対し 鈴木「この人本当にやれんすか?」 ムッとした表情をするレッスン生の中の玲奈 荏原はその表情に気づいたが 荏原「出来るからやりなよ。」 鈴木「違う人と組みたかったなぁー。」 荏原「じゃあ、背中合わせになって…いきます…よーい」 一つ大きく手を叩く荏原 スタートの合図だ ※このレッスンシーンではメソッドアクティクティングの中のマイズナーテクニックであるレペティションの練習をしている しばらく二人でレペティションのトレーニングをしている 普段のちゃらんぽらんな様子はなく、鋭い目付きでそれを見ている荏原 レペティションの間、やはり拓真は相手の目を見られないでいる 返す言葉もしどろもどろ すると突然鈴木がトレーニングを中断する 鈴木「先生、やってられないですよこの人とは。」 荏原「誰が勝手にストップして良いって言った?」 鈴木「でも、この人…」 荏原「現場ではな、監督以外シーンをストップさせる権限はないんだよ。何勝手な判断で役者がストップさせてんの?」 鈴木「……。」 荏原「いつも言ってるけど、そのシーンでその演技が良いか悪いかを決めるのは映像なら監督、舞台なら演出家だ。」 拓真はいつもと同じように宙を見つめ、表情も変わらないがどこか仕草がぎこちない 鈴木はそれでも不貞腐れた態度を止めない 鈴木「でも、彼はこっちちゃんと見ないじゃないですか?それでどうやってレペティションするんですか?」 荏原「レペティション、レペティションって覚えたての言葉を自慢げに話す子供じゃあるまいし…オレはね日常会話における相手との交流感や会話感をシーンに持ち込みなさいっていう意味でレペティションしなさいって言ってんの。わかる?」 鈴木「はい。」 荏原「お前は日常会話において電話したりしないの?その時は相手の表情見れてんの?見れない時はどうしてんの?」 鈴木「聞いてます。」 荏原「だろ?相手の声色やトーン、色々聞いて感じてレペティションしてんだよ。」 鈴木「……。」 荏原「拓ちゃんは確かにお前を見れてないかもしれないよ。けど、聞いてちゃんとお前から受け取っているよ。影響されて、起きた感情をセリフに乗っけてるよ?気づかない?」 鈴木は俯いているが、素直な態度ではない 荏原「オレは相手を見ろって。相手の話を聞けってしつこく言ってるよ。そこで生まれてきた感情をセリフに乗せなさいって。お前が拓ちゃん見ててどう思ったかはわからない。でも思ったならそれをそのまま相手に返してやれよ。嫌味ったらしく中断しないで。見る、聞く、それが演技の全てだよ。」 鈴木「はいっ…。」 荏原「拓ちゃん緊張した?」 頷く拓真 荏原「慣れてくるから大丈夫だよ。レペティション出来てたよ。」 少し嬉しそうにする拓真 拓真「あ、あ、ありがとうございます…。」 時計を見る荏原 荏原「じゃあ、時間なんで今日のレッスンはここまでにします!お疲れ様でした!」 生徒達「お疲れ様でしたー!」 後ろを振り向きやれやれという表情をする荏原 シーン20 レッスン同日 レッスン場内 ロッカー兼控え室 室内には奥に玲奈、真ん中辺りに鈴木、手前のロッカーに拓真の順で帰り支度をしている 鈴木は皆に聞こえるように独り言の嫌味を言う 鈴木「あーあ、今日は誰かさんと組まされるし、そのせいで先生にも怒られるし、ついてねぇなぁ。」 玲奈「やめなよ。」 拓真はその雰囲気を敏感に察し、急いで出ていこうとするが焦りでなかなかシャツのボタンが閉められない 鈴木「辞めればいいのになぁ。この前はちゃんとセリフも覚えてこないし、超迷惑だよ、マジで…ねぇ、拓ちゃーん誰のこと言ってるかわかる?拓ちゃんでも嫌味はわかるの?」 玲奈「お前、いい加減にしろよ!」 玲奈はハーフのような可愛らしい外見からは想像も出来ないようなヤンキー口調 玲奈「拓ちゃんが何か悪いことしたかよ?」 鈴木「今日だってオレに迷惑かかったろ!」 玲奈「お前が未熟なんだろ?先生の話を聞いてなかったのかよ?」 鈴木「依怙贔屓なんじゃねぇの?弱いものの味方して自分に酔ってんだよ、先生も。」 玲奈「…私は文字が読めねぇんだよ…台本見ても文字が読めねぇから覚えられねぇんだよ…学校でもずっとバカ扱いされたよ…けどなオーディションの時に先生に言われたんだよ…読んでセリフ覚えられないなら聞いて覚えれば良いって…大変かもしれないけど、海外にはそういう役者がいっぱいいるって…だから諦めるなって……あのさ、お前と私で何が違う?」 鈴木「…違わねぇよ…」 玲奈「じゃあ私と拓ちゃんとで何が違う?」 鈴木「……」 玲奈「言えよ…私は拓ちゃんと何も変わらねぇよ…言えよ、言ってみろよ…お前と拓ちゃんとで何が違うって言うんだよ!」 鈴木の胸ぐらを掴む玲奈 拓真「止めて下さい…あぁ、ボクのせいだ…あぁ いつもみんなを怒らせちゃう…」 拓真は落ち着きがなくなり、その場で足踏みを繰り返したりシャツの裾を叩いたりする 玲奈「違うよ、拓ちゃん、拓ちゃんのせいじゃないよ。」 拓真「わかるんだ…ボクがバカなせいで…母さんと父さんも…あぁ、ボクが悪いんだ…みんな黄色くなってる…黄色とオレンジ、黄色、オレンジ、黄色…あぁ」 ロッカーを開けっ放しで控え室を飛び出していく拓真 荷物は置きっぱなし 玲奈「拓ちゃん!」 鈴木「ほっとけよ!」 玲奈「みんなと同じに出来なきゃ夢を目指しちゃいけねぇのかよ!」 シーン21 同時刻 レッスン場 長テーブルで書類を書いている荏原 バーンという音と共に控え室から出ていく拓真の後ろ姿を見た荏原 荏原「何かあったのか?」 歩いて控え室に行く荏原 控え室の中では玲奈が鈴木の胸ぐらを掴んでいる 荏原「どうした?拓ちゃん走って行ったぞ?」 玲奈「拓ちゃんが…飛び出して行っちゃった…」 荏原「これ拓ちゃんの荷物じゃん…ちょっと行ってくる!」 拓真の荷物を手に持ち外にかけて行く荏原 玲奈「私も行く!」 鈴木を突き飛ばし、荏原の後を追いかける玲奈 シーン22 ビルのエントランス 荏原は階段で降りてくる 辺りを見回して拓真がいないか探している ビルの外に出て周りを見渡すが拓真の姿はない 後ろから玲奈が駆けてくる 玲奈「拓ちゃんいた?」 荏原「いや、いない…とりあえず探してみよう」 玲奈「うん。」 南町通りの仙台駅方面に向かう横断歩道へ駆けて行く二人 その手前で信号待ちしている女性がいる。 玲奈「あっ!あの人…。」 荏原「どうした?」 玲奈「緑さん!前に拓ちゃんと一緒に帰った時に緑さんって拓ちゃんが指さしてた。」 荏原「ちょっと聞いてみよう。」 信号待ちをしている女性に荏原は小走りで緑に近づく 荏原「すみません、緑さんですか?」 女「いいえ、違います。」 キッパリとした毅然な態度 荏原「でもあなた緑さんですよね?」 女「だから違います!私、葵です。」 荏原「緑じゃなく青い?」 歩き去ろうとする女性に後から来た玲奈が声をかける 玲奈「拓ちゃんがあなたのこと緑さんって…。」 女「えっ…あなた達…拓真君の知り合いですか?」 荏原「拓ちゃんが通っている教室の講師をしてます。」 玲奈「私はレッスン仲間!」 女「拓真君がどうかしたんですか?」 シーン23 榴ヶ岡公園付近の大通り 荏原、玲奈、女性(葵)は三人並んで歩いている。 葵「随分古い手段のナンパだなと思いました笑」 荏原「いや、すみません…。」 葵「拓ちゃんなら大丈夫だと思いますよ。拓ちゃんにはお付の人達がついているから…。」 荏原「おつきの人?」 玲奈「拓ちゃんって意外とお坊ちゃんだったりして!」 葵「拓真君のお父さん…どんな人かって聞いてないですか?」 荏原「ぜんぜん…。」 葵「拓真君のお父さんは杜の都企画の社長さんです。」 荏原「そこってイベント企画や東北でも有数の企画会社じゃないですか?」 葵「そうです…でも…」 玲奈「あそこって怖い人がやってる事務所だから失礼がないようにって言われたことある…。」 荏原「だからうちの社長がわざわざ電話で拓ちゃんを合格にしろって言ってきたのか!」 玲奈「そうなの?うちより大きいもんね、あそこ。」 荏原「そっか、あそこの舎弟…いや…部下の方々が拓ちゃんを見ててあげてるのか…。」 葵「違うんです。」 荏原と玲奈同時に 「えっ!?」 葵「拓真君のお母さんがやってる…なんていうのかな…。」 荏原「拓ちゃんの母さんってなにかやってるんですか?」 葵「とりあえず、拓真君が無事か行ってみましょう…。」 荏原も玲奈も腑に落ちない表情 荏原「そうですね、行ってみましょう…。」 荏原と玲奈は小首を傾げながら三人並んで歩いていく シーン24 拓真の自宅 建て売りの様な家だがとても立派 明かりがついている 荏原が玄関の呼び鈴を鳴らす 荏原、葵、玲奈の順に並んでいる 玄関の扉が開く 母「はーい。」 荏原「お世話になっております、荏原です。」 母「あら、先生どうなさいました?」 荏原「拓真君は…拓ちゃんは帰宅されてますか?」 母「ええ…帰ってきましたけど…。」 荏原「良かった、レッスン場に荷物を忘れて帰ったみたいで届けに来たんです。」 母「本当に申し訳ございません、どうぞお上がり下さい。」 拓真の母は荏原の後ろにいる葵に気づく 母「葵ちゃんも先生とご一緒に?」 葵「途中で先生とお会いして…。」 母「とにかく、皆さん上がって下さい。」 中に招き入れられる三人 シーン25 拓真の自宅 リビング 四人でテーブルに座って話している テーブルの上にはお茶やお菓子が並んでいる 母「そんなことが…。」 荏原「私が目を離したのが悪かったんです。」 母「そんなことはありません…拓真はレッスンに通うようになってから明るくなりました…先生の練習は楽しいって…そして仲良くしてくれる女の子もいるんだって…もしかしてあなたが玲奈さん?」 玲奈「はい。」 母「いつも本当にありがとう。拓真ね、帰ってくるとあなたのことよく話すのよ…可愛くて優しくてとても緑なんだって…緑さんと同じ位緑なんだって…。」 玲奈「緑って色の?」 母「そう。」 荏原「拓ちゃんはオレのことを青いとか言いますけど、どういうことなんですか?葵さんの事も緑さんって呼んでるみたいだし…。」 母「オーディションの時にもお話しましたが……あの子には言葉や音楽、そして人に色がついて見えてるんです…。」 荏原「ええ、以前伺いました。」 母「好きな人は緑や青、嫌いな人や拓真に対して辛くあたる人は黄色やオレンジ、ピンク…。」 荏原「じゃあ私や玲奈、葵さんが緑に見えるっていうのは…」 母「会っていて嬉しいんだと思います。快、不快にも色があって心地よい時は青や緑、不快感や緊張感は黄色やオレンジ…。」 玲奈「じゃあ先生も私も拓ちゃんには好かれてるんだね…ちょっと嬉しい笑」 荏原「葵さんにも気にかけてもらえて…あいつモテモテだな笑」 玲奈「だって拓ちゃんは純粋だもん…私には拓ちゃんが真っ白なキャンバスに思える。」 母「あの子が病院で診断を受けてから…あの子の父親は顔を出さなくなりました…。」 葵の顔が曇る 拓真の母親は何故か葵に向かって 母「ごめんなさい、責めてるわけじゃないの。仕方ないわよ…私が悪いの…」 荏原「誰が悪いわけでは…」 母「私の前世のカルマが…前世の罪が拓真にきてしまって…。」 荏原「ぜんせ?」 玲奈「前世ってあの…。」 葵は下を向いたまま、顔を上げない 母「拓真が診断されてどうしていいのかわからなかった時、あの方に出会って救われたんです。」 拓真の母はそれまでの人の良さそうな感じからいつの間にか正気かどうか判断出来ない、明らかに異質な熱を持った目付きになっている 母「本当に救われました…原因が私の前世にあり、前世の罪を償うためオーラの見える神の子である拓真を私に授けて下さったんです。それが私の前世の罪を償う今世の使命であると…今日もあの方やあの方のお弟子さん達が拓真を家に連れてきて下さった…。」 荏原「拓ちゃんはいま…?」 母「部屋におります。あの方と一緒に。」 時計を見る母 母「そろそろあの方もお帰りになるお時間だと思います。」 荏原「拓ちゃんに会ってきても良いですか?」 母「是非、会っていってあげて下さい…あの方にもご挨拶されるといいわ。」 階段から降りてくる真っ白なポンチョ状の布を被った男 ポンチョの下はスーツを着ている 母は立ち上がり男に近づく 荏原と玲奈は立ち上がり会釈する 葵は座って下を向いたまま 男「お母様、私はこれで帰ります。」 作り物の笑顔を顔に貼り付けているよう 母「いつもありがとうございます。こちらが拓真の先生で…」 男「あぁ、拓真君から伺っておりますよ。とても良い先生だと。」 荏原「いえ、当たり前のことをしてるだけです。」 男「ふーむ…あなたの宿命でしょうなぁ…こうしてあなたの後ろを見ているととても位の高い意識体がついていらっしゃる…黄金色に輝いていますよ。」 母「やはり、先生とは縁があって出会ったという…。」 男「勿論そうです。お導きです。お母様の信仰心が天に通じている証ですよ。」 母は感極まった表情 母「ありがとうございます。これからも一生懸命励んで参ります。」 荏原、玲奈は唖然とした信じられない出来事を見てるといった表情 荏原「拓ちゃんに会ってきます…玲奈、葵さん、拓ちゃんに会いに行こう。」 母「今月も養育費が入ったらすぐにお布施に行かせて頂きます…」 男は横柄に頷く 男「その思い必ず通じるはずですよ。」 男は神の使いとは思えない俗物のような満足そうな表情を浮かべている シーン26 拓真の自室前のドア 荏原がノックする 荏原「拓ちゃん…オレ…心配で来ちゃったよ…玲奈も葵さんもいるんだ…開けてくれるかな?」 少しの間の後、ドアが開く シーン27 拓真の自室 とても広く綺麗に片付けられている 中央付近にはベットがあり、部屋の横には書斎のようなスペースがある 書斎スペースには拓真が書いた絵や拓真が撮影したと思われる写真等が飾られており、テーブルには画材や機材等が置かれている 玲奈「拓ちゃんの部屋広ーい。」 荏原「オレの部屋より広いかも…笑」 拓真は何も言わずに玲奈と葵の手を握る 表情からは読み取れないが、その仕草から不安だったことがわかる 葵「拓真君…。」 荏原はそっと拓真の背中をさすりながら 荏原「何も怖くないからな…オレたちついてるから。」 拓真は徐々に落ち着いていく 葵は荏原に目配せする 察した玲奈は書斎スペースの方に拓真を誘導していく 玲奈「拓ちゃん撮った写真見せて…拓ちゃん私のことも撮ってくれる?」 拓真は頷きながら書斎スペースへ玲奈を連れていく 葵「先生…拓真君のお父さん…いえ、私の父がここに来なくなったのはさっきの人が出入りするようになったからなんです。」 荏原「葵さんと拓ちゃんは…」 葵「私は本妻の娘で、拓真君は…私の弟になります。」 フラッシュバック挿入 シーン25中盤 拓真の母、葵に対して 母「ごめんなさい、責めてるわけじゃないの────。」 フラッシュバック戻り 荏原「だから、さっき…。」 頷く葵 荏原「でもそのこと拓ちゃんは?」 葵「私の母は私が小さい時に亡くなりました…拓真君とは幼い時から…だから拓真君も知っています。」 荏原「……。」 葵「今日はあの人一人だけだったけど、本当はあの人達に会わせられるのは嫌なはずです…。」 荏原「葵さん、あなたはどうしたいの?」 荏原と葵の会話をいつの間にか聞いてる拓真と玲奈 拓真「ボクがバカだからいけないの。ボクがバカだから母さんはあの人達を呼んでる元気づけてもらってるんだ…ボクが我慢すればいいの。ボクが…ボクが…。」 葵「私は拓真君と…拓真と一緒に暮らしたい。弟と一緒に暮らしたい。」 拓真「あお…あお…おねえ、おねえさん。」 葵の胸に抱きつく拓真 拓真「ボ、ボ、ボク、ボクがいるから…ボ、ボクが悪いくて…。」 荏原「拓ちゃん。」 荏原「拓ちゃん。」 拓真が顔を上げるまで何度も優しく呼びかける荏原 顔を上げる拓真 荏原「拓ちゃんは悪くないよ。」 拓真「…ボク。」 荏原「拓ちゃんは悪くない。」 拓真「…。」 荏原「誰も悪くないよ。」 荏原の胸に飛び込む拓真 荏原「拓ちゃん…誰と一緒にいたいの?」 拓真「……」 荏原「拓ちゃんが一緒にいたい人は誰?」 拓真「……おねえさん……。」 葵を見る荏原 葵は拓真を抱きしめる シーン28 杜の都企画 社長室 椅子に拓真と葵の父で社長である吉岡が座っている その前に緊張した表情の葵が立っている 吉岡「珍しいな、ここに顔を出すなんて。何かあったのか?」 葵「父さん…」 吉岡「どうした?結婚したい相手が出来たなんて言わないでくれよ?」 葵「拓真と…」 吉岡「拓真がどうかしたのか?」 葵「私…拓真と一緒に暮らしたい。」 吉岡「…急な話だな。」 葵「もうあの人達が出入りする家には居たくないって。」 吉岡「…。」 葵「私と一緒に暮らしたいって…」 吉岡「…拓真がそう言ったのか?自分の口で、言わされたんじゃなくか?」 葵「拓真が…おねえさんと一緒に暮らしたいって…私に。」 吉岡「………。」 葵「父さん、私も弟と一緒に暮らしたい。」 娘と息子の変化を察した吉岡 吉岡「わかった。」 シーン29 レッスン場 夕方 レッスンが終了 荏原「今日のレッスンはここまでにします!お疲れ様でした!」 レッスン生達も 「お疲れ様でしたー!」 荏原はいつものテーブルと椅子に座り出席簿等の書類を記入しようとする レッスン生達が出口やロッカーに向かう中、玲奈は荏原の席に近づいていく 玲奈「先生、今日も拓ちゃん来なかったね。」 荏原「あぁ、来なかったな。」 玲奈「もう拓ちゃん来ないのかな…。」 荏原「どうだろう…事務所にも連絡は来てないな。」 入り口から事務員が入ってくる。 事務員「荏原先生、ちょっと社長室まで。」 荏原「あっ、はい。」 立ち上がる荏原 シーン30 社長室 社長室のドアをノックして入る荏原 会釈しながら 荏原「失礼しまーす。」 顔を上げると社長と見知らぬ男と拓真が座っている 荏原「拓ちゃん!」 初めてオーディション会場で出会った時のように視線は宙をさ迷っているが笑顔を浮かべている拓真 社長「私は席を外します。では。荏原君、しっかり頼むよ。」 荏原「はぁ…。」 何をしっかり頼まれてるのかイマイチ理解してない荏原 一礼して座る荏原 吉岡「拓真の父の吉岡です。」 荏原「初めまして。」 吉岡「先生には拓真だけでなく、娘の葵もお世話をかけたようでお礼に伺いました。」 荏原「とんでもない!私は何も。」 吉岡「私はね…子供は母親と居るのが一番だと思っていた…例えどんな母親でも。男親は母親には勝てないと…。」 荏原「…。」 吉岡「そう思って家も用意して、養育費も多すぎる程送っていたのですが…全て拓真の為には使われていなかった…。」 荏原「…。」 吉岡「娘と息子の希望を、子供の希望を一番に考えて…拓真を引き取ることにしました。」 荏原「良かったな、拓ちゃん。」 拓真はゆっくりと何度も頷く それを嬉しそうに見る吉岡 荏原「スムーズに話は進んだんですか?」 吉岡「…あの霊感の連中のことですか?」 荏原「ええ。」 吉岡「……私と同類の人間とは交渉はし易いんです。」 荏原「と言いますと?」 吉岡「結婚相手が見つからないのは前世のせい…今お金に苦しんでいるのはカルマのせい…先生は現世利益とはなんだと思いますか?」 荏原「…。」 吉岡「本当に苦しんでいて救いの手を求めて訪れる人間に、これを身に付ければと言って高額なネックレスを売りつける…お布施や祈祷や供養代と言って何百万もの金額を請求する…苦しんでいる人間の心の隙間をついて金を要求する…苦しんでいる人間から全財産を搾り取る…結局は我々と同じ種類の人間なんですよ…何の問題もなくスムーズに話は終わりました。」 荏原「拓ちゃんのお母さん……なんて言えば良いかわからないですが…果たしてこの言い方が正解かわかりませんが……何かにすがりたくなる…何かに助けてほしくなる…自分を責めて責めて…何かに救ってほしい…そういう気持ちもわからなくはないです…。」 吉岡は無表情で荏原を値踏みするように見つめる 吉岡は厳しい表情と口調で言い始める 吉岡「先生は優しすぎる。そんなんじゃこの業界では生き残っていけないですよ。」 だか吉岡はニコリと笑い、信頼する先生に子供を預ける親として 吉岡「そんな先生だから拓真も先生が好きなんでしょう。」 荏原「オレも拓ちゃんのこと好きだよ。」 おずおずと荏原に手を伸ばしてくる拓真 その手をしっかりと握る荏原 吉岡「拓真はこのまま先生のレッスンに通わせます。」 荏原「拓ちゃんを、いえ拓真君の良さを引き出せるようにこれからも頑張ります。」 荏原は拓真の方を見て 荏原「良かったな、拓ちゃん。また玲奈達と一緒にレッスン受けられるぞ。」 握る手を強く振る拓真 暫しの間の後 吉岡「今日はこれで失礼致します。拓真、またすぐ先生に会えるから手を離しなさい。」 手を離す二人 吉岡「先生は…ウチの会社に来て専属の講師になる気はありませんか?それなら私の目の届く所で拓真もレッスンを受けられるし、ウチの方が大手で中央へのパイプも太いですよ。」 荏原「…ここには拓ちゃんを待ってる生徒達もいます…私のレッスンを楽しみにしている生徒達もいます…大変有難いお誘いですが…」 笑う吉岡 吉岡「………損得では動かない…我々と別の世界で生きている先生のような方と交渉する方がとても難しいんですよ。」 荏原「申し訳ありません。」 吉岡「これだけは覚えておいて下さい…先生が独立なされて、自分で教室をお持ちになる時は遠慮なく言ってください…杜の都企画の総力を上げてバックアップします。その時はウチのレッスン生達にも演技を教えて下さい。」 荏原「その時が来た時は是非。」 吉岡「私は誰にでもこういうことを言う人間ではありません。」 荏原「私の様な人間にそこまで言って頂けることを非常に感謝しております…その時が来たら…是非お願い致します。」 吉岡はニヤリと笑い 吉岡「私はあなたと一緒に仕事がしたい………では、失礼致します。」 吉岡は拓真と部屋を出る 拓真は荏原をバイバイと手を振る それに応えてバイバイと手を振る荏原 シーン31 事務所からレッスン場へと繋がる階段 階段を登る荏原 何やら考えているよう レッスン場のドアを開く 誰もいないレッスン場を眺める荏原 荏原「自分の教室かぁ…。」 シーン32 レッスン場 夕方 レッスンは終わっている 荏原はいつものレッスン場のテーブルの前で書類を書いたり、事務作業をしている レッスン場の中にはユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、玲奈、拓真がいる そのレッスン生達に目をやる荏原 荏原「お前ら帰らないのか?」 ユリ「今、次の動画の企画の話してたの。」 セイヤ「恋バナの企画とか面白いかなぁと思ってさ。」 荏原「これからデビューする人間が恋バナとかして平気なの?」 アヤ「先生、考え方が古いよ!」 サチコ「……今はそういうこともオープンにして共感を得ていく時代…」 荏原「オレは古い人間なのか…。」 少しショックを受けた表情の荏原 玲奈が近づいてくる 玲奈「私…先生の恋愛の話も聞きたい!」 ユリは何故か対抗意識を燃やし近づいてくる ユリ「私も聞きたい!」 玲奈とユリはバチバチと視線を戦わせて 玲奈「なんであんたまで…」 ユリ「イイじゃん」 玲奈「先生は私の…」 肘で小突きあいながら小声でやりあっている セイヤ「先生ってさ、ここの前はどこで教えてたの?」 荏原「教えたことないよ。」 アヤ「私達、先生のこと何も知らない!」 サチコ「ググッても…出演作品位しか出てこない…。」 ユリ「聞きたーい!」 玲奈は横目でユリを睨みながら 玲奈「私も…先生の話聞きたい!」 荏原「…何も楽しいことはないけどなぁ…」 ─ここからは全て荏原の回想シーンとなる─ シーン33 弁護士の事務所 弁護士と荏原が向かい合わせに座っている。 荏原の前にはお茶が置かれている 弁護士は封筒から中の手紙を取り出す 弁護士「先日通知を出した、昭島さんから返信が届きましたので本日お越しいただきました。」 荏原緊張した表情 ………………………………………… 弁護士「…という内容でした。」 荏原「まさか…。」 弁護士「……初めは無理矢理関係をもたされたらしいです…。」 荏原「ただの浮気じゃなかったなんて…気づかなかった…。」 弁護士「その後はこの関係をあなたや店の人間にバラすぞと脅されてズルズル関係を続けさせられたようです。」 (荏原フラッシュバックシーン挿入) 東京のワンルーム、荏原とリオの部屋 深夜 リオはシャワーを浴びて半ズボンのルームウェア姿で部屋に入ってくる タオルで頭を拭きながら出てくるリオ 荏原はその膝横に目をやる リオの足には凄く大きいアザが出来ている 荏原「お前、足どうした?」 リオ「えっ?」 荏原「真っ青になってんじゃん!」 リオ「違うの、お店で酔った客が寄りかかってきて、テーブルに足ぶつけちゃったの!」 荏原「ホントか?誰に何かされたんじゃないのか?」 リオ「違うよ、ホントにぶつけただけ。酔っ払いってホントイヤだよね。」 荏原の方を見ずにテレビを見ながらタオルで頭をふいているリオ 納得いってない表情の荏原 (ここからフラッシュバックから戻り弁護士とのシーン再開) 荏原「気づいてたのに…。」 弁護士「弁護士としてではなく、一人の人間として見解を言わせて頂くと…。」 荏原「……。」 弁護士「裏切り等ではなく、荏原さんを愛していてたからこそ…一緒には居られなかったのでないでしょうか。」 荏原「それでも…それでも…私は一緒にいたかった…。」 非常に長い沈黙の後 荏原「ありがとうございました。」 荏原席を立ち上がり部屋から出ていこうとする。 弁護士「荏原さん…荏原さんはまだ若いんです。これからいくらでもやり直しがきくはずです。」 荏原は弁護士に一礼して部屋を出ていく。 シーン34 仙台市街地の裏道 荏原は弁護士の帰り 電話で誰かと話している 荏原「…無理矢理そういうことをされたみたい…それでオレとは一緒にいられなくなったって。」 電話からは慰謝料は取らないのか?との話が聞こえてくる 荏原「…何?慰謝料って。今理由話したよね。それを聞いてて何で慰謝料って話になるの?いくら内縁関係だったからって、婚約破棄になったからってあいつから慰謝料取るの?」 荏原「結局金なの?お袋や親父と一緒だよな。金、金って。前は家族同然だのなんだの言っておいて、あいつに慰謝料の請求?そんなこと聞きたくて電話してくんなら二度と電話してくんなよ。」 荏原は電話を切る。 しばらく横を流れる広瀬川の風景を見つめる 荏原「オレは一体何なんだろう…」 シーン35 荏原の部屋、ワンルーム(1K) いかにも独身、一人暮らしの汚い部屋 朝8:30位 カーテンが締め切ってあり、まだ起きてない 寝ている荏原 スマートフォンが鳴っている スマートフォンの画面 「AM8:30 派遣会社」 荏原スマートフォンに出る 荏原「はい、もしもし…あぁ、すみません。今日は体調が悪いので休ませて下さい。」 スマホ「いつも困るんですよね…」 荏原「すみません、明日は出ますので…はい、すみません。」 荏原電話を切り、スマホの待受を見る スマホの画面には女性の笑顔 シーン36 仙台市内のスーパー 昼間 荏原は買い物カゴに発泡酒を入れている 惣菜コーナーにくる アメリカンドッグが売っている 荏原はそれを眺めている シーン37 太白区柳生の田んぼ道 マンションが見える 荏原はその田んぼ道を発泡酒を飲みながら歩いている 荏原の視線の先にカップルが見える 荏原は視線を凝らす カップルは荏原とリオ カップルは仲良く手を繋ぎ歩いている 楽しそうに会話している 荏原はそれを立ちすくみ、ただ呆然と見ている シーン38 BAR 夜 店内は身なりの良い年配の夫婦やそれなりの人が座ってマスターとの会話を楽しんでいる。 そこへ荏原が来店する。 荏原はすでに飲んで酔っ払っているよう マスター「いらっしゃい。」 荏原「こんばんは。」 荏原はフラフラと空いてるカウンター席に座る 荏原「マスター、お酒飲ませてよ、金ならあるんだ。」 荏原ポケットからしわくちゃの1000円札を数枚テーブルに置く 荏原「一回言ってみたかったんだよね…アメリカの映画でよくあるじゃん。」 それを見ていた店内の客は一斉にお会計に立つ お客達は荏原を腫れ物を触るかのように見ながらレジの方へ歩いていく 荏原はその視線に気づいているが、ヘラヘラ笑っている シーン39 BARの店内 マスター「ありがとうございました!」 お客さん達をドアまで見送る カウンターへ戻りながら マスター「飲んでるのか?」 荏原「全然…ビールだけだよ。」 マスター「…仕事は?」 荏原「…今日アメリカンドッグ売っててさ…あいつ好きだったんだ。いつも買ってくれ、買ってくれって。」 荏原「その後、前住んでたマンションの近くを歩いてたら…オレの前を歩いてたんだ。」 マスター「誰が?」 荏原「オレとリオが歩いてんの…オレとリオが手を繋いで歩いてんだよ…。」 マスター「…。」 荏原「オレ何で気づいてやれなかったのかな?…ずっと辛い思いをしてたんだよ。オレが気づいてやってれば…。」 マスター「違うよ。」 荏原「あれからずっと思ってるんだ…。オレが俳優なんか目指してなければ、夢なんか追っかけてなければ、あいつは夜の仕事なんかする必要なかったし、こんな目に合わないで済んだんじゃないかって。あいつを不幸にしてしまったんじゃないかって。」 マスター「もうやらないのか?俳優は…いつまでそうしてるんだ?」 荏原「…。」 マスター「リオちゃんが好きになったお前はそういう人間だったのか?」 荏原「オレは元々こういう人間なんだよ。」 マスター「だらしねぇ弱い人間かもしれないけど、夢に向かって歩いてるお前が好きだったんじゃないのか?」 荏原は何も言えずに黙っている。 マスターはカウンターの中から雑誌を取り出して、荏原の前に乱暴に置く 荏原はそれを見て、マスターに顔を向ける マスター「お前に丁度いいんじゃないかって思ったんだ。お前が顔を出したら見せようと思って。」 荏原は雑誌に目を落とす 雑誌にはこう書かれてある 「エキストラ募集!仙台で俳優になりたい方、夢を叶えたい方を募集してます!」 「経験者、未経験者問いません!まずはお電話を!」 マスター「お前に飲ませる酒は置いてないよ。」 荏原「マスター…。」 マスター「今日は帰れよ。」 荏原は思い詰めた表情 シーン40 公園のベンチ 天気の良い昼間 雑誌を見ながら発泡酒を飲んでいる ため息を一つつき、意を決して電話する荏原 荏原「雑誌を見てお電話致しました…はい、エキストラ希望です。」 シーン41 プロダクション面接室 荏原は履歴書を渡し、面接官がそれを読んでいる。 面接官「今は俳優の活動をしてないんですか?」 荏原「今は何もしてません。」 面接官「もったいない、これだけの経験があるのに…メソッドアクティングなんてこっちじゃ誰も知らないですよ?」 荏原「世界に通用する俳優になりたかったんです。」 面接官しばらく考える 面接官「もし良ければエキストラじゃなく、この事務所で演技を教えてみないですか?」 荏原「えっ?」 面接官「私も海外の映画や俳優が好きなんです。そういう役者をこの事務所から出したいと思ってるんです!」 面接官「エキストラなんかじゃなく、荏原さんの経験や知識をこの事務所の若い俳優達に教えてあげてほしいです。」 荏原「はぁ…。」 面接官「是非、お願いしたいです!」 シーン42 事務所ビルの出口 出口から荏原出てくる 手に書類を持っている 改めてその書類を見る荏原 書類には 「業務委託契約書」 「株式会社24プロダクションに業務委託を受け映像演技の講師として演技指導を行なう」 「平成〇年〇月〇日荏原達雄」 ことの成り行きに首を傾げて駅に向かい歩き出す荏原 シーン43 スタジオ 荏原が演技講師として演技を教えている 荏原「時間なので今日の授業はここまでにします。」 生徒達立ち上がり 生徒達「お疲れ様でした!」 荏原「お疲れ様でしたー!」 生徒の一人が荏原に近づいてくる 玲奈「先生、最近慣れてきたね笑」 荏原「そう?」 玲奈「だって最初の頃は私達より先生の方が緊張してたよ?」 荏原「オレは演じる方だけだったから、今でもちゃんと教えられてるのかな?って心配になるよ笑」 玲奈「先生の授業は今まで聞いたことないことばかりだけど、海外の俳優はこんなことしてるんだなって勉強になるし面白いよ。」 荏原「そう言ってもらえると嬉しいよ。」 玲奈「みんな楽しみにしてるし、先生に認めてもらいたいって思ってるよ。私も。」 荏原「大丈夫。オレが教えてるんだから必ずいい役者にしてみせるよ笑」 玲奈「宜しくお願いします笑」 荏原「ちゃんとセリフ覚えてきなよ笑」 玲奈「はーい。」 出ていく玲奈 荏原「慣れてきたかぁ…」 ホワイトボードを消そうと立ち上がる荏原 面接官が荏原の元へ来る 面接官「荏原さん!次回の授業の際に映画監督が見学に来ます。うちの事務所の役者達を見てみたいと連絡がありました!上手くいけば何人かキャスティングしてもらえるかもしれません!」 荏原「本当ですか!?」 面接官「いい面を引き出せるようにお願い致します!」 荏原「はい、分かりました!」 シーン44 部屋でダンボールを漁っている荏原 これまで出演したDVDや台本が入っている 本を持ち上げた時に手紙が落ちる それを拾い見る荏原 封筒にはこう書かれてある 「たっちゃんへ」 封筒から手紙を取り出して読む荏原 「私はこれまで喘息で学校も休みがちだったし友達も少なかった。演劇や映画、俳優なんて私とは違う世界の話だったし、夢も私にはなかった。」 「だけど、たっちゃんと出会えたおかげで私もたっちゃんと同じ夢を見れるようになった。たっちゃんの夢が私の夢になった。」 「たっちゃんと出会えて本当に良かった。ありがとう、たっちゃん。」 リオを思い出す荏原 スケッチブックを取り出して何かを書き始める シーン45 スタジオ レッスン場 ハンディカメラを持った映画監督数人が厳しい表情で荏原のレッスンを見ている シーンをしている生徒やそれを見学している生徒達 荏原「はーい。OK!」 荏原「緊張した?」 生徒1「はい、いつもより緊張しました。」 頷く生徒2 荏原「いつも言ってるけど、緊張してる自分を助けてくれるのは、相手に集中することだから。相手に集中してれば緊張してることすら忘れて身体はフリーになるから。でも良かったよ。」 荏原「プレパレーション(役作り)だけど、シーンに持ち込んじゃダメだよ!シーンに入る時は全て忘れて相手に集中すること!」 荏原「せっかく役作りしたのにって思うでしょ?」 荏原「はい、ユリさん、君の好きな色は何?」 ユリ「赤です。」 荏原「アヤさんは?」 アヤ「黒かなぁ…。」 荏原「セイヤ君、好きな食べ物は?」 セイヤは少し照れながら セイヤ「ハンバーグです。」 荏原「みんなは自分が自分でいる為に、好きな色は赤で、好きな食べ物はハンバーグでっていつも思ってる?そう言い聞かせながら歩いたりこの授業受けたりしてる?」 首を振る生徒達 荏原「今聞かれたから思い出したんでしょ?好きな色も好きな食べ物も好きな人も全部忘れてみんな普段は生きてる。身体の引き出しにしまってあるんだよ。だからシーン入る時は役作りを全て忘れてシーンに集中すること。そして相手と会話してれば引き出しが勝手に開いて役作りしたものが出てくるから。わかった?」 はい!と返事をする生徒達。 小林「でも先生、シーンの中で会話しろっていうのが自分は理解出来ません…だってセリフがあるのに会話してそこから感情を生むなんて不可能じゃないですか?」 小林は何故か勝ち誇りげな表情 荏原「………お前バカだな。」 小林「はっ?なんですか?突然。」 荏原「救いようのないバカだよ、そんなこともわからねぇのかよ。」 突然嘲り笑うような言い方をする荏原に生徒も監督達も驚く 小林「なんなんですか?一体!人をバカにして!」 荏原「……今、セリフあるのに相手と会話してそこから生まれてくる感情を出すなんて不可能だって言ったよね?」 小林「言いましたけど…。」 荏原は横のカバンからスケッチブックを取り出して開いて生徒達に見せる 荏原「なんて書いてある?小林君読んでみて。」 スケッチブックにはこう書かれてある 「お前バカだな。」 「救いようのないバカだ。そんなこともわからないのか?」 荏原「わかる?今オレが言ったことはセリフだよ。昨日の夜用意したんだ。」 監督も生徒も荏原の言葉に耳をかたむける 荏原「例えセリフだとしても相手に影響を与えることは出来るんだよ。相手にちゃんと伝える、相手にちゃんと話すっていうことをすればね。で、聞いた小林君はムカついたと?」 小林「はい。」 荏原「小林君はセリフであるにも関わらずオレの言葉によって感情が湧き出したわけだ。それはオレの話を聞いてたから。それだけだよ。」 全員がシーンとして話を聞いている 荏原「オレは相手を見ろ!と相手の話を聞けしかいってないけど、段取り芝居する為のセリフの順番を待つために聞けって言ってるんじゃない。相手が自分に何を伝えたいのか?どんな気持ちで言ってるのか?今この瞬間どう思っているのかを見なさい、聞きなさいと言ってるんだよ。日常じゃみんなやってること…役作りをする、それをシーンの前に全て忘れる。そして相手の話を聞く、そうすれば今みたいに自然と感情はわきあがってくるんだよ。それがレペティションっていうテクニックなんだよ。さっき言ったの覚えてる?オレは小林君の引き出しを開けたの…わかるかな?」 生徒達「はいっ。」 荏原「ローマの休日で新人だったオードリー・ヘップバーンは相手役のグレゴリー・ペックに演技についてアドバイスを求めた時にこう答えた…相手の話を聞きなさい、それだけで良いと。ロバート・デ・ニーロはインタビューで、演じるにあたって一番大事なことはなんですか?と質問された時に、演技とは聞くことが全てだ…そう言ったらしい。」 荏原は生徒達を見渡して 荏原「オレはね、誰でも出来るような大人の学芸会みたいな芝居じゃなく、それぞれにしか出来ない本当の演技をしてほしいと思ってる…怒ってるフリ、泣いてるフリそういう外面的なマネは出来るけど、悲しい感情、怒りの感情…感情っていうのはマネ出来ないんだよ。それぞれがそれぞれの感情を使うしかない…ってことはそれぞれにしか出来ない演技があるってこと。一人一人にしか出来ない演技があるからこそ、君たちそれぞれが演じる意味があるんじゃないのかな?」 荏原はニッコリ笑って 荏原「今日のレッスンはここまでにします。お疲れ様でした!」 生徒達「お疲れ様でした!」 荏原「そして、今日見学に来て頂いた監督さん達にありがとうございました!」 生徒達「ありがとうございました!」 レッスン場から出ていく生徒達 後に続いて出ていく監督達 シーン46 同日 レッスン場 ホワイトボードを消す荏原 後ろから面接官がやってくる 面接官「荏原さん!帰りに監督さん達が、何人かキャスティングしたいって言ってました!自然な演技で素晴らしかったって!」 荏原「ホントですか!?」 面接官「そして、監督さん達の俳優育成のレッスンに荏原さんも講師として参加してほしいって仰ってました!」 荏原「オレなんかが…」 面接官「素晴らしい見識をお持ちの先生だから、うちでも教えてほしいって言ってましたよ!」 荏原「…ありがとうございます。」 握手する二人 荏原「ありがとうございます…。」 シーン47 柳生の田んぼ道 荏原が前にカップルを見た道 また発泡酒を持って歩いている 前にカップルが歩いている 荏原とリオ リオ「お酒臭くなるから、あんまり飲まないでね。」 荏原「わかったよ、控えめにする笑」 リオは振り向いて立ちすくむ荏原を見て微笑みかける。 荏原それを見て微笑み返す 荏原は手に持っていた発泡酒を見て、カップルの方を見ると二人の姿は消えている 荏原発泡酒の中身を捨てて空き缶を袋に入れる そして夕日に向かってゆっくりと歩いて行く シーン48 BAR 夜 お客さんはおらずマスターが一人でグラスを磨いている 荏原入店してくる 荏原「こんばんは。」 マスター「おぉ、久しぶり。」 ………………………………………… マスター「じゃあうまくいってるんだな。」 荏原「何とか…マスターや周りのみんなのおかげです。」 マスターは嬉しそうに頷く 荏原「教え子がキャスティングされるって聞いた時に、なんて言うか…子供が巣立ったっていうか…オレは結婚したことも子供も居ないけど…子供が巣立つ時ってこんな感じなのかなっていうか…それが自分の夢だったような…これからもずっと演技と付き合っていきたいっていうか…演技とこれからも一緒にいれるようにプロポーズしたい様な…よく分からない感じです笑」 マスター「酔ってんじゃないのか?笑」 荏原「まだ飲んでません。笑」 マスター「……お前に飲ませたい酒があるんだ。」 マスターニヤリと笑う 笑い返す荏原 荏原「頂きます。」 グラスにお酒を注ぐマスター グラスのお酒がアップになる ─ここから回想シーン戻る─ シーン49 荏原「…まぁ生きてると色々あるんだよ…。」 セイヤ「先生の彼女さんは…」 荏原「その時には子供がお腹の中にいたらしい…きっと産んだんじゃないかな…」 アヤ「その男の人とは…」 荏原「…オレが弁護士に通知を出してもらった時に逃げたらしい。だって最初から本気で付き合うつもりなんてなかっただろ…訴えられると思ったんじゃないか?」 荏原は少し宙を見ながら考え 荏原「…悪いな…暗い話で…でも今は凄く楽しいよ…お前らは日々上達して…その時の事がなかったら…お前らにもきっと会えてないし…だから…うん…良かったよ…」 荏原は書類をまとめて立ち上がる 荏原「あまり遅くまでいるんじゃないぞ!ファミレスじゃないんだから笑」 荏原は立ち上がりレッスン場を出ていく その後ろ姿を見ていた玲奈とユリ 玲奈「…」 ユリ「…」 何も言わずにお互い歩み寄る そして無言のまま頷いてガッチリと手を握り合う 玲奈「私が先生を…」 ユリ「協力するわ…」 セイヤ「ルカーとハナミチかよ…」 サチコ「…女たちはわかりあったのだ…」 その二人をニコニコした表情で見ている拓真 シーン50 仙台市内 レッスン場近く 勾当台公園のベンチ ベンチの中央には荏原が座り、両隣には玲奈とユリが座っている その他にセイヤ、アヤ、サチコが周りを囲み楽しそうに談笑している ユリ「今日のレッスンも疲れたー。」 荏原「楽して良い演技は出来ないからなぁ…。」 玲奈「あれ拓ちゃんじゃない?」 荏原「拓ちゃんじゃん!?」 荏原は拓真に大きな声で声をかける 荏原「拓ちゃーん!」 手を振りながらおいでおいでをする荏原 周りの皆も拓真に手を振っておいでおいでをしている 拓真近づいてくる 荏原「拓ちゃん、ここに座りな。」 玲奈と荏原の隣を指さす 拓真「あぁ…おねえさんと出かけるので…。」 荏原「葵さんと?どこに行くの?」 拓真「お洋服を買ってくれると言ってました。」 拓真は相変わらず誰とも目を合わせず視線は宙をさ迷っているがとても楽しく嬉しそう 荏原「良いなぁ、葵さんとデートか笑」 拓真「あっ、えっーおねえさんはおねえさんなので…デ、デ、デートとかでは…」 荏原「わかってるよ、待ち合わせしてるの?」 拓真「はい。」 荏原「ごめんね、呼び止めちゃって。葵さんに今度はオレの服も選んでって言っておいて笑」 拓真「わかりました!今度はおねえさんと先生で洋服を買いに行くんですね!」 荏原「そうそう、拓ちゃん気をつけていきなよ。何かあったらすぐ連絡頂戴ね。」 拓真はポケットからスマホを取り出して皆に見せる 拓真「か、か、買ってもらいました。」 玲奈「アイホンの新しいやつじゃん!」 ユリ「私も買おうかなって思ってた!」 アヤ「これでサブチャンの動画もとりたいよね!」 荏原「良いの買ってもらったね。」 拓真「は、はい!」 荏原「じゃあまたレッスンで待ってるね。」 拓真「は、はい。」 拓真は嬉しそうに歩いて仙台駅方面に向かっていく その後ろ姿を全員がこやかな表情で見つめている アヤ「先生はさ、どこで服買ってるの?」 ユリ「私も聞きたいって思ってた!」 玲奈「いつもFear 何とかっての着てるよね?」 セイヤ「あれって仙台で売ってるの?」 荏原「オレはいつも通販だよ。アメリカのセレクトショップから買ってる。」 ユリ「えぇ、何それ、私にも教えて!」 玲奈「私、兎のやつがほしいの…スモーキング何とかって書いてあるやつ!」 荏原「それは日本のブランドじゃん笑」 ユリ「……先生ってさ、彼女いるの?」 荏原「急になんで?」 ユリ「服もなかなかお洒落だし、歳もいい歳してるし…。」 荏原「良い歳って笑」 ユリ「居るのかなぁって。」 玲奈「でも居たらガッカリする!」 アヤ「わかる!」 ユリ「いないでほしいよね!」 セイヤ「だってよ、先生!」 サチコ「……いるんですか?」 荏原「いないよ…いたらこんなとこで遊んでないよ!」 玲奈「ヒドーイ!」 ユリ「こんなに可愛い生徒達が先生に付き合ってあげてるのに!」 荏原「上からなのね…。」 セイヤ「先生の理想のタイプはどういう感じなの?」 サチコ「聞きたい…。」 荏原「理想のタイプねぇ…。」 少し考える荏原 なんて言うのか興味津々の生徒達 荏原「胸が大きく…」 玲奈に思い切り頭を叩かれる荏原 荏原「…先生に手をあげたね…今…」 玲奈「違う、頭に虫がいたの。ゴメン!うまく聞き取れなかったからもう一回言って!」 荏原「……優しくて、オレの仕事に理解があって…。」 ウンウンと頷く生徒達 荏原「それで、胸が大きくて」 今度はユリに思い切り頭を叩かれる荏原 荏原「……。」 アヤ「じゃあ、この中でいうと誰?」 荏原「どこからじゃあが出てきたのかもわからないし…また生徒からしばかれた気がする…。」 サチコ「……気のせい。」 セイヤ「この中なら誰?」 荏原は頭をさすりながら生徒たちを見回す 荏原「…玲奈」 えっ!?という顔をする玲奈 荏原「とユリと…」 怪訝な表情をするユリ 荏原「アヤとサチコを合わせて四で割った感じかな…」 アヤ「…はいはい、なんか先生のわりにつまらない答えだったね」 セイヤ「ボクは入ってないのかぁ…」 荏原「そうじゃなくて!」 セイヤ「まぁボクは先生の弟さんがいるから良いけどー」 荏原「…オレの義理の弟になるのか?笑」 セイヤ「複雑な関係だね笑」 荏原「複雑過ぎるだろ!」 みんなで笑い合う そん中で横を見てるサチコ 荏原「どうした?」 サチコ「…あの人、ずっとこっち見てる。」 荏原「騒ぎ過ぎたかな?」 サチコ「拓真君が来たあたりからずっとあそこでこっちを見てる…。」 荏原「そんなに?」 みんなでその方向を見る 玲奈「…隠れてるつもりなのかな?」 ユリ「丸見えだよね?」 荏原「忍びの者かな?」 セイヤ「…あの人さ…うちの事務所の人じゃない?」 荏原「メガネ掛けてないから誰かわかんないや。」 サチコ「……仲間になりたそうにこちらを見ている…。」 荏原「だからお前、そういう毒を吐くのをよせ笑」 セイヤ「声かけてみようか。」 荏原「そうだな…おーい!!」 手を振っておいでおいでをする荏原 シーン51 同日 仙台市内 勾当台公園のベンチ 荏原、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、玲奈の他にチヒロが加わった 夏の暑い日なのにチヒロは何故か長袖 玲奈「じゃあ、チヒロちゃんは舞台演技のクラスでレッスン受けてたんだ。」 チヒロは玲奈を無視する 玲奈や周りの皆はえっ?という反応 チヒロ「映像演技にも興味があったし、先生の噂も聞いたので受けてみたいと思ったんです。」 荏原「噂って?」 チヒロ「……どんな生徒にも平等に接してくれて、みんなに人気があるって。」 荏原「舞台の先生だって同じでしょ。」 チヒロ「でも…あの先生から…セクハラみたいなこと受けました…。それにストーカーみたいにしつこいんです。」 荏原「それって大問題じゃない?社長に言おうか?」 チヒロは慌てて チヒロ「いえ、良いんです…バイト先でも経験があって、その時は隙を見せたあなたも悪いみたいに言われたから…夢があるのでここで揉め事は起こしたくないんです…ごめんなさい、こんな話。」 荏原「いや、いいよ。そういうことがあるっていうのも知っておいた方が良いから。」 チヒロ「誰にも言わないで下さい…。」 荏原は渋々といった感じで頷く チヒロ「じゃあオレはこれで。」 一同「んっ??」という表情 荏原「ああ、気をつけて。何かあったらすぐ教えなよ。」 チヒロ「ありがとうございます。やっぱり先生は良い先生ですね!」 チヒロは公園を出ていく 後ろ姿を見つめる六人 荏原は去った方向を見つめたまま 荏原「今、オレって言ってたよな?」 セイヤ「あの人、ホントは男なの?」 ユリ「あの人はセイヤと逆の感じ?」 玲奈「前に一度だけ更衣室で会ったことあるけど、普通に女だったよ。」 アヤ「でも、女の人でも自分のことボクとかオレって呼ぶ人たまにいない?」 サチコ「……痛い…人だよね…。」 荏原「だから、お前は毒吐きすぎ笑」 時計を見る荏原 荏原「あっ、オレこれから教習所行くんだ!」 玲奈「先生、車の免許なかったの?」 荏原「東京暮らしが長かったから、免許取ってなかったんだ。」 セイヤ「なんで急に?」 荏原「彼女作るなら、こっちでは車もってないとって…笑」 ユリ「いいじゃん、いいじゃん!免許撮ったらみんなでドライブ行こう!」 荏原「いいよ、楽しみにしてて!」 サチコ「生命保険に入っておかないと…」 荏原「おまえは!」 一同笑う 荏原「じゃあ、またレッスンでな!」 小走りで去る荏原 アヤ「先生ー!」 振り向く荏原 アヤ「ぶつけちゃダメだよー!」 荏原「うるさーい!」 走っていく荏原の後ろ姿 アヤ「先生、免許取れると良いね!」 玲奈「ドライブ楽しみ!」 サチコ「…この人数だと一台でいけない…。」 ユリ「セイヤが車出せば良いじゃん!」 セイヤ「じゃあ二台で出て、途中で交代したりしながら行こうか?」 定義山で油揚げ食べようや夜のドライブも良いね等と盛り上がる アヤ「拓ちゃんも誘おうね!」 ユリ「当たり前じゃん!」 サチコ「…拓ちゃんも私達の仲間…。」 玲奈「みんな…優しいね。」 セイヤ「先生がいて良かったなと思うよ…。」 玲奈「あの人彼女出来なきゃ良いのに。」 大笑いする五人 シーン52 レッスン場 ロッカー ユリとアヤは帰り支度をしながら談笑している アヤ「あの動画の人ヤバいよねー笑」 ユリ「ヤバいヤバい、あの人スゴいヤバかった笑」 そこへ入ってくるチヒロ 二人は気づいて挨拶する ユリ「お疲れ様ー。」 チヒロ無視する アヤとユリは顔を見合わせる チヒロは帰り支度をしながら二人の方を見ないで チヒロ「オレが荏原さんと仲良くしようとしたからって悪口言わないでくれない?」 アヤ「えっ!?言ってないよ!」 チヒロ「ヤバい、ヤバいってオレのことでしょ?文句があるならさ、いないとこで言わないで直接言ってくれない?オレが荏原さんと仲良くしようとするのがムカつくって!」 ユリ「本当に言ってないって!」 アヤ「動画の話してただけだよ…。」 チヒロ「ホントにムカつくんだよね。どいつもこいつも!」 ロッカーの扉を乱暴に閉めて出ていくチヒロ ユリ「ヤバいね…あの人。」 アヤ「うん、ヤバい。」 シーン53 プロダクションのビル エレベーター 拓真と玲奈がエレベーターに乗ろうとする エレベーター内に入り玲奈がエレベーターのボタンを押すと締まり掛けのドアに手を入れてエレベーターの扉を開けるチヒロ チヒロは何故かシャツの袖を腕まくりする 怯える拓真 玲奈「あっ、お疲れ様さまー。事務所の階?レッスン場の階?」 チヒロはチッと舌打ちして質問には答えず リストカットの跡が生々しい腕を玲奈にわざと見せつけるようにエレベーターのボタンを押す 傷を見てギョッとした表情の玲奈 拓真は上の方を見て呟く 拓真「ピンク…ピンク…怖い」 エレベーターのドアが開く チヒロは玲奈にガンを飛ばして出ていく 玲奈「拓ちゃん、大丈夫だよ…怖かったね。」 拓真は玲奈の手を握る シーン54 レッスン場 夜 荏原は一人いつもの席に座り書類の記入等をしている この後に教習所があるようで急いでいる 荏原「今日は学科かぁ…。」 そこへチヒロが入ってくる チヒロ「先生…。」 荏原「どうした?忘れ物か?」 チヒロ「…先生に話したいことがあって…。」 荏原「どうした?あまり長い時間は無理だけど…。」 チヒロ「オレって…嫌われてるんですかね?」 荏原「何で?誰からも嫌われてないだろ。」 チヒロ「先生を慕う生徒達から嫌われてるみたいで…。」 荏原「誰のこと言ってるの?」 チヒロ「この前はユリさんとアヤさんがオレの悪口言ってる所を偶然通りかがって聞いてしまって…。」 荏原「えぇー…あいつらそんなこと言うかな…そういう奴らじゃないけどなぁ。」 チヒロ「それに玲奈さんにはエレベーターの中で話しかけたんだけど返事もしてくれなくて…オレ人見知りだから最初はあまり話せなくて公園の時みたいになっちゃうんだけど…本当は仲良くしたいんです…けど嫌われちゃったみたいで…。」 荏原は時計が気になる 荏原「うーん…あいつらに言ってあげようか?話したらわかる奴らだよ?」 チヒロ「止めてください!そんなことされたらオレここに来づらくなっちゃう…。」 荏原「でもアイツらはそんな人間じゃないよ?チヒロの勘違いではないの?あまり話したこともないんだし…。」 言いながらも荏原は時計が気になる チヒロ「やっぱり先生は付き合いの長い方達を信用しますよね…。」 荏原「そうじゃなくてさ…チヒロごめん、オレ今日教習所行かなきゃならないんだ。もう間に合わなくなっちゃう。また話は聞くからさ!」 荷物をまとめてレッスン場を出ようとする荏原 チヒロは荏原の後ろ姿を見ながら チヒロ「良かったら送りますよ。」 荏原「送る?」 シーン55 チヒロの運転する車の車内 チヒロが運転し荏原は助手席に乗っている 荏原「悪いな…乗せてもらっちゃって。」 チヒロ「良いんです、オレが引き止めちゃったんで。」 荏原「いつもレッスンに車で来てるの?」 チヒロ「はい。人混みが苦手で。」 荏原「そっか、じゃあ東京には住めないな笑」 チヒロ「はい。」 信号待ちの車内 チヒロは腕まくりをする チヒロの手首はリストカットのあとで傷だらけになっている よく見るとかさぶたになっている傷もあり最近切ったような後もある 荏原は見てはいけないと思いながらも目が離せない チヒロ「あっ…ごめんなさい…驚かせちゃいましたよね。」 荏原「いや、見るつもりじゃなかったんだ。」 チヒロ「オレ…昔から嫌なことがあるとつい切っちゃうんです…。」 荏原「ついつい切っちゃうのは…そういうのは止めた方がいいぞ…。」 チヒロ「もうすぐ着きますね…電車よりずっと早かった。」 無邪気に笑うチヒロ 荏原「そうだね。」 窓を見る荏原を横目でニヤリと笑うチヒロ シーン56 チヒロの車 車内 教習所前 荏原「ありがとな、助かったよ。」 チヒロ「良いんです。オレこそお話聞いてもらって嬉しかったです。今度いつ教習所あるんですか?」 荏原「次はまた来週かな。」 チヒロ「また、送りましょうか?」 荏原「いや、大丈夫大丈夫。」 チヒロ「…先生、またお話聞いてもらえますか?不安で…。」 荏原「勿論いいよ。生徒の相談にのるのも仕事の一つだし。」 チヒロ「先生と連絡先の交換したいな…。」 荏原「でも生徒とは連絡先の交換とか出来ないんだよ…。」 チヒロは手首の傷を見ながら チヒロ「…また今日も切ってしまうかも…」 荏原「だめだよ、そんなことしちゃ。」 チヒロ「自分では止められないんです。」 荏原「…。」 チヒロ「その時、もし先生の声が聞けたら止められるかも…でも決まりですもんね…。」 ため息をつきながら傷をさするチヒロ 荏原「わかったよ、交換するよ。」 荏原はチヒロの手首を見ながら 荏原「そういうことしないって約束だよ。」 チヒロ「はい。嬉しい…先生、学科頑張って下さい。」 車を降りる荏原 教習所の入口へと向かう荏原 車内でその姿を見つめるチヒロ チヒロ「先生、やっぱり優しい。」 笑いながら車を発信させるチヒロ シーン57 レッスン場 昼間 玲奈、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、拓真、その他沢山の生徒達がいる その中にチヒロもいる 荏原「じゃあ、今日のレッスンはここまでにします!お疲れ様でした!」 生徒達「お疲れ様でしたー!」 チヒロはお疲れ様でしたと言い終わると同時に荏原の元に歩いていく チヒロ「今日の演技はどうでしたか?」 荏原「うん、まだオレのレッスンは始めたばかりだけど悪くないと思うよ。」 チヒロ「先生のレッスン楽しいです。」 荏原「楽しみながらやるのが一番だからね…。」 グイグイくるチヒロ 少し困惑気味の荏原 その様子を見ているユリ、アヤ、サチコ、セイヤ、玲奈、拓真 拓真は相変わらずの仕草 ユリ「何あれ?」 玲奈「わかんない…馴れ馴れしくね?」 アヤ「先生もさ、何か気を使ってる感じ…。」 チヒロはその視線に気づいている わざとらしく チヒロ「先生のレッスン…もっと受けたい…個人レッスンとかはしてないんですか?」 荏原「してないよ。特定の生徒に対してそういうことは出来ない契約だから。」 チヒロ「残念…。」 チヒロは意味ありげにそしてユリや玲奈に聞こえるように チヒロ「また先生にお話聞いてもらえるの楽しみにしてます!」 荏原は少し焦った感じ 荏原「いや、普通に相談には誰のでも乗るからさ…。」 チヒロ「先生…お疲れ様でした。」 チヒロはユリや玲奈、アヤ達の傍をわざと通りロッカーへ向かう 通り過ぎる時にはユリや玲奈達へ勝ち誇った視線を送るのも忘れない ユリ「何あれ?」 玲奈「何かムカつく」 ため息をつきながら書類に目を通す荏原 シーン58 教習所 夜 時計は19:45 待合室 技能講習が始まるのを待っている 技能講習の教本を読む荏原 そこへスマートフォンの呼び出し音が鳴る 荏原はスマートフォンを取り出す 画面にはチヒロから一言 「先生…。」とだけ書いてある すぐに画像が送られてくる リストカットして手首から血が流れている画像 荏原はすぐメッセージを送る 既読はつかない 焦った荏原は教習所の外へ飛び出し電話をかける いくらかけても電話は繋がらない 教習所の中からアナウンスが流れる アナウンス「20時から技能講習を受講の方は待合室でご準備下さい」 荏原は中に戻っていく シーン59 同日 教習所 技能講習後 教官と荏原は階段を上がってくる 別れ際 教官「ちゃんと集中して受講しないとダメですよ…。」 荏原「すみません。」 教官「あれじゃ判子押せないですよ。次回はちゃんと集中して受講なさって下さい。」 荏原「はい…気をつけます。」 教習所の外へ出る荏原 すぐスマートフォンを確認するが通知はない 既読もついていない どうしていいのかわからない荏原 シーン60 荏原の自宅 寝室 深夜 時計は夜中の3時を過ぎている 寝返りを繰り返し眠れない荏原 スマートフォンを確認するが通知はない 荏原「大丈夫なんだろうか?」 スマートフォンを枕元に戻す 外から救急車のサイレンが聞こえる 荏原は起き上がる ~荏原の回想シーン挿入~ チヒロは机の上で手首を見つめている 手にカミソリを持っている ゆっくりと手首にカミソリをあてて横に刃を走らせる 流れ出す血液 ~回想シーンから戻る~ 荏原は布団の上で頭を振る 荏原「まさかな…」 再び布団に横になる荏原 寝返りをうつ シーン61 レッスン場 昼 荏原は昨晩一睡も出来ず疲れた表情 まだ誰もレッスン場には来ていない 荏原はいつものテーブルとイスに座っている そこへチヒロがレッスン場へ入ってくる 荏原「お前、大丈夫だったの?」 チヒロ「何がですか?」 荏原「何がって…あの画像…。」 チヒロ「あれは前に撮った写メですよ…先生のおかげでこういうことしなくなりましたって、送信したんです。」 荏原「だって、あの後すぐ連絡したけど既読もつかないし電話には出ないし…」 チヒロ「寝落ちしちゃいました。」 あっけらかんとしたチヒロ そこへユリ、アヤ、セイヤ、サチコがレッスン場に入ってくる チヒロは横目でそれを見て チヒロ「いくらオレが心配だからって着信5件も6件もは少し怖かったです。」 えっ!と驚いた表情のユリ達 荏原「いや、それは…」 チヒロ「先生、また教習所に送っていってあげますから車の中でお話しましょう。」 荏原「…。」 会話を聞いたユリは信じられないといった表情で荏原を見る その視線をそらす荏原 玲奈がレッスン場に入ってくる 玲奈はユリに話しかける 玲奈「どうしたの?」 ユリ「何でもない…」 セイヤを見る玲奈 首を左右に振るセイヤ シーン62 教習所 昼 待合室に座っている荏原 教官「今日は仮免試験ですがいつも通り緊張しないでリラックスして受けて下さいね。」 荏原「はい。」 スマートフォンが鳴る 画面を見る荏原 以前とは別のリストカットの画像 荏原はため息をつく シーン63 荏原の自宅 リビング 夜 荏原はテレビを見ている リラックスしている荏原 スマートフォンが鳴る 荏原「またか…」 画面を見るとメッセージが受信されている メッセージを開くと 画面「また切りたくなってきちゃった…。」 荏原は慌てて電話をするが出ない メッセージを送る 暫く経っても返事はない 荏原は落ち着かなくなる スマートフォンを持ったまま室内をウロウロする スマートフォンが鳴る 慌ててスマートフォンを開く荏原 画面は「迷惑メールおまかせ設定」 荏原「…………。」 スマートフォンをソファに投げる荏原 シーン64 プロダクションのビル 階段 女性のレッスン生二人が階段で降りてくる レッスン生達とすれ違う荏原 荏原「おはよう。」 レッスン生A「おはようございます。」 とてもよそよそしいレッスン生達 レッスン生B「あの人生徒に手出すんでしょ?チヒロって子言ってたよ。」 肩を落としゆっくり階段を上がる荏原 下のほうでその姿を見つめる玲奈 シーン65 レッスン場 レッスン中 生徒Aと生徒Bがシーン稽古をしている 荏原は集中していない 生徒Aと生徒Bはシーンが終わってもいつもの終わりの合図(手拍子)がない為、戸惑って荏原を見る 生徒A「あのー、先生。」 荏原「どうした?」 生徒A「シーン終わりました。」 荏原「すまん、合図遅れたな。」 生徒B「きちんと見ててくれましたか?」 荏原「あぁ、もちろん見てたよ。ちゃんと出来てたよ。」 クスクス笑うチヒロ 笑うチヒロを睨みつける玲奈とセイヤ 荏原「じゃあ、今日はここまでにします…お疲れ様でした。」 生徒達は座ったまま 「お疲れ様でしたー。」 何も言わず出ていくユリ 玲奈「ユリ!」 唇を噛む玲奈 シーン66 レッスン場 ロッカー ユリ、アヤが帰り支度をしている 奥の方にはチヒロがいる そこへ玲奈が入ってくる 玲奈「ねぇユリ、最近どうしたの?」 ユリ「何でもない…。」 玲奈「何でもなくないじゃん。」 ユリ「本当に何でもないから…。」 出ていくユリ 玲奈「ねぇアヤ、ユリどうしちゃったの?」 アヤはチヒロの方を見る 玲奈もチヒロの方を振り返る チヒロ「コソコソコソコソ、立ち聞きでもしたんじゃないのかしら?」 玲奈「またお前か…。」 チヒロは笑みを浮かべながら チヒロ「先生がオレを心配して何度も連絡をよこすの…何回も着信履歴があって困っちゃうって…余程先生をオレに取られたのがショックだったのかな…」 勝ち誇った笑みでロッカーを出ていくチヒロ 玲奈「アヤ、どういうこと?あいつが言ったのは本当なの?」 シーン67 チヒロの車が置いてある駐車場 チヒロは車に向かって歩いてくる その後ろを玲奈が走って追いかけてくる 玲奈「ちょっと待ちなよ」 チヒロ「なぁに?」 チヒロの車の後ろには白いセダンが駐車してある 車内には社長が乗っていて外の二人の様子をバックミラーで見ている 二人は社長に気づいていない 玲奈「お前一体なんのつもり?」 チヒロ「何の話?」 玲奈「先生がしつこく連絡してくるとか出鱈目言わないでくれない?」 チヒロは手首の傷をさすりながら チヒロ「ホントのことだよ…先生…オレのこと凄く心配してくれるの…」 玲奈「お前、その傷痕先生に見せたんだろ?」 チヒロは笑いを堪えながら チヒロ「見えちゃったかも…」 玲奈「お前…卑怯な奴だな…」 チヒロ「卑怯?どうして?」 玲奈「心配する気持ちにつけ込んで…。」 チヒロ「つけ込んだりしてないよ。向こうが勝手に心配してるだけ…他にもね…前にリスカした時の画像も送っちゃった笑」 玲奈は悔しそう チヒロ「ホントはその後、もうこういうことはしてませんってメッセージ送るはずだったんだけど……寝落ちしちゃって笑」 大笑いするチヒロ チヒロ「悔しい?」 チヒロは心から嬉しそう チヒロ「大好きな先生取られちゃって悔しいの?」 玲奈「先生は心配してるだけじゃん。」 チヒロ「初めはみんなそうなの…」 チヒロ笑いを堪えながら チヒロ「初めはね、みんな心配だ心配だって…でもね…あの人オレのこと抱くよ絶対。」 玲奈「先生はそんな人じゃない。」 チヒロ「そうかなぁ…前の仕事先の上司も、同僚の男の子も、親友の彼氏も、舞台の先生も、みんな初めはそう言ってたのに抱いたよ、オレのこと。」 チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻く 玲奈「最低の女だな…」 チヒロ「だって心配させるとオレを大切にしてくれるの。一番に気にかけてくれるの……オレね…上司の奥さんも親友もみんな気に食わなかったの…上司は仕事も出来てとても爽やかで会社でも人気者だった…その奥さんはとても幸せそうだった…親友は昔から勉強も出来て家もお金持ちでとても綺麗で彼氏もかっこよくて…あいつら自分のこと特別だとでも思ってるのかな?オレと何も変わらないくせに。」 玲奈「何言ってるの?」 チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻きながら チヒロ「オレね、あんたの事もユリって女のことも気に食わなかったの…ずっと。」 玲奈「ずっと?」 チヒロ「ユリって女はいつも周りに家来みたいな奴ら侍らかしてるくせに、すました顔して先生、先生って猫なで声出しちゃって…ホントはあいつだって先生とヤリたいんじゃないの?」 玲奈「ユリはそんな人間じゃない!」 チヒロ「あんたもさ、あの変な男といつも一緒にいて弱い者の味方ですみたいな顔してさ…偽善者みたい。そのくせ先生先生って、あんたの方こそ男なら誰でもいいんじゃないの?」 玲奈「お前と一緒にするな!」 玲奈は涙を流す チヒロ「悔しい?先生取られて…悔しくて泣いてるの?」 玲奈「ち、違う。」 玲奈は必死に涙を堪えようとする チヒロは手首の傷痕をボリボリ掻きながら チヒロ「先生今もきっとオレのこと考えてるよ…大丈夫かな?大丈夫かな?って…リスカしないだろうな?って…ずっとオレのことだけ考えてもらえるようにするの…免許なんて絶対取らせない…オレが送り迎えしてあげる…きっと先生も喜ぶよ…」 玲奈「狂ってる…」 チヒロ「負け惜しみ?オレが今先生の胸に飛び込んだら…どうなると思う?きっとね…オレのことを抱くよあの人…今までの男もそうだったもの…特別に先生には何もつけずに抱かせてあげるの…子供が出来たらあんた達にも抱っこさせてあげるね…悔しいでしょ?あんた達が信頼して憧れてる先生がさ…オレなんかに取られちゃって悔しいでしょ?あんた達よりオレが良いんだって…オレが抱きたいんだって…自分のこと特別だと思ってるからだよ、オレと何も変わらないくせに。」 玲奈「………。」 チヒロ「あぁーすごく良い気持ち…自分を特別だと思ってる奴から大事な人を振り向かせた時って一番満たされる……けどさ…今晩も切るよ、オレ。」 チヒロはニヤリと笑い、左手の手首を右手の人差し指で切るポーズ 玲奈はカッとしてチヒロを殴ろうとする 後ろからその手をセイヤが掴む 玲奈「セイヤ!」 セイヤはとても冷静 セイヤ「そんな頭のおかしい奴殴る必要ないよ。」 チヒロ「ユリの家来が来ちゃった。」 セイヤ「好きなように言いなよ。相手にしちゃダメだよ玲奈。」 玲奈「でも、こいつ先生に…。」 セイヤ「こんな女に先生が騙されるわけない。」 チヒロはセイヤに対して挑発的に チヒロ「そうかなー?」 セイヤ「お前とは話してない。いくよ玲奈、ユリもアヤもサチコも拓真も向こうで待ってる。」 玲奈「ユリも?」 セイヤ「うん、だから行こう。」 チヒロ「負け犬同士で作戦会議?」 セイヤはチヒロに近づいて とても冷静な口調で セイヤ「お前とは話してない…オレ達に関わるな。」 立ち去るセイヤと玲奈 チヒロはボリボリと手首を掻きながら立ち去るのを見ている シーン68 仙台市街地 勾当台公園 夜 ベンチ 22時位 行き交う人は少なく 人通りは疎ら ベンチに一人座る荏原 ため息をついている そこへ歩み寄る玲奈 玲奈「先生。」 荏原はそちらを見ずに 荏原「玲奈か…。」 玲奈「もう見ないでも声だけで誰かわかるんだね。」 荏原「そりゃオレの生徒だからね。」 笑みを浮かべる荏原と玲奈 玲奈「先生…あのね。」 荏原「どうした?」 玲奈「先生はお医者さんじゃないでしょ?」 荏原「……。」 玲奈「先生は演技の先生でしょ?」 荏原「……。」 玲奈「いくら先生でも無理なことってあると思う…。」 自嘲気味に笑う荏原 玲奈「ごめん…先生…。」 荏原「いや、いいんだ…。」 玲奈「前の先生に戻ってほしい…レッスンの時は鋭い目をしてて…私達の演技を一瞬たりとも見逃さないみたいな…。」 荏原「うん…。」 玲奈「…いつも自然と周りに人が集まるような…いつでも私達の話を聞いてくれて…私の…私達の大好きな、前の先生に戻ってほしい。」 荏原「………わかった。」 玲奈「…先生…?」 荏原は初めて玲奈の方を見てニコリと笑い 荏原「……わかったよ、玲奈」 玲奈は嬉しくて泣く 荏原「…心配かけて悪かった。」 玲奈は首を左右に振り 玲奈「わからず屋の先生なら殴ってやろうかと思った笑」 荏原「遅いから…早く帰りなさい。」 玲奈「うん…レッスン場で。」 玲奈は駅に向かおうと歩き始める 荏原は玲奈を呼び止める 荏原「おい玲奈!」 振り返る玲奈 荏原「みんなでドライブ行く前に、どの車だとモテるのか車選び付き合ってくれよ。」 玲奈「…いいよ!」 荏原「ユリ達にも言っといてくれよ!」 玲奈「わかった!…けど先に学科試験合格してきてよね!」 荏原「わかった!」 手をあげる荏原とそれに応える玲奈 立ち去る玲奈を見送りながら 荏原「どうやらオレはみんなに心配かけてるみたいだな…。」 後ろを振り返ると弟のヒロが立っている シーン69 仙台市街地 勾当台公園 夜 ベンチ 終電は過ぎ 殆ど歩いてる人はいない 荏原「どうして?」 ヒロ「セイヤが心配してた。ああいう奴は相手にしちゃダメなんだ…一度でも相手にすると相手にしてもらえるもんだと思って何でもしてくるってブツクサ言ってたよ笑」 荏原「あいつにも心配かけたんだな…。」 ヒロ「おにぃらしいよ笑」 荏原「笑い事じゃないな…でも困っていたり助けを求めてる人を見るとどうしても…」 ヒロ「自分を犠牲にしても助けたくなる?」 荏原「そんなカッコイイもんじゃないよ…」 ヒロ「自分はどうなっても良いから、自分の気持ちを殺してでも助けたい?」 荏原「……。」 ヒロ「東京のリオさん…おにぃ…いや、兄ちゃん達は一緒になるって言ってたのに何で別れたの?」 荏原「…。」 ヒロ「兄ちゃんはなんの為に生きてるの?人の為なら自分はどうなってもいい…それで満足するの?」 荏原「何が言いたい?」 ヒロ「それで兄ちゃんは誰を幸せにできたの?頭のおかしいその生徒の女…そいつの為に動いて兄ちゃんはそいつを幸せに出来たの?兄ちゃんが動いた事で兄ちゃんを慕う生徒達を幸せに出来たの?」 荏原「…。」 ヒロ「リオさんは…何でいなくなったの?リオさんの為に夢を諦めて仕事に着くって決めてたのに、何故いなくなったの?」 荏原「それはあいつが無理矢理──」 ヒロ「違うよ。兄ちゃんがそうやって人の為、人の為と言って自分を殺すからだ。」 荏原「お前に何がわかる!」 ヒロ「わかるよ。リオさんは兄ちゃんの負担になりたくなかったんだ。きっと兄ちゃんはこういうよ…何も気にするな、オレの子として一緒に育てていくから心配するなよって。」 荏原「……。」 ヒロ「リオさんはどう思う?どう思えばいい?また私の為にたっちゃんの心を殺させてしまった…ずっと自分を殺しながら人の為、人の為と言って生きていく…それに耐えられなかったから…その姿を見てられなかったから…自由に生きて欲しかったから兄ちゃんの前から姿を消したんじゃないの?」 荏原「……。」 ヒロ「もう一度聞くよ…兄ちゃんはそのやり方で誰かを幸せにしたことがあるの?そのやり方で幸せにすることは出来るの?」 荏原「……。」 ヒロ「兄ちゃんはそれで幸せなの?」 ヒロの方を見る荏原 ヒロ「自分の為に何か出来ない人間が、人のために何か出来るの?自分を幸せに出来ない人間が、人を幸せに出来るの?」 荏原「……。」 ヒロ「オレは昔兄ちゃんを犠牲にしてぬくぬく育って今の地位がある、オレはそんな兄ちゃんが帰ってくるのをずっと家で待ってる。オレはそんな兄ちゃんの邪魔は絶対誰にもさせない…もっと自分を大切にしてほしい。自分を殺すんじゃなく、自分の幸せを考えてほしい。自分のやりたい事を貫いてほしい。」 荏原「………。」 ヒロ「ごめん、兄ちゃん。」 足早に立ち去るヒロ シーン70 運転免許センター近くの道路 七北田 スマートフォンで話している荏原 荏原「悪いけど、生徒と講師としての立場で話を聞くことは出来るけど、君のプライベートに足を突っ込むことは出来ない。一人の人間として君の人生を一生支えていくことも出来ない。これからは生徒と講師として責任ある立場で話をさせてもらう。」 ここまでを一息に言う 荏原「君のアドレスも消去するし、個人的なプライベートな連絡も一切受け付ける事は出来ない…ではまた、レッスン場で。」 スマートフォンの電源を切り、運転免許センターへ入っていく荏原 シーン71 チヒロの自宅 自室 一方的に電話を切られたチヒロは激昴する 電話をかけるチヒロ チヒロ「もしもし、そちらでレッスンを受けてるチヒロです…社長いますか?はい、荏原先生に酷いことをされて…。」 泣くフリをするチヒロ シーン72 運転免許センター 夕方 免許センターから出てくる荏原 免許を手にしている 歩きながらガッツポーズする荏原 泉中央駅へと歩いていく シーン73 プロダクション 社長室前 荏原は緊張した面持ちでドアをノックする 荏原「荏原です…失礼します。」 社長室へ入る荏原 閉まるドア シーン74 レッスン場 入口付近 ホワイトボードがあり、張り紙がしてある 張り紙には 「演技講師変更のお知らせ」 シーン75 仙台市街地 裏通り (~プロポーズ~シーン34で弁護士事務所からの帰りに歩いた道) 荏原は歩いている 荏原来た道を振り返り何かを思い出しフッと笑う 前に歩いていく荏原 シーン76 宮城県仙台市柳生 裏道(~プロポーズ~ シーン37で自分とリオの幻を見た道路) マンションが見える 荏原の手にはペットボトルのジュース 荏原は後ろを振り返るが視線の先には誰もおらず、ただ田んぼと山々が見える 遠くの山々を見る 一つ息を吐く荏原 何事かを考えている 荏原はまた歩き出す シーン77 レッスン場 昼 入口付近にはホワイトボード ホワイトボードには張り紙がしてある 張り紙「講師変更のお知らせ」 ホワイトボードの前でユリ、アヤ、セイヤ、サチコがその張り紙を見ている ユリ「先生のことじゃないよね?」 セイヤ「結構前にボイトレの先生変わった時も同じようなの貼ってあったし、誰か変わるんじゃないの?」 アヤ「先生が私たちに何も言わないってことないでしょ。」 アヤとサチコはロッカールームへ向かう そこへ玲奈と拓真が来る 玲奈「おはよう!」 ユリ「あっ玲奈おはよう!」 拓真「おはよう…ございます…。」 ユリ「拓ちゃん、自分から声かけれるようになったんだね!」 セイヤ「拓ちゃん随分変わったよね…。」 拓真「せ、先生の…おかげで…みんなも…優しいし…」 ウンウンと頷く玲奈 自分のおかげだみたいな表情 セイヤ「なんでお前が勝ち誇ってんの笑」 玲奈「だってぇ…って何見てんの?」 ユリ「講師が変更しますってお知らせがあったから。」 玲奈「誰?」 ユリ「書いてないんだよね。」 玲奈「うちの事務所はいつも書かないよね!誰が変わるのかわかんないだろって!」 他にも入ってくる生徒達 ユリ「私達もロッカーに荷物置いてきちゃお!」 玲奈「うん!行こう、拓ちゃん!」 と言って玲奈が拓真の方を見ると その後ろから講師が入ってくる 講師「もうレッスン始まるよ!」 玲奈の驚いた表情 シーン78 チヒロ自宅 自室 (~mental health+er~ シーン71の電話の続き) チヒロの部屋は滅茶苦茶になっている 荏原からの電話の後で怒り狂って部屋の中で暴れた後 チヒロ「もしもし、社長ですか?そうですチヒロです。私…荏原先生に酷いことをされて…実は前から電話やメールが頻繁にあって多い時は一晩に5回も6回も着信があって…それに先生が君は特別だからって体の関係も迫られて…あまりにも迫られるので…ついついそういう関係になってしまって…レッスンの度にそれに応じていたんですが…私に飽きてしまったみたいで、もう連絡をしてくるなと…はい、そうです。多分先生のクラスの玲奈さんやユリさん達とも私と同じく体の関係なんだと思います…プロダクションとしてきちんと対応して下さい。私悔しくて…もしプロダクションがきちんとしてくれないならSNSからも発信して真実を明かにしたいです…」 シーン79 プロダクション社長室 電話の対応をする社長 電話の相手はチヒロ 社長「貴方の仰られることはわかりました。会社として然るべき処置をお約束致します。では失礼致します。」 電話を切る社長 一つ息を吐き改めて電話をかける社長 社長「もしもし、荏原先生ですか?お話があるので社長室まで来てください。」 シーン80 BAR 夜 (~プロポーズ~ で訪れた店) 客は誰もおらず、グラスを磨いているマスター ドアの開く音が聞こえる マスター「いらっしゃい…おぉ…久しぶりだな…まぁ座れよ。」 シーン81 同日 BAR 荏原はカウンターに座っている 店内に客はおらずマスターも荏原の隣に座っている 荏原は飲み終わって氷しか入ってないグラスを手で弄んでいる マスターは軽い笑みを浮かべながら マスター「ふーん…そんなことがあった割には飲んだくれてないな笑」 荏原「オレ飲んだくれたことあったっけ?」 マスター「よく言うよ…ってきり発泡酒の2、3本も飲んでんのかと思ったら素面だもんな笑」 荏原は人差し指を左右に振りながら 荏原「チッチッチッ!お酒は美味しく飲むものでしょー笑」 マスターはその荏原を見て マスター「大丈夫そうだな。」 荏原「……また来るよ。」 外へ出ようとする荏原に声をかける マスター「お前、今日のお代は?」 荏原「また来るから、ツケといて笑」 出ていく荏原 マスター「ったく…あいつは…。」 苦虫を噛み潰したような表情のマスター だが嬉しそうでもあるマスターの表情 シーン82 レッスン場 昼 レッスン終盤 講師「次回のレッスンまで今日読み合わせした台本を覚えておくようにして下さい。お疲れ様でした。」 生徒達「お疲れ様でしたー!」 玲奈は講師の元へ向かう 玲奈「お疲れ様です。」 講師「お疲れ様。」 玲奈「あの…先生はこれからも映像演技クラスの担当に…?」 講師「私は代理だよ。詳しいことはわからないけど、暫くの間このクラスも受け持ってほしいと社長からの伝令でね。」 玲奈「そうなんですか…。」 講師「私も元々は声優クラスの講師だからずっと受け持つわけではないよ、新しい先生が来るまでの代理だと思う。」 玲奈「新しい先生…ありがとうございました。」 不思議そうな顔で玲奈の後ろ姿を見る講師 シーン83 同日 レッスン場 ロッカールーム ロッカールームの中ではユリ、アヤ、サチコ、セイヤ、拓真が玲奈を待っている 玲奈が肩を落として入ってくる ユリ「どうだった?」 アヤ「なんて言ってた?」 玲奈「あの先生は代理なんだって…」 セイヤ「じゃあ先生は…」 玲奈「新しい先生が来るまでの代理なんだって…。」 ユリ「うそ!先生辞めるわけないじゃん!」 セイヤ「黙って辞めていくわけないよ!」 玲奈は少々イラッとした感じで 玲奈「でも暫くはあの先生が担当して、新しい先生が来たらその新しい先生に変わるんだって!」 拓真「……せ、先生には…も、もう会えな…い?」 玲奈「………。」 ロッカールーム全員がガッカリして肩を落とす シーン84 プロダクション 社長室入口 玲奈とユリは社長室の前に立っている 玲奈とユリはお互い顔を見合わせて頷く 玲奈ドアをノックする 玲奈ドアを開ける 玲奈「失礼しまーす。」 ユリも失礼しまーすと続いて入室する 社長が座っている 社長「珍しい組み合わせだな…どうした?」 玲奈「荏原先生のことで…。」 社長「その話か…。」 ユリ「先生は辞めたんですか?もうここには来ないんですか?」 社長「…役員会の決定があるまでは何も話すことは出来ない。」 玲奈「そんな…何でですか?」 ユリ「先生何かしたんですか?教えて下さい!」 社長「何も話すことはない…帰りなさい。私も仕事があるんだ。」 パソコンに目を落とす社長 落胆の二人 シーン85 仙台市内 レッスン場近く 勾当台公園ベンチ (~mental health+er~シーン50)と同じ並び同じポジションでユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、玲奈、拓真 ユリと玲奈はベンチに座っている ユリ「拓ちゃんも座りな。」 拓真「…そっそっそこは先生の席…ボ、ボクはここ…。」 ユリ「良いんだよ…今日は先生いないから…。」 拓真「…せ、せ、先生の席。」 玲奈「拓ちゃんは席とか並びにこだわりがあるから…」 拓真を優しく見る玲奈とユリ サチコ「…私、ショックで。先生は私との約束も守ってくれた…私達の味方だって言ってくれてた…いなくならないと思ってた…。」 セイヤ「それはオレ達も同じだよ…こういうこと言ったらいけないけど、先生以外から演技教わるなんて想像もつかないよ…。」 そこへ突然声がかかる 「やっぱりここだと思ったー。」 セイヤ、アヤ、サチコは後ろを振り返る ユリと玲奈は視線を上げる チヒロが立っている チヒロ「あれー?今日は先生いないの?」 わざとらしい意地の悪い笑み セイヤ「お前のことは相手にしないっていってるだろ?」 玲奈「何しに来たんだよ?帰れよ。」 サチコ「……あんたの顔なんか…みたくもない。」 拓真は呟いている 拓真「…ピ、ピ、ピンク…ピンク…」 睨みつけるアヤ ユリ「みんな行こう…気分が悪い。」 立ち上がるユリと玲奈 チヒロ「へぇー、良いの?」 無視するセイヤ チヒロ「聞きたくないの?みんなの大好きな先生がどうなるか?」 全員がチヒロを睨みつける シーン86 同日 仙台市内 勾当台公園ベンチ 玲奈、拓真、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコそしてチヒロ チヒロはとても気分が良さそう 玲奈「お前が何知ってんだよ?」 ユリ「あんた先生のストーカーしてんじゃないの?」 チヒロ「そんなことしない。ただ、社長に言っただけなの…。」 セイヤ「何を言ったんだよ。」 チヒロ「聞きたい?」 サチコ「…言いたくて来たくせに。」 チヒロ「荏原先生に体を弄ばれて捨てられたって…初めは先生の方からしつこく迫ってきて、メールや電話も何件も届いて怖かったけど…しつこく迫られてるうち体の関係になっちゃったって…」 玲奈「全部ウソじゃん!!」 チヒロ「体の関係を続けてたのに、ポイ捨てされたって…きっと玲奈さんもユリさんも先生とは体の関係があるから…私とは遊びだったんだろうって…だからプロダクションとして然るべき対応をお願いしますって…きっとクビよ、クビ。」 ユリ「そんなの誰も信じないよ!」 チヒロ「本当にそう思う?今はね電車に乗っててお尻触られたって声を出せば…証拠がなくても捕まっちゃう時代なの…証拠ならね…先生からの着信履歴…残してあるの。」 玲奈「それはお前がリスカの画像送ったから心配して…。」 チヒロ「でもそんなの書いてないもの…着信履歴には…リスカが心配で電話しましたなんて書いてないの履歴には…ただ先生から一晩に5回も6回も着信があった履歴があるだけなの…だから先生に体を要求されて、それに応えたらポイ捨てされたって言えば…それが本当になるんだよ!」 大笑いするチヒロ チヒロ「あいつクビだぜ、絶対!ザマァミロ!罰だよ、罰!あいつやお前らに罰を与えてやったんだよ!」 玲奈「なんでそんなことするの?」 チヒロは急に真顔になり手首のキズを掻きだす チヒロ「……あいつがオレを受け入れなかったから…オレを受け入れて抱いてくれなかったから…お前らはオレを見下して…お前らだけで先生を独占してたから…これからSNSであいつはこういうことしたって広めてやる。あいつの評判を落としてもう演技なんか教えられなくしてやる…そうしたら…そうしたら…反省してオレの所に来るよ…」 ニンマリと狂った笑顔を向けるチヒロ 一同を舐め回すように見る チヒロ「反省して戻ってきたら…許してあげるんだ…そして今度こそ二人で…私って…優しいでしょ?」 玲奈「許さない。」 チヒロ「許さないの?どうやって?ねぇ…悔しい?悔しいでしょ?自分達だけ楽しい人生送りやがってよー…悔しいだろ?」 チヒロの正気ではない表情のアップ シーン87 荏原の自宅 リビング テーブルにはノートパソコンが置いてある その前に座って何やらパソコンに打ち込んでいる荏原 荏原「今はさー、パソコンで履歴書を作る時代だもんなー…オレの若い時は手書きで何回も書き直ししたなぁ…。」 若い時を思い浮かべる荏原 荏原「まぁ、そんなことより…えーと生年月日は…198…と3月…3日生まれ…と…両さんかっていう笑」 一人くだらないことで笑う荏原 荏原「先は長いなぁ…。」 シーン88 プロダクション社長室 社長はパソコンで作業しているとスマートフォンが鳴る 社長「はい、もしもし…はい、かしこまりました。はい、今確認しております…」 パソコンをチェックしている。 社長「確認致しました。その旨…はい、申し伝えて…かしこまりました…はい、ありがとうございます…お疲れ様です。」 電話をきる社長 パソコンの画面を見て一息つく 頷く社長 シーン89 荏原自宅 リビング 夜 パソコンの前に座って作業する荏原 荏原「…えっーと、これを保存して…そしてアップして……確認っと…。」 パソコンの画面を見る荏原 荏原「……良いんじゃない?」 荏原はニヤッと笑う シーン90 チヒロの自宅 自室 デスクにはノートパソコンが置いてある チヒロ椅子に座りスマホで何かを打ち込んでいる チヒロ「荏原って講師は女だったら誰でも手を出す、女癖の悪い男だ…っと」 パソコンの方を向き、入力し始める チヒロ「体を売って講師に気に入られてる女とゲイの動画なんか誰がみたいと思うんだっと…。」 チヒロはニヤニヤ笑っている ベッドに体を投げ出し チヒロ「…早く先生謝ってこないかなぁ…許してあげるのに…素直じゃないなぁ…」 チヒロはニヤニヤしながら手首の傷を見る デスクの引き出しからカミソリを出して刃を見つめている シーン91 アパートの一室 2DK 夜 生活感はあるがとても綺麗に片付けられた部屋 30代前半の非常に綺麗な女性がパソコンに向かっている その傍には三歳位の女の子が絵本を読んで座っている 女の子は母親に似てとても可愛い パソコンで何かを見てる女性 女性はパソコンを見ながら 女性「…あの人…また何かに巻き込まれてる」 ふふっと懐かしそうに笑う 女性はパソコンを操作して別の画面へ 女性はえっ!と驚いた表情 女性「宮城アクティング・スタジオ…生徒募集…」 女の子も女性の後ろからパソコンを覗き込む 女の子「ねぇ、ママ…この人だぁれ?」 女性「…この人はね…ママが昔好きだった俳優さん」 女の子「俳優さん?あっ見たことあるー!」 カメラはテレビの横にあるDVDの棚を捉える そこには若い日の荏原が出演したDVDが置かれている シーン92 レッスン場 ロッカールーム 昼 ユリとアヤはロッカールームで話してる アヤ「うちの事務所のサイト見た?。」 ユリ「見たよ…酷すぎる…先生のことあることない事書いて…事務所クビになったとか…」 アヤ「それにうちらのチャンネルまで誹謗中傷きてるよ…」 ユリ「私だけの事じゃなく、セイヤのことまで書いてあった。」 玲奈入ってくる 玲奈「おはよー。」 ユリ「玲奈も見た?」 玲奈「何を?」 ユリ「事務所のサイト。」 玲奈「えっー見てない…」 ユリはスマホを操作して ユリ「これ…見て…。」 アヤ「これは私らのチャンネルのコメント欄…」 玲奈はスマホを見るが読めない 玲奈「…ちょっと読んで…」 ユリはスマホを見ながら ユリ「…女癖が悪くて、すぐレッスン生に手を出す…って」 玲奈「もう許せない…」 セイヤ「おはよ!みんな見た?」 玲奈「今見た!」 玲奈はロッカールームを飛び出していく 後に続くユリ セイヤ「どこ行くんだよ…何で怒ってんだ?」 シーン93 社長室のドアをノックもせずに開ける玲奈 続いて入室するユリとアヤ ジロリと三人を睨む社長 社長「ノックもしないで──」 玲奈「社長!何で荏原先生をクビにしたんですか?」 ユリ「先生より、私達より…チヒロのことを信用したんですか?」 社長「……。」 ユリ「見てください。」 ユリとアヤはスマホを社長に渡す 内容を見る社長 玲奈「チヒロが書いたに決まってる!」 アヤ「会社はこれを真実だって判断して辞めさせたんですか?」 社長はため息をつく 玲奈「答えて下さい!」 ユリとアヤ同時に「社長!」 社長は少し呆れ顔 社長「お前ら…ウチは荏原先生を辞めさせてないよ。」 玲奈「えっ!?でも…」 社長「確かにチヒロからは電話はきたよ…荏原先生から体を要求されたとか捨てられたとか言っていた…」 ユリ「そんなのウソだよ!」 玲奈「先生はそんなことしないよ!」 社長「知ってるよ。」 ユリ「えっ!?」 玲奈「なんで…?」 社長「玲奈とチヒロがケンカしてた駐車場…お前達はオレの車の後ろでケンカしてたんだよ。」 フラッシュバック挿入(~mental health+er シーン67) 言い争う玲奈とチヒロ 白いセダンの中の社長はバックミラーで二人の姿を確認する フラッシュバックから戻る 社長「全部聞いてたよ…それに…」 社長はスマホを見せる スマホを操作すると玲奈とチヒロの言い争う声が聞こえてくる 社長「録音してある。」 ユリ「でも事務所が然るべき対応をするってこの前チヒロが…。」 社長「オレはね、こういう迷惑行為や全く事実無根の誹謗中傷をする者に対しては然るべき対応をするっていうことを言っただけ。向こうがどう捉えて判断しようとこちらは関知しない。うちの所属タレントに対してこういう誹謗中傷をした場合は法的手段も取らせてもらうよ。」 玲奈「じゃあ何で先生をクビにしたの?」 社長「クビにはしてないよ…荏原先生は自分で辞められたんだよ…もちろん引き止めたよ。」 黙って話を聞く三人 社長「先生はね、理由がどうであれレッスン生に対してアドレスを教えたりするのは間違えていた…もしあそこで自分がきちんと線引き出来ていればチヒロもこうはならなかったかもしれない…今回のことで玲奈、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、拓真…それだけじゃなく沢山のレッスン生達にも迷惑をかけてしまった…だから責任を取って辞めさせてほしいと…私も非常に残念だったよ…。」 玲奈「迷惑なんて…かけてないのに…。」 ユリ「じゃあ先生は…もうここでは…。」 社長「…ここではもう教えることはないよ…ここでは。」 シーン94 BAR 店内 夜 荏原がカウンターに座っている マスターはグラスを磨いている 荏原店内を見渡し 荏原「相変わらずお客さんいないね…」 マスター「余計なお世話だよ。」 荏原「こっちは市内と違って人が少ないもんね…」 マスター「何でお前、ここで始めようと思ったんだ?仙台駅周辺の方が人も集まり易いだろ?」 荏原「…うん…正直それは考えた…でもさオレこっちに帰ってきて初めて住んだここで…」 荏原の脳裏のフラッシュバック挿入 (~プロポーズ~ シーン37 発泡酒を飲みながら歩くシーン) (~プロポーズ~ シーン37 自分とリオの幻を見るシーン) ( シーン76 田んぼの中で山々を見るシーン) 荏原「ここでまた一から始めてみようと思って…」 マスター「そうか…」 荏原「じゃあ帰ろうかな…。」 マスター「まてよ…これ飲んでけよ。」 マスターは(~プロポーズ~ シーン48で出した)ボトルを棚から取り出す 荏原「えっ、でも今日は持ち合わせがないよ。」 マスター「良いんだ、今日のは全部奢りだ。」 マスターはグラスにスコッチ・ウイスキーを注ぐ 荏原の前にグラスを置く マスター「お前の人生はさ…ギャンブルみたいなもんだろ?これからここで新しくまた出発するんだろ?」 荏原「…うん。」 マスター「ゲンかつぎだよ…出銭はゲンが悪い…。」 荏原はスコッチ・ウイスキーを飲み 荏原「…ありがとう。」 マスターは頷いてグラスを磨いている シーン95 宮城県内 BARのある駅前 4月 昼 県内でも有数の桜の名所 桜まつりで駅前は人で賑わっている 駅からは沢山の人が出てきて桜まつりの会場へ向かう シーン96 仙台駅 新幹線ホーム 新幹線が止まりたくさんの人が下車する 新幹線改札口 背が高く髪の長い女性と手を繋いで歩く女の子の後ろ姿 コロコロカバンを引いて歩いていく シーン97 チヒロの自宅 自室 チヒロは自室のベッドに座っている 部屋の外から母親の声 母親「チヒロ…あなたに手紙が届いてるけど…。」 チヒロ「ドアの前に置いとけよ!」 母親「早く見た方が良いと思うけど…」 チヒロ「わかったよ!置いとけよ!」 チヒロは面倒くさそうに舌打ちしながらドアを開けて封筒を取る 封筒のアップ 封筒は二枚 一枚目「株式会社24プロダクション」 二枚目の封筒を脇に挟みプロダクションからの封筒を開く 中の書類のアップ 「契約解除通達書」 チヒロは一瞬考えてから手紙を投げ捨て二枚目の封筒を見る 二枚目の封筒のアップ 「仙台法律事務所」 チヒロは封筒を乱暴にあけて書類を読む チヒロ「私を…訴えるって…損害賠償って…」 青ざめてへたり込むチヒロ シーン98 新しいレッスン場 荏原は窓を見ている 荏原はため息をつきながら 荏原「…失敗したなぁ…何で桜まつりの初日にレッスン開始にしたんだろうなぁ…」 時計を見る荏原 時計は10:30 荏原「30分前なのに誰も来ない…」 椅子に座る荏原 シーン99 荏原は相変わらず窓の外を眺めている 後ろの方でドアが開く音 荏原が振り返ると ドアを開き押さえるセイヤ カメラを構えて後ろ向きに入ってくるサチコ ユリ「今日のユリチャンネルは私達の先生が演技教室を開くということで取材にきましたー!」 玲奈「玲奈もいるよ!」 カメラに手を振る玲奈 ユリ「今日は玲奈も一緒なんだよね!」 玲奈「ゲスト出演!」 ユリ「玲奈は私の同期です!」 荏原「お前ら…」 セイヤ「一旦カメラ止めよう。」 玲奈とユリ荏原の方を振り返る 玲奈近づいてくる 玲奈「先生、私達怒ってるんだよ…何も言わないで…」 ユリ「黙っていなくなって…」 セイヤ「そうだよ、心配したんだよ!」 アヤ「クビにされたのかと思って…」 サチコ「…私達先生に捨てられたと思った…」 荏原「…悪い…。」 玲奈「ホントに悪いよ!会ったら絶対殴ってやるって思ってた。」 ユリ「先生は私達のこと世界に通用する役者にするって約束したよね?」 アヤ「私たちに最後まで本当の演技を教えてよ!」 荏原「…事務所の許可を取らないと…」 セイヤ「社長が…」 回想シーン挿入 社長「うちでは荏原先生以上の演技講師を見つけることは出来ないから、映像演技がやりたい人は全員荏原先生の教室でレッスンを受けてもらう。その許可も役員会で下りてる。」 セイヤ「と社長は言ってました。」 玲奈「良いでしょ!?先生!」 荏原は少し考えて 荏原「…わかった!これからも教えていくよ…その代わりオレは厳しいよ?これからはウチの生徒になるんだから…」 玲奈「わかった!」 アヤとセイヤはハイタッチする ユリと玲奈も手を握り合う サチコはそれを撮影してる 再びドアの開く音 拓真と拓真の父吉岡、後ろには数人の若者 荏原「拓ちゃん…吉岡さん…」 吉岡は皮肉めいた笑みを浮かべて 吉岡「先生…拓真は受けさせてもらえないんですか?」 荏原「それは…」 吉岡「私はね、先生以外に拓真を預ける気はないんですよ…それに…先生は人が悪い…」 荏原「…」 吉岡「言ったでしょう?独立して教室を開く時はウチが全面的に協力すると。」 荏原「吉岡さん…」 拓真は玲奈と荏原の傍に歩み寄る 拓真は荏原に手を差し出す 拓真「…先生の…レッスン…受ける…」 手を握る荏原 荏原「…うん、またレッスンしような拓ちゃん…」 吉岡はその言葉を聞き 吉岡「これから君たちの演技講師を担当して頂く荏原先生だ、挨拶しなさい。」 吉岡の後ろの若者達「荏原先生、よろしくお願いします!」 荏原「こちらこそ、よろしく!」 吉岡を見る荏原 荏原「吉岡さんありがとうございます!」 吉岡は軽く手を上げて部屋を出ていく シーン100 新レッスン場のあるビル内 吉岡は出口へ向かって歩いている 子供を連れた女性とすれ違う 吉岡は何気なくその女性の顔を見る 軽く頭を下げて通り過ぎる女性 吉岡は数歩進んで立ち止まり 何となく振り返るが女性と子供の姿はない 出口へ向かい歩き始める吉岡 シーン101 新レッスン場 ユリのチャンネルの取材はまだ続いている ユリ「先生の真意を聞かせて下さい!」 荏原「…オレはね、子供の頃に両親が離婚して養子に出された…母親…父親…どちらからも引き取ってもらえなかった…オレは要らない人間だと思った…オレを認めてほしかった…親も誰も必要としないオレを必要としてくれたのは演劇だった…オレにしか出来ない表現がそこにあった…」 玲奈「…先生…」 荏原「演劇はオレの経験…オレしかわからない痛み…全てを必要としてくれた……オレはね…」 ゆっくり玲奈、ユリ、アヤ、セイヤ、サチコ、拓真、そして若者達を見渡し 各役者のアップをカットに入れながら 荏原「それぞれに悩み、苦しみ…本当の自分を表現したい…普通とは違う自分を…本当はわかってほしいけど表には出せない本当の自分…それを知ってほしいと願う…そういう若い人達の為に手助けがしたい…片親だから…家が貧乏だから…みんなと同じじゃないから…そんなことで夢を諦めようとしている子達…その子達に知ってほしいのは…そういう環境だからこそわかることがある…痛みを知った人間しか表せない表現がある…その場を作りたい……そしてその喜びを知った子達の表情を親御さんに見てもらいたい…そういう気持ちでこれを始めようと思ったんだ。」 シーン102 新レッスン場 ユリチャンネルのインタビュー後 荏原は奥のテーブルでノートを出したり台本を出したりしている レッスン場内ではレッスン生達が椅子を出したり台本を出したりしている 非常に騒がしい 玲奈が椅子を出している そこへ続々と親子連れの人達が入ってくる 女性「レッスン会場はこちらで間違いないですか?」 玲奈「はい…ここですよ!見学ですか?」 軽く笑みを浮かべて頷く女性 玲奈は騒がしい場内の声に負けない大きな声で荏原に知らせる 玲奈「先生ー!!見学の方が来ましたよー!」 荏原は入口の方向を見る 荏原「どうぞ、お入り下さい!」 ユリ「凄い!こんなに沢山の人が来てくれるなんて…」 玲奈「私達の先生のやる事だもん…当たり前だよ!」 そこへ女性と女の子が入ってくる 女性「荏原先生の教室はこちらでしょうか?」 玲奈「はい、そうです!お知り合いの方ですか?」 女性は曖昧に頷く 玲奈「先生!お知り合いの方が来ましたよ!」 荏原はその女性を見る その女性の姿を見た瞬間 騒がしかった場内の音が荏原の耳には入らなくなる 荏原だけ時間が止まる 荏原の様子を見て生徒達がシーンとなる 場内へゆっくり歩みを進める女性と女の子 コツコツという歩く音だけが場内に響く 荏原「……どうして?」 リオ「…娘に演技を教えてほしくて…」 女の子は荏原を指さし 女の子「この人おうちのDVDで見たことあるー!」 荏原はしゃがんで女の子と同じ目線にする 荏原「お名前は?」 女の子「…」 荏原「恥ずかしいのかな?」 リオ「…桜…」 荏原「さくら?」 リオ「…私の憧れていた…大好きな俳優が桜の季節に生まれた人なんです…」 荏原「……桜ちゃん?」 頷く桜 桜「三歳だよ…。」 荏原「そっか…三歳になるのか…よろしくね」 荏原が手を差し出すとその荏原の人差し指をゆっくりとおずおず握る桜 ユリと玲奈は肘で小突きあって ユリ「何あの人?」 玲奈「知らない?」 ユリ「良いの?」 玲奈「何がよ?」 みたいな会話を小声でしている 荏原「………演技…したいの?」 桜「…いつもテレビ見てるから…出来るよ…」 荏原「…そうなの?」 桜「…お前のだよ!」 突然のお前呼ばわりに驚く荏原とその周囲 みんな笑い出す 荏原は立ち上がり 荏原「リオと桜は椅子に座って見学してて。」 後方の椅子へ向かうリオと桜 その後ろ姿を見つめる荏原 荏原は手を叩きながら 荏原「じゃあレッスンを開始します!よろしくお願いします!」 生徒達「よろしくお願いしまーす!」 その荏原の姿を嬉しそうな表情で見つめるリオ シーン103 花束を持ち廊下を走ってくるヒロと大介 ヒロ「お前が寝坊するから…」 大輔「ヒロさんが昨日夜遅くまで行こうかな?行かないかな?兄ちゃん怒ってるかなぁって電話してくるからですよ!」 ヒロがふと横を見る 髪の毛はボサボサでヨレヨレのTシャツを着た小学生の兄弟が二人立っている 弟「…兄ちゃん…行かないの?」 兄「…行くけど…入れてくれるかな…」 ヒロはその兄弟を見つめて何か胸に去来する ヒロはゆっくりとその兄弟に近づく ヒロ「レッスン受けに来たの?」 兄「…うん…でも母さん働きに行ってるから…オレ達だけで入れてくれるかな?」 弟はずっと兄の手を握っている ヒロ「…一緒に行こうか?お兄ちゃん達が一緒に中に入ってあげるよ。」 兄「…いいの?」 ヒロ「…先生は優しい人だからきっと入れてくれると思うよ。」 ヒロは兄弟の兄へ手を差し伸べる ヒロ「行こう!」 ヒロの手を握る兄弟の兄 兄「うん!」 弟は喜んだ表情 大輔は弟に手を差し出す 大輔の手を握る弟 四人が並んでビル内のホールをレッスン場へ向かって歩いている 画面は切り替わり 川沿いの満開の桜と行き交う楽しそうな人々 back beat 4 「end」
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