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時の図書館
大切なものが、ほんの少し苦々しく思える。
そんな複雑な心境で、私は愛用中の腕時計を見つめた。
大好きな祖母から譲られたそれは、ある有名ブランドの女性用で、今となっては形見となってしまったけれど、私は毎日身に付けていた。
確かに、ごくごく一般的な地域にある公立高校に通う女子高生が愛用するには、いささか高価すぎて、目立つのかもしれない。
でもこれは祖母の形見で、いわばお古なのだと説明すると、周囲は『いい時計してるね』程度の反応で終わっていた。
ある時までは。
簡単な話、クラスで一番人気のある男子が、私と同じ時計を付け始めたのだ。
といっても彼のは男性用で、私のとはペアになる。
そしてそれを知った彼のファンから、色々な嫌がらせが始まったのだった。
軽い陰口からシカト、よくまあ高校生になってまでそんな幼稚なことができるものだと、ある意味感心したりもしたけれど、持ち物を隠されたり盗まれたりしだすと、さすがに黙って見過ごすわけにもいかなくて。
でもシャーペンとかタオルハンカチとか、被害対象はごく小さな物だったので、然るべきところに申告するのも躊躇っていた最中、本日、ロッカーにあるはずの折り畳み傘が行方不明になったのである。
物が大きくなったという事もあるが、降水確率80%の今日、傘を持たないままの帰宅には大いな不安があり、そしてそれが的中してしまった………現在はそういう状況である。
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