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雨の音がする帰り道。雨粒がボッボッと傘を打ち、先端の丸い部分を滑り落ちる。ランドセルの色と同じ赤色の傘を、くるっと回せば水滴が弾けた。
買ってもらったばかりの青いゴムの長靴で、水たまりの真ん中をわざと歩いたりして。そうして水の中に映るわたしは、いつもよりちょっと得意げな顔をしていた。
アジサイの葉の上に、にょきっと出たカタツムリを見つけて、ちょんと角を突いてやるとたちまち引っ込めるようすなんか、立ち止まっていくらでも眺めていられた。田んぼの横を通れば蛙たちが歌っていて。遠くにポツポツ見えるカラフルな傘の下で、わたしと同じように道草を食っている子がいると思うと、なんだか嬉しかった。
案外わたしは雨の日が好きなのかもしれない。長靴の中は少しじめじめとしていたけれど。
そうしているうちに、わたしが住んでいる団地に着いた。傘を畳まなきゃいけないけど、わたしは傘を巻くのがへたくそだった。
コンクリートの階段を3階まで昇れば、わたしの家だ。渇いた灰色の床には、すでに小さな足跡が点々と続いていた。その子の隣を、わたしの足跡が並んで歩いた。
踊り場で、傘を筆に水滴を絵の具にして描いた。わたしのお気に入りはゾウの絵だったけれど、水はすぐに乾いてしまって、飽きて途中でやめた。そんなことより、早く家に帰らなくちゃ。
「ただいま」って挨拶をしたら「お帰り」とお母さんが言ってくれた。わたしの頭をなでるお母さんは、さらさらして暖かかった。そんなに大きな声を出しているつもりもないのに、お母さんは「今日も元気ね」と言う。
濡れた靴下の跡が床について、いつの間にか、びしょびしょになっていた。お風呂場に行って靴下を脱ぐと、中から砂利が出てきた。本当にいつの間に入ったんだろう。シャワーのお湯はじんわりとして気持ちよかった。
お風呂から出ると、台所から甘い匂いが漂ってきた。お母さんがみたらし団子を作ってくれたんだ。蜜がたくさんかかっていて、串に刺さっていないみたらし団子。お店では食べられない味だ。湯気が出て熱そうだけど、冷めるのなんか待っていられないのは当然でしょ。
「なんで雨の日しか作らないの?」ってわたしが聞くと「そうかしら」とお母さんは首を傾げたけれど、きっとそうだよね。
団子を食べ終わると、わたしは部屋から子ども向け雑誌の付録にあったすごろくを持って来る。外遊びができない時は―もちろんそれ以外の時もだけど、もう何度も遊んでいたのに、わたしは全然飽きなかった。薄い紙でできたシートは折れ目で破けて、セロハンテープで張り付けてあった。手作りの紙のサイコロがカラカラと転がる。わたしは3で、お母さんは5だった。
わたしは勝つまでやるからね―まだ雨はやみそうにないから。
おわり
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