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ぬいぐるみのフクロウ
朝。
車を駐車場に停めてから制服に着替える更衣室までの道のり。
私は足元を見ながら歩いていく。
前の日の仕事の疲れ。今日これから始まる業務。
考えながら、ぽてぽてと歩く。
私にとって、この歩き方は習慣だ。
駐車場の向こうから他部署の女の子が歩いてきた。
「おはようございます。」
その子が笑顔で挨拶をしてくれた。
私も笑顔で、
「おはようございます。」
と言ってから、いつもの癖でまた俯き気味で歩いた。
「……あのフクロウ、可愛くて。」
ふとその子が言うので、なんのことだろうと顔を上げてみた。
目の前には有料老人ホーム。
1階の部屋の窓辺に、フクロウのぬいぐるみがこちらに向けて置いてあった。
「あのフクロウ、昨日もこっち向いてて。カーテンのこっち側に置いてあるから、カーテンが閉まってても外から見えるから可愛くて……。」
その子がにこにこしながら言った。
「へー、そうだったんですね! 昨日かあ……。全然気づかなかった。」
私はそう言いながら、そのフクロウを見た。
確かに可愛い。思わず笑顔になる。
……この時私は、今まで地面ばかり見て歩いてばかりで、たくさんのことを見逃していたかもしれないな、と思った。
明日はちょっと顔を上げて歩こう。
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