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「あ…」
彼はこの雨の中傘も持たず、カバンを頭上にやりながら小走りで公園を横切ろうとしていたのである。
「あの、ここって中にいる人が誘えば外の人も入れるんですよね?なら、あの男の子を入れてあげてもいいですか?」
咄嗟にそう訊いていた。
居ても立ってもいられなかったのだ。
そして館長さんの「もちろん」という返事を聞くや否や、ロビーに走り出していた。
けれど、ギッ、と重たい扉を開き、彼を呼びに外に出ようとしたところで、その彼本人とぶつかってしまったのだった。
「わ!」
「え?あっ…」
正面衝突は避けられたものの、彼の腕に体を支えられる体勢は、かなり恥ずかしい。
「ご、ごめん」
慌てて離れた私に、彼も「いや、俺こそ…」と、微妙にぎこちない。
「あ、俺、置き傘してるって思い込んでてさ、でも勘違いで、それで駅まで走ろうとしたら、急に雨がきつくなってきて…」
「私も傘を…忘れちゃって。ここで雨宿りさせてもらってるの」
「ここで?ここって何の建物?」
どうやら彼もこの図書館は知らなかったようだ。
私は重たい扉を再び開きながら答えた。
「図書館らしいよ。私も今日初めて来たんだけど」
「図書館?」
「そう。館長さんが親切な人で…あ、館長さん」
私達がロビーに入ると、館長さんが待っていてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。さ、その濡れた体をどうぞ暖めてください」
そう告げ、優雅な仕草で腕を伸ばし、暖炉の部屋に彼を促した。
「すみません、お邪魔します」
遠慮ぎみに挨拶した彼を、今度は私が案内した。
すると暖炉前の椅子に座ったところで、またあの女性がタオルを差し出してくれた。
「よかったら使って」
「ありがとうございます…」
彼は戸惑いながら受け取り、女性はまたもや自分の席にすたすた戻った。
「こんな図書館があったなんて、知らなかった」
読書家の彼は、壁一面の本棚に目を輝かせていた。
「私も。雨には濡れちゃったけど、おかげでここに来られてよかった」
正直な感想だ。
彼はタオルで頭を拭きながら、
「うん、俺もそう思う」と言ったのだった。
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