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彼女が去った後も、私はぼんやり窓を叩く雨粒を眺めていた。
「やまないなぁ」
ひとり言が、ひとり歩き。
けれど館長さんはすぐに捉まえてくれた。
「時間の長さの感覚は人それぞれといいますからね」
哲学的な発言だ。シュレーディンガーといい、この人は理知的な人だなとこっそり思う。
「どういう事ですか?」
「例えば霖雨だったとしても、長い人生の全体で見れば驟雨かもしれないし、驟雨でも、見方によっては霖雨になるかもしれません」
「霖雨って、何日も続く雨でしたっけ?」
「そうです。例えばこの雨だって、後から振り返ったらほんの一瞬の夕立かもしれない」
降りしきる雨を見上げながら館長さんは続けた。
「けれど雨降りの最中には、人はその事に気付きにくい。だからもし、今あなたの心の中が雨で冷えていたとして、その雨がなかなかやまないと感じたとしても、もしかしたら、それはあと少しでやむ夕立なのかもしれませんよ」
館長さんが言ってるのは、私の学校での出来事についてだろう。
心配してくれたのかもしれない。
だったら申し訳ないなと、私は笑顔を見せた。
「大丈夫です。私気にしてませんから。相手にするのが面倒なだけで、酷くなるならちゃんと反撃方法も考えてるんです。雨がやんでもやまなくても、それは関係ありません」
彼女達からの嫌がらせを、いじめと受け取る人もいるかもしれない。
でも私は、そんなに重くは感じてなかった。
ただ泣き寝入りは性に合わないので、一定の境界線を越えたら然るべき手段に出ようとは思っていた。
今日の傘の件はその境界線を越えたかと思ったけれど、さっき彼女がそれを使わずにずぶ濡れになる方を選んだのを見て、少しの猶予が生まれたのだった。
館長さんは私の説明に「そうですか」と頷いたと思えば
「おや、またどなたかいらっしゃいましたよ」と、窓に視線を流した。
「え?」
つられた私の目に入ってきたのは、遠くからでもスタイルの良さが分かる、彼だった。
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